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世の中の情勢に疎くなった自分に、現実の日常の世界を垣間見させる・・・。同じ「列車内で読む新聞」でも、そのときの「心の余裕」が全く違う。休日、モーニングコーヒーを飲みながら新聞のページをめくっていくあののどかな朝が、列車の中で再現された。
 北の大地の夜は、まだ明けきらない。しかし、ひとたびある程度の明るさに至ると、そこからは数分単位で一気に明るくなっていく。
 夜空の黒さを湛える内浦湾を見ながらモーニングコーヒーを飲んでいたら、いつの間にか、対岸の山がはっきりと見えるくらいの明るさになっていた。波飛沫の白、雪の白、そして雲の白が持つ「白さ」を、白いものとしてきちんと視認できるようになった。夢見る一夜はいよいよ終わりを告げ、水平線の下から迫りくる朝を出迎える時間がやってきた。
 白んでいく北の大地。カシオペアの寝台は全て内浦湾側にあり、展望スイートを除く全ての客が、同じ景色を見る。黒く霞んだ世界が晴れていくその様に、同じものを見つめる人々は何を思うのだろうか。
2月18日 朝6:30 カシオペア、起動
 6:30ごろ、昨晩の仙台発車後のものを最後に休止していた車内放送が再開した。また、食堂車からモーニングタイムの営業を始めるという案内も入った。夜間、人も施設もサービスも眠りに入っていたカシオペアであったが、その眠りから覚め、いま起動した。
 車内放送再開後の最初の停車駅は、6:43着の長万部。ここへの到着前の放送から、自動放送による車内放送も再開となる。もう8割方の人は起きていることだろう。
 全車個室寝台であるが故、他の乗客の様子は、一切窺い知れない。これが開放寝台車であれば、カーテンの開閉状態を見ることで、起きているのかどうか、あるいは下車したのかどうかなどが分かる。壁面のジャンプシートを引き出し、それに座りながら、北の大地の車窓を眺める人もいることだろう。
 さらに、カシオペアの場合、全ての部屋に洗面台があるから、「車端部の洗面所に行ったら、歯磨きや髭剃りをしている先客がいた」などということもない。朝ぼらけの夜行列車でのお約束が通じない列車なのだ。
 もちろん、これは、最新の(1999年登場だが)寝台車が見せる「現代的な夜行列車」にして「理想の夜行列車」であることを忘れてはならない。人々の生活様式や志向の変化に合わせた改革を行いきれず(もっとも、その「親」が行わせなかったとも言える)、時代に
取り残された夜行列車たちが、これまでに次々と脱落していったのである。見知らぬ人との一夜限りの出会いが夜行列車の魅力、と言う人もいるが、現代を生きる人たち全てが同意してくれるわけではない。
 6:40過ぎ、食堂車へ繋がる電話を使って、洋定食のルームサービスを注文した。ルームサービスは昨晩のパブタイムで利用したため、モーニングタイムの朝食は食堂車で食べようかとも思ったが、せっかくカシオペアスイートを利用しているのである。それに乗っているからこそできることをするべきではないか、と。権利は行使しなければ、そもそも存在しないのと同義である。
 しばらくして、食堂車の係員が配膳にやってきた。最上級個室を利用しているといえども、申し訳なさも感じるような面倒事をお願いしているのだが、嫌そうな顔を一切せず、こちらから食堂車へ行くときと遜色のない接客態度をしていたのは良いことである。
 以前は、洋定食につくジュースは、リンゴとオレンジの選択式であったが、知らぬ間にクランベリージュース一択になっていた。少なくとも昨年末までは選択式だったのだが。経費削減かと疑るのも悪くはないが、「リンゴだけ」「オレンジだけ」ではなく、新しい種類のものになったのだから、まだ印象は良い。食後の飲み物は、以前より引き続き、ホットコーヒーと紅茶から選択できる。
 夕飯が8500円のフランス料理と6000円の懐石御膳という高級路線に走っているのに対し、朝食は1650円の洋食か和食で、夕飯と比べると、至って「平凡」である。内容も値段相応の量と味だ。しかし、「豪華寝台特急」としきりに言われるカシオペアにも、このような庶民的な要素がきっちりと組み込まれているところには、何かニヤリとしたくなる。ふと思い立ってふらりと立ち寄りたくなる、古き良き列車食堂の大衆性が残されている。
 繰り返しになってしまうが、車窓を眺めながらの食事は素晴らしいもので、スマートフォンや携帯電話を眺めながらの食事の3倍や4倍はおいしいと言える。もちろん、まずいものが勝手においしくなるわけではなく、もとよりおいしいものが、更においしくなるのである。車内で調理しただけのことはある。
 銀世界と内浦湾を横目に食べる朝食。取り立てて高級なものを食べているわけではないが、寝台列車に乗りながらこのようなことをするという行為は、たいへん贅沢であるような気がする。もっとも、当の我々には、当時
▲暁の内浦湾を眺めながらモーニングコーヒーを飲む 不思議と心が落ち着く
▲内浦湾とその向こうの山々 森から東室蘭まで列車は180度向きを変えるように走る
▲間もなく長万部に到着する ここから室蘭本線へと路線を変える
▲貨物列車とのすれ違い この後海峡を越えて本州へと渡っていくのだろうか
▲洋朝食をルームサービスで食す 権利は使わなければ存在しないも同じ
▲自室でゆったりと食事ができる 車窓を眺めながら摂る朝食は素晴らしい







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