「流れる夜景を見ながら食べるディナーは素晴らしい」。たしかにその通りですが、なにぶん、1年で陽が最も短くなる12月で、更に上り列車(ディナーが道内)であると来ては、「美しい夜景を見ながらの食事」など、望むべくもありません。たまに町明かりが見えて、それらしい感じにはなりますが[①]、基本的には「大自然とにらめっこ」。ただ、逆に言えば、もし夏至であれば、素敵なディナーを楽しめそうです。
コースメニューが終了し、食後のデザートが運ばれてきました[②]。メニュー案内では「スペシャルガトーの盛り合わせ」と称されていますが、平たく言えば、ただのケーキです。とはいえ、カシオペア号のディナーに出てくる”ケーキ”なわけですから、平凡なものではないはず。
ディナータイムの2回転目は、18:30〜19:50の80分間で設定されていますが、現在時刻は19:26。時間的にはまだ余裕があるので、焦ることなくゆっくりとデザートを楽しみましょう[③]。車窓こそ、お世辞にも”楽しむ”というほどのものにはなりませんが、しかしここは食堂車です。景色が見えなくとも、列車ならではの揺れや音があります。「列車食堂」と「展望レストラン」の決定的な違いは、ここにあるわけです。
じきにホットコーヒーが到着して、デザートとコーヒーのセットが出来上がりました[④]。今回は、ホットコーヒーは、何も入れずにブラックで飲むことにしたので、ケーキを食べた後にそれを飲むと、その苦さがちょうどケーキの甘さを打ち消し、口の中が「無」になります。そうすると、次に口に運んだケーキの欠片では、その甘さをゼロから新鮮に味わうことができます。ひとくち食べるごとにおいしさを感じる時間でした。
「スペシャルガトーの盛り合わせ」を食べ尽くせば、残るはホットコーヒーだけです[⑥]。上述したように、ブラックで飲むことにより、口の中に残存している”他の味”を打ち消すことができるので、最後にこれを飲み切ることによって、これまでに食べてきたフランス料理の味も、ケーキの味も、全ては忘却の彼方へと葬られます。それは名残惜しいか、あるいはもったいないか。しかし、”食”のお楽しみは、この後もまだありますから・・・。
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