●9月2日●
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−Day:3 海を渡って離島の世界へ−

※各画像はクリックすると拡大します。











 日付は変わって9月2日です。最北の地から見る日の出はどんなものかな・・・?[①] まあ、最北の地で見る日の出だからと言って、何か特別なことがあるわけではありませんでしたが、空を見ると、今日も雲ひとつない快晴です。今回の旅は、ここまで、非常に天気に恵まれています。もう少し早く起きていれば、まさに水平線から太陽が姿を現すその瞬間を見られたかもしれません。

 さて、せっかく稚内まで来たわけですから、そのまま鉄道で帰っていくのは、あまりにももったいないです(夜行特急の利尻号があれば、昨日の上り利尻号に乗っていたかもしれませんが、もう走っていませんから・・・)。何かをしてから帰りたい、と。

 かねてから、私は、離島の訪問に興味を抱いていました。そこで今回、稚内市の西に浮かぶ利尻島を訪れて、その夢を叶えることにしました。また、同時に「離島で車を走らせる」ことにも興味を抱いていたので、6月に免許を取得したということもあり、利尻島でレンタカーを借り、島の外周を走りつつ、主だった観光スポットを巡ることを決めました。

 稚内サンホテルから歩いて10分ほどのところにある、稚内フェリーターミナルにやってきました[②]。旅の中でフェリーに乗るなどというのは、初めてのことです。鉄道以外の交通機関としては、バスに乗ることはありましたが、船は今まで一度もありません。また、この後、利尻島で車を運転しますが、レンタカーを借りて車を走らせるというのも、初めてのことです。

 稚内と利尻島を結ぶフェリーは、一等船室と二等船室の二種類を持っています。稚内〜利尻島(鴛泊港)間の所要時間は、1時間40分〜50分ほどで、二等船室でもなんとかなりますが、二等船室は「事前予約はできない」「定員になり次第乗船を断る」といった脅しがあったのと、はるばる茨城からやってきた記念に、ということで、今回は、一等船室(和室)を選びました[④]。一等船室は、電話・インターネットで事前予約ができます。

 窓口で乗船券を受け取った後、階段を上って2階へ。駅における改札口に相当する「乗船口」は、2階にあります。フェリー乗り場は1階と同水準の高さにあるのに、なぜいったん2階に上がらなければならないのか、よく分かりませんが・・・。2階の乗船口前の待合所からは、鴛泊港行きの15便に使用されるフェリー、「サイプリア宗谷」が見えました[⑤]。定員600人ということで、たしかにそれなりに大きいですね。

 どうも今日は団体客が入っているらしく、乗船口の前では、団体客が列をなして改札の開始を待っていました[⑥]。函館や札幌といった北海道のほかの場所とは違い、利尻島は、夏季しか観光することができません。冬は登山はできず、花も咲かず、サイクリングもできず、レンタカーも営業しません。フェリーも欠航を連発し、まともに行き来できるかどうかも怪しいです。私も含め、観光客は、この夏季に何とかして行くしかないんです。

 乗船口には、自動改札機が導入されています[⑦]。この機械に乗船券を通すと、乗船券のバーコード部分に2本の黒い線が入れられ、改札済みであることを証明します。わざわざ自動改札機を置いているくらいなので、本来は、乗船口は無人なのでしょうが、今日は団体客がいるということもあってか、手助け役の係員が乗船口に立っていて、乗客に代わって乗船券の投入を行っていました。
























 フェリー乗り場と船体の間に架けられた橋を渡って船内に入ります。エントランス[②]を抜けると、右手に売店があり、左右それぞれの通路から客室へ向かうようになっています[③]。一等船室(和室)は、エントランスホールから最も近いところにある客室で、障子風の壁を持ち、入り口には扉があり、室外の通路や二等船室とは隔離された空間となっています[⑥]

 「和室」ですが、さすがに畳敷きではなく、絨毯が敷かれています[⑧]。ただ、遮光には障子を用い、荷物入れは木でできているなど、絨毯敷きになっているところ以外は、和室そのものです。床の間も設けられていて、そこには花瓶が置かれています[⑨]。液晶テレビも設置されていますが、操作権は旅客が持っているようで、チャンネルなどは、自由に操作できるようになっているようです。

 室内には、毛布と枕が並べられています[⑩]。一人あたりのスペースが大きいかと聞かれれば「そうでもない」というところで、雑魚寝の二等船室と何が違うんだろうと思わないでもありませんが、和室の一等船室は「半個室」なので、同じ場所に一緒にいる人が少ないという利点はあります。ま、もっと言えば、そんな二等と大差ない一等をわざわざ選ぶ人はほとんどいないわけで、結果として少人数で広々と使えるということなんですが。

 乗船券で指定された9番は、部屋の最も奥のところでした[⑪]。私は使いませんでしたが、コンセントが近くにありましたから、携帯電話の充電などをしたい方は、ここが当たれば幸運というところでしょうか(恐らく本来は掃除機用)。各人に1枚提供される毛布には、就航船の名前が刺繍されていて、今回の場合、「サイプリア宗谷」の刺繍がされていました[⑫]。なお、夏季であれば、毛布はまず必要ありません。

