◆8月17日◆
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 岩国〜柳井間を走行中しているときのこと。「(ハイケンスのセレナーデ♪)皆さま、おはようございます。今日は8月17日、列車は時刻通り運転しております・・・」。こんなおはよう放送で目が覚めて、ちょっと廊下に出てみると、窓から朝陽が燦々と差し込んでいて[①]、今日という日の朝が爽やかに始まったことを実感します。二度寝しようかな、いやでも門司で行う機関車交換が見たいしなあ・・・。

 昨晩から全く飲み物を飲んでいないし、まず水でも飲もうか。真っ白で、何の飾り気もない冷水器だけど、袋状の紙コップを開き、水を入れて飲めば、たちまちのどが潤います[②]

 どうもまだ眠い感じがする・・・。そんなときは、冷たい水で顔を洗えばいいんだ。蛇口とレバーが特殊な構造で、しかも列車は揺れるから、手に水を溜めるのはちょっと難しいけど、そこは旅慣れた人間としての腕の見せ所[③]。口の中に痰が出て来たら、痰壺の中へ・・・。

 ・・・というのは、いずれも私の勝手な妄想。おはよう放送なんて流れるわけがありません。たしかに廊下に朝陽は差し込んでいますが、窓越しに外を見てみると、当然のことながら、見える景色は昨晩と全く同じなんですよね。少したりとも動いていない。それに、冷水器も洗面所も、物は残っていても、実際に使用することはできません。

 それでも、そういう想像や懐古と共にブルートレインたらぎを利用すれば、きっと、寝台列車時代の富士・はやぶさ号のことを思い出せるのではないでしょうか。あいにく、私は1度も乗ったことがないんですが・・・。

 宿泊予約時に、翌朝の朝食(600円)を付けておきましたが、この朝食とは弁当(幕の内)とみそ汁のこと。3両ある客車の中間の、共有スペースの車両にあるフロントで受け取ります。個室(寝台)内での飲食は禁止なので、これは共有スペースの車両で食べます。

 車内を撮影するのを忘れてしまいましたが、ここブルートレインたらぎにおける共有スペースの車両は、端っこに数区画の開放式B寝台(荷物置き場らしい)を残して、大部分の寝台を撤去し、その代わりに木製のベンチやテーブル、共有の大型テレビなどを置いたという車両です。飲食はここの車両でしてくれということですが、どうせなら、オシ14でも置いてくれれば・・・なんてね(それなら弁当だろうが何だろうが食堂車気分!)。

 朝食を終えたら、身支度を済ませて、チェックアウト。昨晩ここにチェックインしたのは20:30ごろで、今朝チェックアウトしたのは8:20ごろ。晩年の下りの寝台特急はやぶさ号は、静岡を20:36に発車して、下関に8:32に到着していましたから、実際のダイヤに当てはめると、おおよそそのような区間で乗車したことになるというところです。

 朝のブルートレインは、夜とはまた違った表情を見せます[④]。そもそも鉄道車両における”表情”とは何なのかということもありますし、また感覚的な話ではあるんですが、長距離(夜行)列車は、始発駅と終着駅では、何となくその車両の表情が違っているような感じはしませんか?長旅をする前、長旅を終えた後。いまいちとらえどころのない話ですが、なんだか、そういう違いを感じます。

 下関ではやぶさ号を下車した(と仮定する)私。下関では6分停車しますが、次の列車の発車時刻が近いので、残念ながら、その発車を見届けることはできません(と仮定する)。下関駅に停車するはやぶさ号に別れを告げ、次なる列車が発車するホームへと向かいます[⑤](と仮定する)。多良木駅のホームを、次の列車が発車するホームであると見立てておくことにしましょう。
















 ブルートレインたらぎの敷地内には、駅名標のようなものが立てられています[①]。左は多良木、右は東京。多良木を発車して湯前線で人吉、人吉から肥薩線で八代、八代からは鹿児島本線に乗り入れて東京へ向かう・・・。そんな夢を思い描いてくれ、ということでしょうか。チェックイン時にフロントで受け取る宿泊券には、「たらぎ発・夢の国行き」と記されています。

