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 札幌駅にやってきました。8月31日、札幌6:07着の急行はまなす号で札幌駅に降り立ち、北海道旅行の幕が開けました。夜行列車によって始まった旅が、夜行列車によって終わろうとしています。しかし、はまなす号は急行列車で、しかも座席車もあるという庶民的列車。一方、これから乗るカシオペア号は、全車2人用A寝台個室という豪華列車。同じ夜行列車でも、全く違う時間を過ごすことになりましょう。

 カシオペア号の発車まではまだ時間があるので、駅の外に出ます。北海道に来るのは今回が4度目であり、今となっては、駅併設の大丸も[①]、青空に向かって伸びるJRタワーも[②]、そしてエスタも[③]、すっかり馴染みのある見慣れたものに見えてしまい、これから「帰る」という思いが湧いてきません。道民の感覚になっているというか、「これから札幌を離れて出かけてくる」という気分にさえなりかけます。

 コインロッカーからスーツケースを取り出し、パブタイムまでの繋ぎとなる食料などを買い込み、いざ4番線へ。一人旅をする人間が立つところは、普通ならば、北斗星号の乗車位置なはずですが・・・、殊に今日の私に限っては、その右隣のカシオペア号の乗車位置のところに立ちます[⑤]。カシオペア号の乗車位置に立っている他の人たちを見ると、やはり最低でも2人組以上であり、私のような単独の者はいません。まあ当たり前ですか。

 4番線の発車標に現れたカシオペア号の表示[⑥]。札幌はまだまだ明るいですが、上りのカシオペア号の札幌発車は16:12です。明るいうちに出発するというところに、超長距離の夜行列車らしさを感じます。上りのカシオペア号を使う人は、ほとんどが首都圏からの観光客のその帰りでしょうから、上野の到着を遅くしてでも札幌の発車を遅くできれば、より良い列車になるように思います。

 発車標に行き先として表示される「上野」の2文字[⑦]。札幌駅の発車標では、行き先の駅名は基本的に緑色で表示されますが、寝台特急に限り、赤色で表示されます。ささやかなことですが、特別な列車として扱われていることを感じます。

 4番線で待つこと約10分、間もなくカシオペア号が入線するという放送が流れました。発車標の下段に出ていた小樽行きの区間快速の表示が消え、「列車が到着します。」の表示が出ました[⑨]。寝台列車に乗るときは、私は、いつも入線の段階からどこか緊張してドキドキしてしまいますが、今回に限っては、その緊張感が普段よりも大きいような気がします。「カシオペア号に1人で乗る」という愚行に対する気恥ずかしさのためでしょうが(笑)

 そして16:03、DD51形に牽引されてカシオペア号がやってきました[⑩]。下りのカシオペア号は、上野16:20という発車時刻に対して45分も前の、15:35に上野駅13番線に入線します。そこまで早く入線しろとは言いませんが、発車9分前というのは、ちょっと余裕がなさすぎて嫌ですね。札幌駅に次々と到着する列車を捌くためには、特定の番線に長い間列車を停めておけないという事情があるのは分かりますけどね・・・。



















 ついにカシオペア号が入線してきました[①]。札幌駅を発着する他のどの列車とも似ても似つかないその車両、いかにも旅行者という重装備な人たちが集うホーム、E26系を写真に収める人たち、乗りはしないけど興味本位で中を覗いてみる人たち・・・。今、札幌駅の4番線には、普段とは全く違う独特の空気と雰囲気が醸成されています。

 発車までは9分しかありませんが・・・、とりあえず、自分の部屋に行きましょう。今回入手した寝台券はカシオペアツインのもので、カシオペアツインの中でも、補助ベッドを展開することで3人でも利用できるというタイプの部屋です。マルスには「カシオペアEX」の列車名で収容されています。寝台券で指定されている9号車1番の部屋へ行き、扉を開けてみると・・・、そこには、1人で使うには過剰とも言える広さの部屋がありました[②]

 なんというか、とにかく広いです。思わず「広”すぎる”なぁ」という言葉が出そうになりました。それもそのはずでしょう、カシオペアツインは2人用の個室ですから、もともと1人で使うにはちょっと広いわけですが、今回私が利用するカシオペアツインの部屋は、「補助ベッドを展開すれば3人でも使える」タイプのものです。3人で使うことを想定した部屋を1人で使うわけですから、そりゃあ広すぎると思って当然ですね。

 部屋に入って右側にあるベッドには、寝具類が置かれています[⑤]。まず間違いなく使うことになるであろう2人分の寝具類はそのまま置かれていますが、3人目の分の寝具類は、ビニール袋に入れられた状態で置かれています。ビニール袋が裂かれていれば使用されたと見て洗濯し、未開封であれば、そのまま次の営業運転に回す。3人目の分がビニール袋に入れられているのは、無駄な洗濯を避けるためなのでしょう。

 補助ベッドは空中に展開されるので、部屋の中には、そこへ行くための階段があります[⑦]。階段と言っても、鉄道車両の寝台個室という限られた空間の中にあるものなので、1段1段の面積は、片足しか置けないくらいのものです。なお、開放式B寝台にあるような梯子とは異なり、この階段は、完全な固定式です。着脱可能な梯子にすれば、空間をより広く使えるようになると思うんですが・・・。

 さて、間もなく発車時刻です。再度4番線ホームに出てみると、車両に降り注ぐ光が幾筋かの線を描いていて、その光を反射する銀色の車体とも相まって、なんとも言えぬ神々しい雰囲気が醸し出されていました[⑩]。終点の上野までの約17時間の道のりが、いよいよ始まります。

 従来の普通の夜行列車と違い、観光客が主な利用客であるからか、カシオペア号の出発には、「別れ」「旅立ち」「憂鬱」「気だるさ」「郷愁」といったものの雰囲気を感じません。乗り込む人たちは、「ああ、これで旅行も終わりか」と残念がっても、決して暗い気持ちにはなりません。旅行の終わりを残念だと思いつつも、皆明るい表情で、旅の楽しさを思い出したり、一度は乗りたいと思っていた列車に乗れたことを喜んでいるようでした。

 それは、夜行列車が「出張」「上京」「帰郷」「別離」といったことでの移動手段から外れ、新聞やテレビで「希少なもの」として取り上げられたり、旅行会社に「憧れの〜」などと持て囃されたりしたことで、「非日常な」列車に成り下がったからこそ生まれたものだとも言えます。夜行列車がもっと一般的な手段であった時代を知り、懐かしむ人には、いったいどう映るでしょうか。


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