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は既に始まっているのだな、と。見るもの全てが新鮮で価値のあるものに見え、見るものは何でも記憶し、写真にしてしまいたくなる時間。それが旅というものである。男性は、早くも旅の世界に飛び込んでいたようだ。
誰もが憧れる貴重な列車
 15:35になると、いよいよカシオペアが13番線に入線してくる。入線するという放送が流れるとすぐにやってくる電車と違い、客車、それも推進回送でやってくるカシオペアは、その姿を現すまでに少し時間がかかる。
 やがて、1号車を先頭に推進回送でカシオペアが入線してくる。銀色を纏った”今風な”ステンレス車体と展望スイートの大きな窓が目を引くその姿は、客車というよりも、ちょっとした新型の電車にさえ見える。
 ゆっくりとホームに滑り込み、その姿を見せつけるかのような入線シーンは、どこか厳かでさえある。発車の45分も前に入線してくるというところにも、特別急行、そして長距離列車としての風格が漂う。発車時刻が16:20というややキリの悪いものでなければ、なお素晴らしいと思うのだが、それは望みすぎか。
 カシオペアが入線してくると、その入線を待ちわびていた人たちは、機関車、1号車、ロゴマークなどなど、各々が撮りたいものがあるところへ分散していく。その全てが今日これからカシオペアに乗る人かといえば必ずしもそうではなくて、ただただ興味本位で様子を覗きに来ただけと思われる人の姿もあれば、今日は写真を撮りに来ただけと思われる人の姿もある。いずれにせよ、一列車がこれほどの注目を集めるというのも珍しい。
 だが、カシオペアという列車が、他の注目を集める列車・車両と決定的に違うのは、特に鉄道に興味はないという人たちにさえ存在と名前を認知され、注目されているという点ではないだろうか。
 「憧れの・・・」とか「豪華寝台特急」といった言葉は、旅行会社が製作するパンフレットにおける、カシオペアの枕詞とも言える。こうした言葉を伴い、一般にも広く認知されたカシオペアは、誰もが一度は乗りたいと憧れる列車になったのである。
 もちろん、カシオペアという列車が憧れられているのは、著名な観光地・北海道は札幌を行き先としているからではないだろう。全車A寝台車という非常に高価な価格設定でありながらも、その価格に見合うだけの設備やサービスが提供され、その価格に見合うだけの素晴らしい時間を過ごすことができることが約  
束されているからである。
 もっとも、カシオペアに使用するE26系が1編成しかなく、1日1往復運転することすら不可能で、「寝台券の確保は難しい」という希少性が果たしている役割も大きい。これが新幹線のように高頻度で運転されるものであったなら、ここまでの人気を獲得してはいまい。
 13番線にカシオペアが停車している45分間に、他の路線では、いったいいくつの列車が発着していることであろうか。山手線と京浜東北線は特に運転間隔が短く、5分間隔であると仮定すると、この45分の間に9本の列車が発着できることになる。
 同じ上野駅でも、他のホームではそうしてせわしなく時間が流れるが、殊にここ13番線では、まるで時間の流れが止まっているかのようである。カシオペアというひとつの列車が、45分にも渡って、ひとつのホームを占領し続けているのだから。その間、その列車は微動だにすることなく、機関車は行く先のレールを照らし、最後部にある展望スイートは、一種のショールームと化して、人々の注目を最大限に集める。
 カシオペアという列車が13番線に停車しているときに感じるその存在感は、まさに圧倒的と言って過言ではない。
車内へ入るその瞬間 緊張の一瞬
 今回私が乗車するのは、1号車3番のカシオペアスイートである。カシオペアには過去2度乗車しているが、どちらのときもカシオペアツインであった。A寝台と言えども、カシオペアでは最下級のものであり、北斗星においてツインデラックスやロイヤルに乗車するときのような高揚感は無きに等しかった。
 展望タイプのカシオペアスイートがある以上、メゾネットタイプのカシオペアスイートでは、カシオペアの最上級寝台に乗ったとは言えまい。とはいえ、カシオペアスイートに乗車するとなると、さすがに気分は違う。1号車のデッキに足を踏み入れる際、一種の緊張が走ったのは、決して嘘ではない。
 1号車の廊下は実に静かであった。始発駅を発車する前の寝台車というのは、開放寝台であれ、個室寝台であれ、身辺の整理に伴う物音や、人々の話し声がして、若干の騒がしさがあるものだが、それがなかった。
 水を打ったような静けさが支配する1号車。静音撮影モードにしたカメラのシャッター音でさえ憚られるような静けさの中、我が部屋の3番室へ向け、歩みを進めた。廊下に敷かれた絨毯の感触をどこか気持ちよく感じつつ、
▲1号車を先頭に入線するカシオペア まるで新型の電車かのようだ
▲新世代の寝台特急を予感させたE26系の造形美 今も変わらぬ美しさ
▲薄暗い上野駅13番線 そこに圧倒的な存在感を放つ列車がいる
▲期待を胸にカシオペアに乗り込む人たち 長い旅路が始まる
▲EF510形が青森まで牽引する 青き夜空には青い機関車が似合うことであろう
▲ここから続くレールが列車を札幌へと導く
▲極上のひとときを約束する空間が1号車の乗客を出迎えようとしている
▲木目調の部品で仕上げられた廊下 1号車は全てカシオペアスイート





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