※各画像はクリックすると拡大します



3番室の前へ。たかが1枚の扉、されど1枚の扉。廊下と室内を仕切る「3|1号車」と書かれた扉と対峙したその瞬間、緊張と共に、一種の「ワクワクした気持ち」が湧いてきた。
 カシオペアスイートとは恐れ多い、いやしかし、いよいよデラックスも飛び越えてスイートに乗れるのか。心は迷いに落ちた。
快適を約束する至福の空間
 カシオペアスイートと言うと、どうしても1号車1番室の展望タイプばかりが注目され、1号車・2号車にあるメゾネットタイプは影が薄い感がある。しかし、部屋の扉を開けた瞬間に視界に入る階段を見て、ふと思った。「鉄道車両の個室で、1つの部屋の中に2階と1階という概念があるものは、他にない」と。
 展望タイプの後面展望のような圧倒的特徴はないものの、部屋の中に階段があり、2階と1階が存在する寝台個室は、唯一無二である。展望タイプの横方向の占有感はないが、代わりに縦方向の占有感が大きい。
 2階はリビングとして設定され、向かい合わせにソファが配置されている。2階という高い視点からの眺めを楽しみながら、2人の会話が弾みそうだ。一方、1階は寝室として設定され、ベッドが2台、レール方向に配置されている。2階のような見晴らしの良さはないが、重心の低さから来る揺れの少なさは、我々に良好な寝心地を提供する。
 2台置かれたこの「寝ることだけを考えたベッド」の寝心地は抜群だ。ロイヤル、カシオペアデラックスでさえ、「ベッド兼ソファ」あるいは「ソファ兼ベッド」であり、どちらとして使ってもそこそこに快適なのは間違いないのだが、極上の快適さかと言えばそうではない。一方、カシオペアスイートでは、「ベッドはベッド」である(2階のソファはベッドに転換可能)。寝ることだけを前提に設計した「ベッド」には、ベッドとソファの折衷品では実現できないような心地良さがあり、何よりその柔らかさには驚かされる。
 部屋の中には、洗面台や便器、テレビ、クローゼット、そしてシャワーなどまでもが設置され、上野〜札幌間で終始快適な時間を過ごせることが約束されている。設備的にはビジネスホテルの普通の部屋と同等、と言っても、決して過言ではないだろう。鉄道車両の寝台個室でこれほどの設備が揃っているのは、まさに驚きである。
 さらに、列車が発車すれば、ウェルカムドリンクやミニバーセットの提供もされる。加えてパブタイムや朝食時のルームサービスの利
用権もあり、設備のみならず、サービスも徹底的に充実していると言えるだろう。
 その対価として超高額な寝台料金が設定されているわけだが、カシオペアスイートが、展望タイプを含め非常に高い人気を博し、寝台券の争奪戦が繰り広げられているのは、提供される設備・サービスが、その超高額な寝台料金に見合っていると評価されているからに他ならない。雰囲気や旅情、夢や浪漫など、感覚的な部分も含めれば、むしろ割安だと評価されている可能性さえあろう。
 高価でありながらも、その「高価」を裏切らないものを提供すること。カシオペアの人気の全ては、ここに詰まっている。
17時間の旅路の始まり
 16:20、カシオペアは定刻に上野を発車した。夜行列車独特の陰気な感じはなく、ホームの人も車内の人も皆一様に明るいのは、まだ外も明るい16時台だからか、それとも北海道を目指して「旅行する」人たちが乗り合わせているからか。夜行列車が出会いや別れ、上京や帰郷、ビジネスといった出来事の舞台になっていたのも、今は昔か。何かのために「やむを得ず乗った」のか、豪華寝台特急の夢を求めて「乗りたくて乗った」のかでは、大きな違いがある。
 唯一夜行列車らしさを求めてみるならば、それは上野駅13番線から発車したことであろうが、カシオペアにある「旧来の夜行列車らしさ」というのは、本当にそれくらいしか見当たらない。ステンレスの銀色の車体という点も含め、夜行列車らしさはかなり薄い。
 その「夜行列車らしさの薄さ」が、新世代の夜行列車を予感させるものであったのならば、それは幸いだ。それは間違いではなかったが、正しくもなかった。カシオペアの登場とその人気は、夜行列車の「鉄道としての移動手段」から「非日常な楽しみを味わう手段」への転化を加速させたように思える。
 その究極の形態が、JR九州のななつ星、JR西日本の瑞風、JR東日本の四季島といったクルーズトレインということになろうが、これらの列車は、夜行列車の正当な進化の果ての産物とは到底思えない。
 ほどなくして女性の客室乗務員が訪問し、ミニバーセットを届けてくれた。それに続いて、オレンジジュース・ウーロン茶・日本茶から選べるウェルカムドリンクの選択と、翌日のモーニングコーヒーの配達時刻を尋ねられた。ここではオレンジジュースを選択するとともに、翌朝6:00を配達時刻に指定した。
▲たった1枚の扉、されど1枚の扉 この扉の向こうにある光景に胸を膨らませる
▲扉を開けた瞬間に目に飛び込んできた室内の光景 部屋の広さを感じ取れる
▲2階はリビングの設定 高い視点からの車窓を楽しめるのが特徴
▲1階は寝室の設定 ベッド兼ソファ、ソファ兼ベッドでもない本物のベッド
▲赤羽を通過する 冬場ではあるがさすがにまだ明るい
▲全客室で提供されるウェルカムドリンク
▲デラックス・スイートでのみ提供されるミニバーセット 上級個室の住人の気分が高まる





                  10  11  12  13  14  15  16  17  18 
DISCOVER どこかのトップへ

66.7‰のトップへ