◆11月3日◆
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 翌朝7:30頃、スマートフォンにセットしていた目覚ましが鳴るのよりも少し早く目覚めました[①]。カーテンをサッと開けると、あの夜の闇はどこへやら、1日の始まりを告げる明るい世界が広がっていました。ちなみに、このブルートレインあけぼのでは、いわゆる「おやすみ放送」と「おはよう放送」があるようですが、前者はシャワーを浴びに行っていて聞けず、後者は流れていたのを無視して眠り続けていました。

 必要最低限に身なりを整えた後、受付に向かい、宿泊予約時にオプションとして付けていた「朝食」を受け取りました。個室寝台内での食事はできませんが、建物にある休憩室と1号車の開放式B寝台車では飲み食いができるため、「どうせなら”あのときの”雰囲気を出そう」と、開放式B寝台車で鶏めしを食べることにしました[②]。なお、この掛け紙は、ブルートレインあけぼのの朝食として提供されるとき専用の特別仕様です。

 鶏めしの中身はこのような感じ[③]。鶏めしを製造する花善では、事前に申請をすることで、大館駅を発着する列車の乗降口に鶏めしを持ってきてくれるというサービスを実施しており、かつて日本海号に乗車したときにも、そして現役時代のあけぼの号に乗車したときにも、これを利用して、それぞれ車内で朝食として食したことがあります。今、私はあのときのことを思い出しています。

 昨晩は辺りが暗かったのでよく分かっていませんでしたが、外を見てみると、かつての小坂駅構内ということもあり、あけぼの号の脇に、ディーゼル機関車などが入れられている格納庫がありました[④]。そして、私はついつい「ブルートレインあけぼの」と口にしてしまいますが、それはあくまでも小坂鉄道レールパークの一施設であり、外では、レールパークの今日の営業に備えて、トロッコの準備などがなされていました[⑤]

 誰かが勝手に弄ったのか、それとも意図してなのかは分かりませんが、私が訪れたとき、3両の寝台車は、それぞれ異なる方向幕を出していました。1号車の開放式B寝台車は「鳥海 青森」、2号車のB個室は「あけぼの 青森」、そして3号車のA個室は「あけぼの 上野」[⑥]。羽越本線経由時代のあけぼの号は、かつての鳥海号が名前を変えたものなので、鳥海号にこそ馴染みがあるという人もいることでしょう。

 このあとの”体験乗車”に備えて、先頭に小坂鉄道のDD13形ディーゼル機関車が連結されたときのその姿は、まさにひとつの「編成」です[⑦]。前から電源車、A個室、B個室、B寝台(緩急車)という構成は、電源車を連結することで、その気になれば本線上を走行可能な状態であるのみならず、A・Bの両個室寝台車を入れ、最後尾を顔つきの緩急車が務めるという「バランス」もとれています。

















 さて、ブルートレインあけぼのでは、チェックアウトの時刻は9:00に設定されていますが、「これであけぼの号での楽しいひとときも終わりダナ・・・」とはなりません。実は、今回の宿泊には、まだ続きがあります。いや、続きというよりもむしろ「メインディッシュ」が・・・。

 それは「体験乗車」です。ブルートレインあけぼのの最大の特徴にして、過去の列車ホテルたちの大きな違いは、各車両が現役時代の姿をよく保っていることに加えて、その編成が動態保存されている点にあります。日中(レールパークの営業中)は車両展示場に置かれ、夜にホームに据え付けられるため、16:30と翌朝9:00にその移動が行われます。そしてそのとき、宿泊者は、開放式B寝台車に乗車できるのです。

 というわけで、荷物をまとめて、開放式B寝台車に乗り込みましょう[①]。昨日の16:30の分には間に合わなかったため、今朝の分には必ず乗りたいと思っていました。このような保存車の魅力のひとつは、現役時代は立ち入れなかったような場所にも入れるようになることですが、ここでは、編成が”生きている”こともあってか、乗務員室などには鍵がかかるようになっていました[②]

 それでは車内へ[③]。通路に敷かれた絨毯も、それぞれのベッドも寒色系というこの配色は、まさに青森所属の開放式B寝台車です。現役時代のあけぼの号は、羽後本荘〜青森間において、下りは立席特急券、上りは指定席特急券で開放式B寝台車に乗車できるという”ヒルネ”の制度があったため、寝具類が一切ないという状態は、かつてのヒルネを再現しているものだと思えば、違和感なく受け入れられます[④]

 今は誰も使っていませんが、通路の壁には引き出し椅子があり、「そういえば、朝になると、この椅子に座って反対側の車窓を眺める人がいたんだっけなぁ・・・」といったことを思い出してみると、非常に懐かしい思いがしてきます[⑤]。これで現役時代の乗車経験がなければ「へぇ」という程度でしょうが、あけぼの号は実際に9度乗ったことがあるので、本当に懐かしさがあります。

