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 引き続き、人吉から先の肥薩線を進んでいく・・・のではなく、くま川鉄道に乗車して、多良木へと向かいます[①]。JR線の全線乗車を目指し、JRの路線や車両にしか興味を示さない私が、なぜ肥薩線を進んで行かずにくま川鉄道に乗るのか?そしてなぜ多良木が目的地なのか?旅行者が夜に多良木へ向かう・・・ということで、もう察しがついた方もいらっしゃるかもしれませんね。

 くま川鉄道のホームで、多良木までの乗車券を購入します。券売機は、食券の自動販売機などでよく見かける仕様のもので、出てきた切符も、食券と同じような感じのものでした[②]。なお、駅名は、JR九州の人吉に対して、くま川鉄道は人吉温泉となっていますが、両者は別々のところに位置しているということはなく、同一構内にあります。2009年4月1日に、人吉から人吉温泉に改称されました。

 列車には、思っていたよりも多くの人が既に乗っていました。そこで、運転室(後ろ側)の右側にある空きスペースに立っていることにしました。本来なら、後ろへと流れゆく車窓を見ていたいところですが、既に辺りは真っ暗になっていて、それもあまりできないので、九州横断特急5号の特急券と指定席券に押されたスタンプを乾かす作業を行っていました(笑)[③]

 私と同じように切符を集めている方々は既にご存知でしょうが、感熱紙タイプの切符って、本当にスタンプのインクの乗りが悪いんですよね。熱転写タイプの切符なら、ほどなくしてインクが勝手に乾いてくれるんですが、感熱紙タイプの切符ではインクがなかなか乾かないので、こちらから乾かしてやるくらいのつもりでなければなりません。
 で、インクが乾く前に、スタンプが押されたところがどこかに触れると、写真の右側の切符のように、インクが余計なところに付いてしまいます・・・。

 20:02、あさぎり駅に到着します[④]。あさぎりと聞くと、すぐに小田急線・御殿場線を走る特急列車を思い浮かべてしまうのは、JRの方に興味が向いてしまっている人間の性(さが)でしょうか(笑)

 そして20:12、下車駅の多良木に到着[⑤]。降りる人が降りたら、列車はすぐに湯前へ向けて発車していきました。気動車のエンジン音による喧騒がなくなると、辺りは静まり返り、元の静けさを取り戻します。














 夜の多良木駅・・・。1面1線の小さな駅で、駅の近くを通る道も、車通りはあまりありません。この駅で下車した人が去り、列車も去ると、ホームには私1人だけがぽつんと取り残されました[②]。静寂の中にこうして1人だけでいると、歩いているときの足音やスーツケースの車輪を転がす時の音が、いつもよりも耳について、気になってしまいます。

 都市部の駅は、いつでも駅に人がいますが、このようなローカル線の駅では、列車の本数が少なかったり、あるいは無人駅だったりすることで、駅に誰も人がいないことがあるということは当たり前のことです。今の多良木駅はまさにそうです。しかし、誰もいないからといって照明が消されることはありませんから、例え人はいなくとも、駅(の中)は明々としています[③]。この一種の不気味さが、実は私は結構好きなんですが。
























 で、結局何のために多良木へやってきたかと言うと、それは今晩の宿泊地がここだからということなんですが、ただ普通に宿泊するだけであれば、何もわざわざくま川鉄道に乗って多良木にまで来る必要はありません。人吉駅の近くにあるビジネスホテルにでも泊まればいいんですから。しかし、今回は多良木に宿を構えなければならなかった。人吉駅や熊本駅ではダメだったんです。

 なぜわざわざ多良木にまでやって来たのか?それは、これに泊まりたかったから[①]。夜の闇と静寂が湛(たた)えられた空間に聳え立つ、非日常な空間へと誘(いざな)う2つの赤い光を灯し、闇を遮断するかのように煌々と輝く白い光を放ち、そして月夜に最も似合う群青色を呈色する、「はやぶさ」のテールマークを携えたブルートレイン・・・。

 くま川鉄道多良木駅のすぐそばには、かつて寝台特急富士・はやぶさ号として活躍していた14系を据え置き、往年の雄姿を思い出しながら一晩を過ごせる、「ブルートレインたらぎ」という簡易宿泊施設があります。これを利用してみたかったため、わざわざ多良木駅までやってきたのです。

 車両の状態は比較的良好で、テールマーク[③]や方向幕[④]も、しっかりと蛍光灯が点灯しています。ここには3両の14系が置かれ、それぞれ開放B寝台、共有スペース(フロント)、B寝台個室ソロとなっています。1泊の宿泊料は、開放B寝台・ソロともに3000円。現役時代の寝台料金は6300円でしたが、その半分未満という安価な宿泊料です(現役時代なら、その6300円の寝台料金に加え、更に特急料金が必要になりますね)。

