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※各画像はクリックすると拡大します。

















 くま川鉄道の人吉温泉駅は、独立した改札口を持っていません。跨線橋の入り口にいる駅員に切符を渡して駅の外に出ることにしますが、JRの列車に乗り継ぐ人は、構内踏切を通って、そのままJRのホームへ向かうこともできるようになっています。その跨線橋の内壁には、両側に、晴天の球磨川?と山の絵が描かれています[①]

 JRの駅舎の前に置かれているポストは、古めかしい丸型のもの[②]。表面の状態を見てみると、再塗装されたもの特有の風合いや厚塗りされた部分があって、長らく使われてきたんだなということを感じられます。

 駅前の道をずっと真っ直ぐ進んでいくと、やがて球磨川にかかる橋にたどり着きます[⑥]。最上川、富士川と並ぶ日本最大急流の1つで、球磨川での川下りは、人吉市の名物の1つと言えます。JR九州の駅名標(JRになってから設置した新しいもの)には、その土地を象徴するものを描いた絵が入っていますが、人吉駅の駅名標に入っている絵は、球磨川での川下りです。

 肥薩線で言うところの八代方面を眺めてみます[⑦]。向こうにそびえる山々が見えますが、昨日は九州横断特急号で、あんな山の間や球磨川に沿った厳しい線形のところを走ってきたんですね。もっとも、今日はこの後肥薩線をさらに下っていきますが、人吉から先の肥薩線にはスイッチバック駅もあるなど、厳しい線路条件はこの先も続きます。

 球磨川の中に、水中でやけに長い竿を使って釣りをする人が散見されました[⑧]。先ほど乗車したくま川鉄道の普通列車の車内からも、球磨川を渡る際に、こういう人たちを見ました。水中に入って釣りをするというのは、球磨川での釣りにおける伝統的な方法なのか・・・とも思いましたが、球磨川に限らず、鮎釣りでは、こういう方法で釣りをするのはよくあることとか(友釣りという方法?)。

 人吉駅へ戻る途中で見かけた、理髪店の看板[⑨]。男女カット仕上げ1000円で、「全国一安い店」を謳っているようですが、まあ、たしかに1000円というのは安いですね。私の行きつけの理髪店は高校生で2300円ですから、その差は1300円もあります。

 駅前には、人吉城を模したからくり時計が設置されています[⑩]。3月〜10月は9時〜18時の毎時、11月〜2月は、9時〜17時の毎時00分に、約3分10秒間作動するそうです。今回、私は動いているところを見ることはできませんでしたが、人吉駅を訪れる際には、この駅前に設置されたからくり時計をご覧になってみてはいかがでしょうか。

 駅のすぐそばにある「人吉駅弁やまぐち」[⑪]。「汽車弁当」という看板を掲げていますが、そのうち、汽車という言葉も廃語になってしまうような気がします。人吉駅で販売される駅弁はこの会社が製造・販売していて、特急列車と観光列車が停車しているときには、今や珍しくなった、ホームでの駅弁の立ち売りも行います。

 さて、次に乗る列車ですが、これから乗るのは、10:08発の吉松行きのいさぶろう1号です[⑫]。「いさぶろう」という列車名をつけ、専用の車両を使用し、指定席を設け、観光案内や駅間における一時停止をするなど、実態はまさに観光列車そのものですが、終点まで各駅に停車し、席数こそ少ないですが自由席もきちんと設けておくなど、沿線住民の地域輸送をする普通列車も兼ねた列車となっています。

 いさぶろう1号が発車するホームは3番線。ホームには、「肥薩線観光列車 いさぶろう号のりば」と書かれた看板がありました[⑬]。こんな看板を用意してもらえるとは、普通列車だというのに、なかなかの待遇の良さですね。

 3番線に停車するキハ140形[⑭]。塗装は古代漆色、くすんだ赤色です。通常は2両で運転されますが、この日は、多客期ということもあってでしょう、1両を増結した3両編成での運転でした。

 いさぶろう号・しんぺい号で使用される3両の改造車のうちの1両、キハ140-2125のみは、車両中央の窓が上下方向に延長され、そこは見晴らしが良いカウンター席となっています[⑮]。この部分を見て、285系のシングルツインを思い出しましたが、あちらと違い、こちらは下方向にも窓が延長され、また3枚の窓同士の隙間がなるべく短くなるようにされています(285系は、上下段のベッドに窓を1枚ずつ、という感じですね)。































 指定席券で指定された、1号車の車内に入ります。車内はいさぶろう号・しんぺい号で運用されるにあたって大幅に手が加えられ、木材がふんだんに使われたこともあり、原形のキハ(1)40系の面影はほとんど残していません[①]。指定席の座席はボックスシートですが、ここも木材を使用したものとなり、向かい合った座席の間には固定式のテーブルが設置されました[②]
 なお、座席についてですが、写真の通りクッションが薄く、また背もたれもクッション部の高さがあまりないので、座り心地はちょっと・・・。

 遮光のための用具については、従来のカーテンに代わり、すだれが使われています[④]。すだれということで、こちらにも木が使われています。しかし、これまた「すだれ」ということで、糸で繋がれたそれぞれの”棒”の間には隙間があり、日光を完全に遮断することはできません。座席にしてもそうですが、どうも見た目重視な感があって、実用的にはイマイチ、という点もいくつかあります。

 照明は、電球色を放つ、丸型のカバーがついたものに取り替えられています[⑤]。車内はその色遣いや構成から、全体的に古めかしい感じが漂っていますが、この照明も、その雰囲気を醸し出すのに一役買っているように思われます。

