Page:4

※各画像はクリックすると拡大します。






















⑩         ⑪






下関を発ってからまだ1時間も経過していないが、11:30前頃、食堂車の昼食の第1回目の客として呼び出しを受けた。特別なトワイライトエクスプレスの特徴にして魅力はといえば、何と言っても食事である。乗車後、昼食・夕食・朝食・昼食の計4食が車内にて提供されるほか、夕食後にはパブタイムも催されるため、それも含めれば、なんと5回もの食事の機会が存在しているのだ。

 案内された席に座ると、テーブルの上にはシャンパンが用意されていた。従業員が音頭を取り、食堂車に来た他の乗客たちとともに、この特別なトワイライトエクスプレス号の旅が無事に始まったことを祝う乾杯をあげる。大阪〜札幌時代は、日本海側や降雪地帯を通るということもあり、しばしば運休が発生していたが、下関〜大阪であれば、さほど悪天候の心配はいらない。とはいえ、無事に走り始めると、やはり嬉しいものである。

 食堂車で出てくる料理というと、例えば「カレーライス」などであれば、「まあパウチのを湯煎してご飯にかけて・・・」などと勘ぐってしまうが、ここで出てくる料理は、そんな横着を通じて生まれるものではない。大半の調理・盛り付けは、列車内の厨房で行うのだ。絶え間なく湯気が上がるほどに温かい自家製ざる豆腐は、食事の時間に合わせて車内にて手作りされるものといい、この列車で提供する食事への手のかかりようを示す一例である。

 印象深かった料理はといえば、その「自家製ざる豆腐」である。豆腐といえば醤油と鰹節をかけて食べるもの、というイメージを持っており、ここでも当然醤油・鰹節(と葱・生姜)が用意されたが、もうひとつ、新たな食べ方が提案された。

 それは、オリーブオイルをかけ、その上に岩塩を載せるという食べ方である。オリーブオイルの舌触りが豆腐の滑らかさを引き立て、岩塩は豆腐の質感を保ちつつ、味に彩りを添える。今までにない、まさに新感覚の豆腐である。

 特別なトワイライトエクスプレスの大きな特徴と言えるのは、深夜帯を除き、常時フリードリンクが提供されていることである。「常時」ということで、食堂車での食事の時間帯以外でも、ありとあらゆる飲み物がいくらでも飲める。もちろん、ワインやビールといったアルコール類も飲み放題。昼間からの飲酒は禁忌だと思っているが、ついつい、白ワインと生ビールに手が出てしまった。さあ、ビールを片手に、連れともう一度乾杯。

 メニュー表には記載されていなかったが、お茶漬けがあるというので、いただいてみることにした。この充実した和食のコースを締めくくるには最適な料理。ごくごく普通のお茶漬けも、食堂車という特別な環境で味わえば、一級品の料理に様変わりする。

 最後に季節の果物が出てくるのだが、第2回目の昼食の時間が迫っているということで、サロンカーへと案内された。今回出てきたのは、メロンとオレンジ。皿の上に置かれたものの配置にも抜かりはなく、美しい。瑞々しい果汁とあふれる甘美が、口いっぱいに広がった。





































すぐには部屋に帰らず、しばらくの間、サロンカーに留まってみることにした。サロンカーの海側の窓に、何やら紙細工の金魚が飾られている。立体的なものから平面的なもの、大きなものから小さなものまで、様々な紙細工の金魚が見えるが、これは何なのだろうか。


 この金魚たち、正式な名を「金魚ちょうちん」と称し、この後停車してミニツアーを催行することになっている柳井の民芸品である。毎年夏には「柳井金魚ちょうちん祭り」なる祭りも開催され、会場には約2000個の金魚ちょうちんが登場し、そこから漏れ出る灯りが幻想的な雰囲気を醸し出すという。煌びやかな華や美しい絵画を飾って絢爛にするのも良いが、このような和の民芸品を軽く飾ってみても、サロンカーは心地良い空間となる。

 一方、サロンカーの7号車寄りのところには、この上り特別なトワイライトエクスプレス号、9040レの安全運行を祈願しての絵馬が飾られていた。たしかに定時で下関を発ったが、この先、良からぬことがないとは言い切れない。終点の大阪には、翌日の14:19に到着する。一切の悪い出来事もなく、無事に終点の大阪まで走破できることを、この絵馬に視線を送りながら、私も一緒に願うこととしよう。

 そして1号車寄りのところには、乗車記念のスタンプと台紙が用意されている。「記念スタンプ」というものは、その設置場所の如何を問わず、スタンプ台のインクが切れた(乾いた)まま放置され、印影が碌に出ないことが多々あるが、サロンカーのスタンプ台のインクは十分に残っており、全てのスタンプを綺麗に押すことができた。スタンプ台の保守・管理がきちんと行き届いていること。些細なことだが、実にありがたい。

 個室のカードキーを初めとして、特別なトワイライトエクスプレスの旅では、いくつもの記念になるものを入手できる。そういったものの数が多ければ多いほど、その旅は、より末永く印象に残り、思い出として刻み込まれ続けることだろう。




 

DISCOVER どこかのトップへ

66.7‰のトップへ