 そして9:00過ぎに、DD13形に導かれて、あけぼの号の車両展示場へ向けての移動が始まりました。おお、凄い・・・、凄いです。自分が乗っている客車が本当に動いています[⑥]。車窓が移り変わっています。駅構内にある側線における「入れ換え」なので、現役時代には程遠い、大変な低速での走行にはなってしまいますが、”動くブルートレイン”に乗れるのは、全国でもここだけです。

 ・・・と言っても、文章ではこの感動もなかなか伝わらないであろうと思いますので、今回は体験乗車のときの動画をYouTubeにご用意しました。客車列車特有の”ガツン!”という動き出し、オルゴールによるハイケンスのセレナーデ(現役時代は電子音でしたが、有志からオルゴールの寄贈があったとのこと)、24系らしい走行音、往年の日々を思い出す揺れ・・・など、5分程度の乗車時間ながら、実に感動しました。

 そして体験乗車を終えて車両展示場のホームに降り立ち、これをもって「ブルートレインあけぼの」でのタイムスリップが終了しました[⑩]。現役時代の乗車を思い起こさせる様々な仕掛けがあり、そのうえ4320円(宿泊代のみ)という安価な料金もあって、満足度は高かったです。この比較的良好な保存状態にも好感を持ちました[⑪]

 1つの乗降扉だけがホームにかかっていますが、日中はここから開放式B寝台車への出入りができ、同車のみ見学ができるとのこと[⑫]。とはいえ、それでは普通の保存車と変わりないため、やはり週末に訪れて宿泊したいものですね。












 この後はバスに乗って大館駅に戻りますが、バスがやってくる時刻まではまだ時間があるため、駐車場側に回って、今回無事に”再会”を果たすことができたあけぼの号の編成を、もう1度眺めていくことにしましょう。

 ブルートレインあけぼのにおいて1号車を務めるのは、開放式B寝台の緩急車、オハネフ24-12です[①]。この車両の寝台を直接利用したことはありませんでしたが、古い写真を掘り返してみたところ、2007年8月28日に私が初めてあけぼの号に乗車したときのその編成に組み込まれていたようでした。ということは、列車単位のみならず、車両単位としても再会していたことになります。

 その次の2号車は、B寝台個室ソロのオハネ24-555です[②]。個室を上下2段に互い違いに組み合わせ、塗装と窓が車両の肩部まで達しているという外観が特徴的です。現役時代のソロは、上段・下段共に2回ずつ、計4回乗車したことがあります。上段だろうと下段だろうと、棺桶とも称されるその狭さはとてつもないもので、良くも悪くもとても思い出に残っています。

 そして今回利用した3号車は、シングルデラックスのスロネ24-551[③]。この車両に関しては、2013年1月の東北旅行であけぼの号のシングルデラックスに乗ったときのまさにその車両であり、かつて自分が本当に利用した車両そのものでした。当時は7番室でしたが、今回は6番室。あと1つ隣にずれていれば、これ以上ない「真の再会」となっていたところでした(でも隣同士ですね)。

 最後は電源車のカニ24-511[④]。これは・・・、かつて出会ったことがあるのかどうか、特に調べていません(笑)  客車で運転されていたあけぼの号は、割と頻繁に1両単位で車両を組み替えていたようなので、電車とは異なり、「●号車にコレがあったから、○号車にはアレがある」というような推測はあまり成立しません。それゆえ「以前に会っていたかどうか?」も、力技でやるしかありませんでした。

 透き通るような青空の下で、それよりも遥かに濃い青色を湛えるブルートレイン[⑥]。現状、これという塗装の剥がれや色褪せ、錆びつきなども見当たらず、その車両状態は、現役時代以上かもしれません。夜も似合いますが、日中もまたよく似合うあけぼの号です。

 お客を乗せることも、線路上を走ることも、それらは、鉄道車両が持って生まれた使命です。綺麗に整備して博物館に押し込め、乗るな・触るなと大切に扱うのも1つの道ですが、少々の汚れやヘタレは承知のうえで、日光も雨も風も受け、寝台車としてお客を泊め、電源車から電気をもらい、そして機関車に導かれて走る・・・という”本能に忠実な”扱いをしてやってこそ、彼らは鉄道車両冥利に尽きるはずです。

 小坂鉄道レールパーク内であけぼの号の入れ換えを行うのは、小坂鉄道で活躍していたDD13形です[⑦]。奥羽本線の改軌絡みで陸羽東線を経由していた時代などを除けば、全線電化区間を電気機関車で走るというイメージも強かったあけぼの号ですが、青森駅〜青森車両センター間の回送は、ディーゼルのDE10形が行っていたので、このDD13形をDE10形に見立てれば・・・。


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