 寝台列車の利用が敬遠される要因として、高い寝台料金があげられることがありますが、時代遅れな開放式のB寝台車や、一般的なホテルに遠く及ばない設備と広さのB寝台個室ソロで、6300円もの寝台料金かかるというのは、たしかに高いなと感じずにはいられません。もし寝台料金が3000円であれば、利用する人はもっと多くなるかもしれないですよね。もっとも、そうすると、今度はJR側の利益が出なくなりますが・・・。

 今回私は、ソロ(の下段)の方を予約しました。フロントで所定の手続きをすると、施設の人に部屋まで案内され、利用上の諸注意などを伝えられます。それらが終了すると、いよいよ”寝台特急はやぶさ号の旅の始まり”。

 当たり前といえばそうですが、現役時代の状態を極力維持するようにされたため、全体的な雰囲気や様子は、現役時代とほぼ変わりありません。通路の照明も、当然、もともと車内に取り付けられていたものが点灯しています。追加、あるいは削減などはされていません。壁や部屋の扉なども、余計な加工等はナシ。こうして通路にいてみると、何だか、夜の東海道本線を走っているような感じがしてくるかも・・・[⑤]

 ソロの下段室の内部はこのような感じ[⑥]。こちらも、灰皿の撤去やコンセントの追設、片方の肘掛けの撤去?がされた程度で、現役時代の雰囲気は十分にあります。駅から列車に乗車して、通路を歩き、初めて部屋の中に入るときの独特の高揚感も現役時代のままかも(笑)
 なお、残念ながら、”全てが現役時代そのまま”というわけではなく、何かと制限などもありました。

●ひとつは、枕元にあるコントロールパネル。ここは通電するようにしなかったようで、ここにあるボタン類や時計は使用することができません[⑨]
●個室内にごみ箱がありますが、その利用はできません。ごみを捨てるときは、共有スペースにあるごみ箱に捨てよとのこと。
●公式サイトには「車両内での飲食は自由」とありますが、個室内での飲食は禁止。飲食の際は共有スペース(2両目)を利用せよとのこと。
●便所・洗面所は、車両にもともとあるものは使用できません。客車に隣接して追設されたものを利用することになります。
○一方、室内にはコンセントが追設され、これは携帯電話の充電などに利用することができます。

 私がこのソロの部屋の中に入って最初に思ったことは「ずいぶん広いなぁ」。昨晩、285系のソロを利用しましたが、285系のソロは、入り口に靴を脱げるスペース(階段)がある以外は、もうあとはベッドだけというものです。ところが、この富士・はやぶさ号で運用されていた14系のソロには、「歩くことができる”床”」があるんですね[⑩]。285系のソロの狭さを知っているだけに、”室内で歩ける”ということに、静かな感動を覚えました。

 ベッド(ソファー)にシーツを敷いて枕を置くと、室内の雰囲気は、さらにそれらしくなります[⑫]。夜も更けたというとき、車窓を眺めていたらだんだん眠くなってきて、そろそろ寝るかなあと思い、ベッドにごろりん。目覚めたときはどのあたりを走っているんだろうか・・・なんてことを思いながら乗車したときが思い出されるのではないでしょうか。

 富士・はやぶさ号にはシャワー室があって、そのシャワー室が利用できる・・・というのであれば一番良かったですが、残念ながら、実際にはシャワー室はありませんでした。ではお風呂はどうするのか、という話になりますが、ブルートレインたらぎの近くには公衆浴場があり、宿泊者は、そこの利用券をもらえます。ですから、入浴はできない、などということはありません。

 入浴を済ませ、夕飯も食べ、歯も磨き、さて就寝しようかというとき、私はある物足りなさを感じました。そう、それは、車両の揺れと走行音、そして流れゆく車窓。このとき初めて分かったことですが、車両があるだけでは、寝台列車で得られる独特の旅情や感覚は味わえないんです。

 走行に伴う列車独特の揺れ、一定のリズムで奏でられる走行音、次々と流れゆき刻々と変化する車窓。車両に加えてこれらがあって、初めてあの旅情と感覚を得られるんですね。そういえば、ブルートレインに乗っているはずなのに、車両はピクリともしないし、やけに静かだし、窓の外を眺めてみても、景色は変わらずずっと同じままだし・・・。どおりで、物足りなさを感じたはずです。

 ・・・とまあ、そういう細かいところに愚痴やツッコミを入れてはいけないのは分かっていますから、そこは何とか頭の中の空想で補いましょう(笑)


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