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 これよりお待ちかねのディナータイムが始まりますが、ちょうどそのとき、列車は東室蘭に到着しました[①]。今更説明するまでもありませんが、乗降扉は開きません。北斗星号の場合、ひとりでの利用にも対応した列車設備を備えていたため、”たまには”ビジネス等で利用する人もいて、途中駅での乗降というのもあったことと思いますが、カシオペア号の場合、道内の函館・札幌以外での乗り降りはどのくらいあったのでしょうか?

 料理の到着に先駆けて、何か飲み物の注文を・・・ということで、我々は揃ってビールを頼みました[②]。”北海道を走るカシオペア号”だけに、ここはサッポロクラシックがふさわしいかと思いますが、そのような選択肢はありませんでした(たしか)。もっとも、この場面で、いわゆる「第3のビール」が出てこようものなら、それはさすがにいかがなものかと思いますが、「本物のビール」であれば、とりあえず何でもいいでしょう。

 黄色か、あるいは金色か[③]。見た目の色合い、そして豊かに積もった泡が、このビールがおいしいものであることを予感させます。果たしてどのタイミングで飲むべきか? 私の信条に従えば、「列車が停止しているときに飲食をしてはならない」。とりわけ食堂車にいるのなら、流れゆく車窓を見ながらの食事でなければ―――。東室蘭を発車するのを待って、さあ乾杯[④]。工場夜景が車窓を彩ります[⑤]













































 さて、いよいよコースメニューが始まります。まず最初にやってくるのは、「オードブル:海の幸とグリーンアスパラムースのサラダ仕立て」[①]。フランス料理自体ははじめてではなく、2016年2月に乗車した「特別なトワイライトエクスプレス」で既に経験済みですが、とはいえ所詮は”人生で2度目”。真の意味でフランス料理の神髄を知るには、まずもっと深い人生経験が必要であることでしょう・・・。

 2番目にやってくるのは、「魚料理:真鯛のポワレ 2種のソース」[②]。お皿いっぱいに盛り付けず、その配置にさえ「見栄え」と「芸術性」を追求することも、フランス料理を特徴づける要素であると思いますが、ここで「もったいない」、「もっと詰めていいのに」と考えたならば、私の負けです。フランス料理にふさわしい人物となるためには、まずこの貧乏性を直さぬことには(普段の”旅”でも、もっと良いものを食べるように方針転換しますかね?)。

 正直なところ、オードブルにしても、魚料理にしても、それらを普段食べることがないので、ここで珍しくも食べてみたところで、その良し悪しを判断するための基準がありません(もちろん、絶対評価としておいしいことは間違いない)。そのような意味では、パンのおいしさは格別でした[③]。もはやスーパーに出回るパンと比べることすらおこがましい、この密度、この膨らみ、この柔らかさ[④]。全てがハイレベルです。

 19:10頃になって、「肉料理:牛フィレ肉のソテー ポルトソース」が配膳されました[⑤]。見た目の色合いからもよく分かる、豊かで味わい深い濃厚なソースは、この牛フィレ肉が持つ”ポテンシャル”を大いに引き出し、いわば合作として「最高の肉料理」を完成させます。ナイフで切断し、その断面を見てみると・・・、ご覧の通り[⑥]。料理に関しては初心な私ですが、それでも、この断面自体が語る「おいしさ」というのは、どこか分かるような気がします。

 このような素晴らしい料理は、それ単体であっても、他にないおいしさを誇ることでしょうが、「食堂車(列車内)」という環境、流れゆく景色を見ながら、時間も忙しさも忘れることができるという精神状態、丁寧さと素早さを兼ね備えた係員の応対など、そのおいしさを2倍にも3倍にも引き上げる「裏方」がいることを忘れてはなりません。そして同時に、それらの裏方がなければ、「カシオペア号での最高のディナー」は、そもそも成立しえないのです。













































 「流れる夜景を見ながら食べるディナーは素晴らしい」。たしかにその通りですが、なにぶん、1年で陽が最も短くなる12月で、更に上り列車(ディナーが道内)であると来ては、「美しい夜景を見ながらの食事」など、望むべくもありません。たまに町明かりが見えて、それらしい感じにはなりますが[①]、基本的には「大自然とにらめっこ」。ただ、逆に言えば、もし夏至であれば、素敵なディナーを楽しめそうです。

 コースメニューが終了し、食後のデザートが運ばれてきました[②]。メニュー案内では「スペシャルガトーの盛り合わせ」と称されていますが、平たく言えば、ただのケーキです。とはいえ、カシオペア号のディナーに出てくる”ケーキ”なわけですから、平凡なものではないはず。

 ディナータイムの2回転目は、18:30〜19:50の80分間で設定されていますが、現在時刻は19:26。時間的にはまだ余裕があるので、焦ることなくゆっくりとデザートを楽しみましょう[③]。車窓こそ、お世辞にも”楽しむ”というほどのものにはなりませんが、しかしここは食堂車です。景色が見えなくとも、列車ならではの揺れや音があります。「列車食堂」と「展望レストラン」の決定的な違いは、ここにあるわけです。

 じきにホットコーヒーが到着して、デザートとコーヒーのセットが出来上がりました[④]。今回は、ホットコーヒーは、何も入れずにブラックで飲むことにしたので、ケーキを食べた後にそれを飲むと、その苦さがちょうどケーキの甘さを打ち消し、口の中が「無」になります。そうすると、次に口に運んだケーキの欠片では、その甘さをゼロから新鮮に味わうことができます。ひとくち食べるごとにおいしさを感じる時間でした。

 「スペシャルガトーの盛り合わせ」を食べ尽くせば、残るはホットコーヒーだけです[⑥]。上述したように、ブラックで飲むことにより、口の中に残存している”他の味”を打ち消すことができるので、最後にこれを飲み切ることによって、これまでに食べてきたフランス料理の味も、ケーキの味も、全ては忘却の彼方へと葬られます。それは名残惜しいか、あるいはもったいないか。しかし、”食”のお楽しみは、この後もまだありますから・・・。



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