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 寝台特急カシオペア。1999年に新製車両であるE26系客車を引っ提げて登場した、日本で最も新しい寝台列車だ。全車2人用A寝台個室という超豪華仕様、上野〜札幌間17時間超の所要時間など、安さとも速さとも縁のない列車である。
 安さとも速さとも縁のない列車。それは、これまでに廃止されてきた寝台列車群そのものである。1999年に製造されたE26系を使用しているという点では、車両が新しいことはたしかであるが、それ以前に列車自体の実用性・利便性がほとんど伴っていない。
 しかし、このカシオペアという列車が、登場時から高い人気を保ち続けていることは、今更説明するまでもないであろう。新幹線や航空機に対抗する姿勢を見せることすらなく、豪華な設備とおいしい料理、そしてゆったりとした時間を過ごせる「列車の旅そのものを満喫すること」を売りにして、この列車はひとり別の世界を闊歩している。
 景気の良し悪しにさえ影響されることなく、デフレだの不況だのといった言葉に知らん顔をしているかのように、今日も上野〜札幌間を優雅に走るカシオペア。どんな時代も常に高い人気を保ち続けるこの列車の真髄は、いったいどこにあるのだろうか。
 カシオペアの運転開始から17年目を迎えた2015年、2月17日上野発の下りカシオペアに乗車し、その真髄を探ってみた。
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 様々な装いの人が行き交う上野駅中央改札口。これが年末年始であるとか、あるいはゴールデンウィークであるとかいうならば、遠距離を旅行する格好の人ももう少し多いのかもしれないが、特に何があるわけでもない平日・火曜日の真昼間である。混んでいるわけでもなく、しかしスカスカというわけでもない、いたって普通の平和な日だ。
 しかし、行き交う人たちの中には、やけにそわそわした人たちがいる。発車標のある列車を指さして何か話し込む人、そしてその列車名を撮影する人。彼らが注目しているその列車こそが、16:20発の札幌行きの寝台特急・カシオペアである。
 北の玄関口という言葉もすっかり死語になってしまった昨今の上野駅においては、在来線の発車標に現れる「札幌」の2文字は、否が応でも目立つ。鉄道における長距離輸送の主役が新幹線へと移行した今、かつて上野駅を発着する在来線特急たちが行き先
としていた「(新)青森」「秋田」「山形」「新潟」といった駅名は、新幹線の発車標でしか見られなくなってしまった。
 現在の上野駅の主役は、郊外の街を行き先とする近郊列車である。発車標を見ても、籠原、前橋、宇都宮、小金井、土浦、取手など、上野からそう遠くはないところを行き先とする普通列車や快速列車が大半を占めている。それでも「北の玄関口」の面影を見つけるならば、ここがそういった列車の「始終着駅」となっているところにそれを見出すことができよう。しかし、上野東京ラインが開通すれば、上野駅は途中駅に成り下がる。
 そして北斗星・カシオペアの廃止が訪れれば、北の玄関口という言葉は、いよいよ記憶の彼方に消えてしまいそうである。
一味違う雰囲気が漂う13番線
 カシオペアが発車する13番線には、15:30発の前橋行きの普通列車が停車していたが、それに乗らずにホームに留まる人が多いことに気がつく。カシオペアの入線を待ちわびる人たちであろう。
 下りカシオペアは上野16:20発であるが、入線時刻は15:35であり、なんと発車の45分も前に入線してくる。「憧れの列車・寝台特急カシオペア」に乗れるとなれば、やはり入線するところから見たい、と思っている人のなんと多いことか。しかし、自分もこうして入線時刻よりも前に来ているのだから、彼らの気持ちはとてもよく分かる。
 15:30発の高崎線・前橋行きの普通列車の発車時刻が近づくと、それに向かって駆けていく人が多数見えた。発車の45分以上前からホームで待機する、カシオペアの利用客とはまるで対照的である。
 これから始まる上野〜札幌間17時間超の旅路は、そんな「時間に追われる日常」からの解放の場である。時間をかけぬことが良しとされる世界からの脱却であり、時間をかける楽しさを知る世界への昇華である。「発車の45分以上前からホームにいる」という行為は、非日常的な世界へ飛び込めることへの期待と喜びの表れと言っていい。
 上野駅13番線には、五ツ星広場なる寝台列車の利用者専用の待合所がある。といっても、ただ椅子がずらずらと並べられただけの空間なのだが。壁にはE26系と同じ5色の色帯が走り、北斗星とカシオペアを描いたポスターが掲出されている。
 その壁やポスターを撮影する初老の男性を見て思う。ああそうか、この人にとっての「旅」
▲上野駅中央改札口の東北本線の発車標に、カシオペアの表示が現れた
▲上野駅で見る「寝台特急」の表示 長距離列車の巣立ちが似合う駅だ
▲北の大地の駅名が旅情を誘う
▲人のことは言えないものだが、やはり皆気が早い 先発の普通列車がまだいるのに
▲16:20の発車までまだ50分ほどある 「駆け込み乗車はもったいない」のがカシオペア
▲13番線には寝台列車利用者専用待合所「五ツ星広場」がある
▲五つ星広場にあるカシオペアのポスター 星の海を走る姿が思い浮かぶ
▲北斗星のポスターもあるが、機関車はEF81形のまま 相当古いものに見える





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