 障子を開けると、窓越しに外の風景が見えます[⑬]。フェリーの窓越しに見る日本海の景色はどんなものでしょうか・・・と言いたいところですが、せっかくのフェリーです。雄大な海の景色は、こんな小さな窓の向こうに見ても、魅力が半減するだけです。

 フェリーで海の景色を堪能するならば、やっぱり屋外のデッキですよね[⑭]。屋外のデッキは、ただ視界が広いだけではありません。フェリーの唸りを上げるエンジン、その排気煙、潮風の香りと、フェリーの乗船客だけが体験できる要素を、一度に味わうことができます。屋外のデッキには、プラスチック製の椅子もありますが[⑮]、やはり、屋根の下の椅子ではなく、日差しのかかるところで「海」を味わいたいものです。

























 船旅が始まる瞬間は、やはりデッキで見届けたいものです[②]。様々な作業が終わり、汽笛を鳴らしてゆっくりと船着き場を離れていくその瞬間・・・。行きであれば、それは、これからの船旅と目的地での観光に心を躍らせる瞬間となり、帰りであれば、それは、目的地で作った思い出を抱きながら迎える、別れの瞬間となります。人の見送りがあれば、なおさらでしょう。

 フェリーを係留するロープを外す作業が進んでいます[③]。最後まで船着き場とフェリーを結んでいたロープが外されると[④]、フェリーは、海の上に単独で浮かんだ状態となり、出航の準備が整います。7:15、鴛泊経由香深(礼文島)行きのフェリーが、稚内港を離れました[⑤]

 所詮は船ですから、スピードは出ません。ただ、稚内の街並みが徐々に徐々に小さくなっていくのを見ると、やっぱり「旅立ち」の気持ちが強くなってきますね[⑥]。北海道という、本州から切り離された「島」に来ただけでも、旅人としての熱い思いが十分に掻き立てられますが、北海道の本土を離れ、日本海に浮かぶ離島・利尻島に向かうとなると、その思いが二重に掻き立てられ、沸き上がるように思います。

 稚内港を離れると、何やら歌が流れてきました。

           流氷融けて 春風吹いて ハマナス咲いて カモメも啼いた
                          遥か沖行く外国船の 煙もうれし 宗谷の岬・・・


 この歌は、ダ・カーポの「宗谷岬」です。ハートランドフェリーの船内では、稚内港への入出港時に、この宗谷岬が、BGMとして流されます。宗谷・稚内の風景を歌った歌だけに、最果ての海を航行するフェリーの船内で聴くと、まるで歌詞が頭の中でそのまま映像化されるようで、歌の魅力がより一層伝わってきます。なお、鴛泊・沓形(利尻)の入出港時には、島望とファンタジック東京の「島を愛する」が流れます。

 稚内港を出てしばらくすると、進路を左に変えて航行します[⑧]。スクリューによって泡立った海水が、船の軌跡として海上に浮かび上がります。そして、デッキから目にすることができる、上を見ても下を見ても青しかないという光景は、どこか衝撃的ですらあります[⑨]。空の青も海の青も一様に鮮やかで、それを邪魔するものは何もありません。

 最初は小さく見えていた(と言っても、稚内と利尻島は近いので、茨城から見る富士山などと比べればはるかに大きい)利尻島も[⑩]、航海が進むにつれて、だんだんと大きくなってきます[⑪]。利尻島に聳える利尻山は、左右の傾斜がなだらかで、もっとも標高の高い頂点が山のほぼ中央にあり、均整がとれています。富士山に準えて「利尻富士」と形容されるのも分かるような気がします。

 ハートランドフェリーは、車両の航送も行うので、船体には、自動車やバイクも収容しています[⑫]。車の運転席に留まりながら新聞紙を読みふけっている人がいましたが、車の運転席はたしかに狭いものの、フェリーの客室で知らない人にもまれるよりは快適なのかもしれません。

 わざわざ高いお金を払って一等船室に乗ったのに、なぜかデッキにいる時間の方が長いという状況になりつつあったので、最後の方は、自分の客室で過ごすことにしました。そうしないと、二等でも十分だったじゃないかと自分でも納得してしまいかねないので・・・。窓越しに外を見てみると、利尻島の姿はさらに大きくなり、利尻山の表面の覆う木々の緑や、その”溝”がはっきりと分かるようになってきました[⑭]

 5分ほど遅れて、15便は鴛泊港に入港しました[⑮]。15便は鴛泊経由の香深行きなので、この後、さらに礼文島の香深港へ向けての航行が残っています。しかし、団体客を含むほとんどの乗客は鴛泊港で下船したようで、船内はほぼ空になっていました(稚内フェリーターミナルで礼文行きの改札を通った人は誰も見ませんでしたが・・・)。まあ、鴛泊を経由してから香深に向かうので、直行便よりも時間がかかりますからね。

 さて、いよいよ利尻島にやってきました。利尻島の訪問は、今回の旅が「ただ鉄道に乗っているだけの旅ではない」ことを象徴するもののひとつです。今回は日帰りであり、島への滞在時間は5時間30分ほどですが、その中で、利尻島の折々の風景を堪能してきましょう。


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