 上で、「人吉駅では、特急列車と観光列車が停車しているときに、駅弁の立ち売りが行われる」と記しましたが、いさぶろう号の車内で発車を待っていると、それらしい人の姿が窓越しに確認できました。昼食をどうするのかということは一切考えておらず、また、せっかく駅弁の立ち売りという絶滅危惧種的なものにも遭遇したのだからということで、立ち売りの人から、鶏のてりやき弁当を購入しました[⑥]

 ちなみにこの駅弁は、「駅弁の立ち売りといったらやっぱり・・・」と思い、ホームに降りて買うのではなく、列車の窓を開けて、その隙間を介して購入しました。駅弁の立ち売りがよく行われていた時期を知らず、また「ぶっちゃけ飯はコンビニのものでいい」という人間ではありますが、窓を開けての駅弁購入という行為を通じて、当時の様子を想像してみました。

 10:08に列車は人吉を発車。終点の吉松まで各駅に停まるといっても、その途中の停車駅は、大畑、矢岳、真幸の3つしかありません。しかし、列車の速度の低さやスイッチバックの存在、絶景での一時停止などもあり、終点の吉松の到着は11:21。1時間13分もの所要時間です。もっとも、急ぐ旅ではありませんから、こうゆっくり時間をかけて走っていくのもまた乙なものです。

 JR九州の観光列車は、全ての列車において、女性の客室乗務員が同乗します。その客室乗務員から、沿線の観光案内などを掲載した紙が配布されました[⑧]。実は全くと言っていいほど読まなかったんですが、きちんとファイルに入れて持ち帰ってはおいたので、そのうち読もうかと思います。

 最初の停車駅、大畑に10:23に到着します[⑨]。ここはスイッチバック駅であり、列車は進行方向を変えます。ホームから、これまで進んできた方向を見ると、一見、茂みの先にも線路がずっと伸びているように見えますが、実際には行き止まりになっています[⑩]

 列車の進行方向が変わるというわけで、運転士もいったんホームに降りて、ホームを歩いて反対側の運転室へ向かいます[⑪]。反対側の運転室に乗り込んで準備が完了したら、到着時とは異なる方向へ列車が動き出します。

 大畑駅を”逆走”の形で発車した列車は、いったん、引き込み線へと入ります。大畑〜矢岳間ではループ線を通っていきますが、ループ線を進んでいくためには、いったん引き込み線に入る必要があります。引き込み線に入ったら再度進行方向を変えますが、その引き込み線には、ホームのようなものはないので、運転士は、車内を通って反対側の運転室へ向かいます[⑫]

 標準レンズで撮影したので、大きく写すことができませんでしたが・・・、ループ線からは、先ほど停車した大畑駅を眺めることができます[⑬]。それにしても、大畑駅はえらく辺鄙なところにありますね。実際、人が乗り降りする駅というより、蒸気機関車のための信号所や給水所としての役割が大きかった駅で、集落へは歩いて1時間かかるようで・・・。線路が大きく弧を描きながら、円を作るように伸びているということがよく分かる例です。

 車両中央の、窓が上下に延長されているカウンター席に、こんな絵本がありました[⑭]。1人の男性の生命の危機を、飼い犬といさぶろう号の乗務員が救ったという話で、なかなか良かったです。・・・が、裏表紙を見たときに、価格が記されているのを見てげんなりしました。「いさぶろう号・しんぺい号の車内にだけある非売品だとかいうのではないんかい」と。大畑駅で販売しているようです(伝聞・未確認・自信なし)。

 乗車記念のスタンプがあったので、押しておきました[⑮]。昨日の九州横断特急号では、客室乗務員がスタンプを持ちながら車内を歩いて、希望する人に押してもらうという形式をとっていましたが、いさぶろう号ではセルフサービスでした。まあ、車内は結構混んでいて、また、あえて立ちっぱなしという人もいましたしね。あるいは、同じ観光列車でも、こういうところに”特急”と”普通列車”の差を出しているのかもしれませんが(笑)

 肥薩線の人吉〜吉松間は、肥薩線の中でも極端に本数が少ない区間で、1日5往復の普通列車しか走りません(うち2往復はいさぶろう号・しんぺい号)。沿線の風景を見ても、たしかに民家は非常に少なく、あまり人が住んでいるという様子ではありませんでした[⑯]。一方、こちらは観光列車で、多くのお客が乗っています。単純に旅情などを追い求めるなら、この騒がしい車内は、物寂しい車窓にはちょっと似合わないかも。

 今日8月17日も、朝からすっきりと晴れていて、実に良い天気です[⑰]。冬の北東北はさすがに例外でしたが、私は、旅行中は比較的天候に恵まれる傾向にあります。ただ、個人的には、雨が降っているときの、「すっきりしない空模様の中、雨が降り、雫が列車の窓を伝わって流れていく・・・」などという、一人旅ならではの哀愁を感じられる時間がすごく好きなんですがね。

 10:49に到着するのは矢岳です[⑱]。ここはスイッチバック駅ではありませんが、5分の停車時間が設けられていて、いさぶろう号の乗客は、その5分間で、駅のすぐ近くにあるSL展示館の見学をすることができます[⑲]

 もっとも、私は蒸気機関車というものにほとんど興味がないので、5分の停車時間の間は、1909年の開業当時の風合いを色濃く残す、矢岳駅の駅舎の古めかしさを味わうことにしました[⑳]。「どうせみんなSLSLとか思っているんだろうな」と思いましたが、私と同じような考えの人がいたのか、矢岳駅の駅舎内の撮影に夢中になっている人がいました。


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