 多良木駅の駅舎[②]。昨晩は、ちょうど「木」の字のところの蛍光灯が切れているのがかなり気になったんですが、もう明るくなっているということで、蛍光灯の類は全て消灯済み。今は違和感を覚えることなく、駅舎の全体像を眺められます。

 駅舎の中は、壁や椅子、テーブルなど随所に木材が使われています[③]。他のお客は誰もいませんでした。写真の左側に券売機が写っていますが、これは人吉(温泉)駅にあったものと同仕様の、食券の販売などで使われるタイプのものでした。なお、くま川鉄道には、全線乗り降り自由の1日乗車券(1000円)がありますが、人吉温泉⇔多良木の往復運賃は1120円です。1日乗車券を使えれば、120円を節約することができましたが、ブルートレインたらぎで宿泊をすることで日付が変わるので、残念ながら1日乗車券は今回は使えませんでした。

 ホームにも、他のお客は誰もおらず[④]。この後やってくる8:35発の列車に多良木から乗車するのは、恐らく私1人だけとなるのでしょう。

 旅行中における場面の中で、1つ、私が好きなものは、このような「旅先の駅での朝」です。最寄り駅を発ち、例えば東京駅に8:30に到着するのは、実に容易いことです。しかし、それこそ熊本県内にある多良木駅ともなれば、どうでしょうか。最寄り駅をどんなに朝早く発っても、多良木駅に朝のうちに到着することは不可能です。「朝の多良木駅」にいようと思えば、今回のように、前日のうちに現地入りして、宿に泊まるほかありません。

 「旅先の駅での朝」というものは、地元からのその遠さゆえ、宿や夜行列車を使わなければ味わえない。「旅をしているからこそ」のものに、私はとても魅力を感じますから、こういった「旅先の駅での朝」は、好きな物の1つとして挙げられるのです。

 閑話休題。8:35発の人吉温泉行きの普通列車がやってきました[⑤]。昨晩乗車した湯前行きは1両編成での運転でしたが、今朝の人吉温泉行きは2両編成での運転のようです。くま川鉄道では、1両の列車は必ずワンマン運転で、2両以上の列車は必ず車掌が乗務するようになっています。

















 昨晩の湯前行きの列車はロングシートのみでしたが、この人吉温泉行きの列車は、前寄りの車両にクロスシートがありました[①](後寄りの車両は確認していませんが)。そのうえガラガラでしたから、これはもう迷うことは何もないと、進行方向左側のクロスシートに座ることにしました。

 8:47に到着するあさぎり駅は、湯前線内で唯一の列車交換可能駅です。ここで湯前行きの列車と列車交換を行いましたが、湯前線では、閉塞の方式にタブレットとスタフを採用しているので、あさぎり駅で列車交換が行われる場合は、タブレットの受け渡しがされる光景を見ることもできます[②]

 球磨川を渡ります[③]。いいですねえ、こうやって遠目に見てみても、水が澄んでいることがよく分かりますよ。日本には数多の川がありますが、底が全く見えないほど汚いものもあれば、球磨川のように、底が見えるほど澄んでいるものもあります。どちらの方が良いかといえば、もちろん後者です。緑のある綺麗な車窓に似合うのは、水の澄んだ綺麗な川です。

 その球磨川を渡った先にある駅が川村ですが、間もなく川村に到着するというとき、列車は突然急ブレーキをかけて停車してしまいました。どうしたのかと思って前方を見てみると、踏切に進入しかけているトラックが見えました。随分なことをしてくれたなと思いましたが、その踏切は、遮断機も警報機もない、4種類ある踏切の中でも最も危険な、第4種踏切でした[④]

 やっぱり、遮断機や警報機がないと、心理的に「渡れそう」という感じがしてしまうんでしょうかね?(川村駅の場合、人吉温泉行きの列車は、曲線からこの第4種踏切に入るようなので、トラックの運転手は、本当に列車が見えていなかった可能性もありますが) 心理的な抑止力という点においての、遮断機や警報機の重要性というものを感じました。

 列車はここまで、いかにもローカル線という風情のあるところを走ってきましたが、終点の人吉温泉駅が近づくと、車窓には、人吉の市街地の光景が広がります[⑤]。列車は終点の人吉に、9:10の定刻に到着しました。


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