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特別なトワイライトエクスプレスの旅の2日目が始まった。福山は6:15に発車するが、目が覚めたときには、列車は既に福山を発っており、外も明るくなりつつあった。身なりを整え、7:00開始の食堂車・第1回目の朝食時間へ。昨日と変わらぬ丁寧で爽やかな歓迎を受けて客席へ入ると、海側のテーブルに案内された。もっとも、私の朝食時間中は、完全に内陸部を走るのだが。

 ダイナープレヤデスの内装は煌びやかで、まさに豪華そのものなのだが、悪いように捉えれば、ゴテゴテ、嫌味っぽいとも言える。そんな中、テーブルランプの脇にある小さな花瓶は、その主張も控えめに、小ぢんまりと、清楚にこの場を彩っている。とにかく重厚感が滲み出るこの空間だが、この花瓶があることで、「派手の押し売り」のようなものの度合いがやや引き下げられ、結果的に、「均衡」が保たれた。

 「時間がないから」といった理由で、朝食はよく抜かれる。あるいは、食パン1枚だけとか。朝食というものは、昼食・夕食と比較してみても、重要度が低めに位置づけられてしまうことが多く、「きちんとした立派な朝食」を食べる人は、なかなか少ない。しかし、世間的には軽視されるものだとしても、ここ特別なトワイライトエクスプレスで出てくる朝食は、昨日の昼食・夕食と同等の気合を入れて作られた、とても立派なものである。

 印象深かった料理は、卵の殻を「皿」としたスクランブルエッグであった。「朝皿に乗せられて出てくる」というのが一般的なスクランブルエッグだと思うのだが、この朝食で出てきたものは、何と卵の殻に再度詰め直したという一品。その調理法上、スクランブルエッグとは、つまるところ「卵を溶かしてぐちゃぐちゃにしたもの」なのだが、このような形で食卓に出すと、たちまち芸術性豊かな料理に見えてくる。

 驕慢になるつもりは一切ないのだが、この2月の平日火曜日、朝7時台、そろそろ朝の通勤・通学ラッシュが始まろうかという時間帯に、豪華寝台特急の食堂車で、のんびり、優雅に朝食をとっていると、思わず優越感を覚える。非現実の上に現実は立たないが、その逆はありえる。現実を線路として、その上を、ダイナープレヤデスという非現実が駆け抜ける。だが、そこにいて時間を送ることは、現実逃避と紙一重でもある。

 とはいえ、現実と非現実は、たった1枚の窓だけを隔てて隣り合うもの。窓越しに見る景色は、現実の世界そのものである。私だって、たまたま「手が届かなくもない」金額のツアーが見つかったからこそ、この列車に乗車できているものの、そうでなければ、現実の世界で掃除でもしていたかもしれない。そして、いずれは現実側に引き戻される。だからこそ、刹那のごとく短い非現実のひとときを全力で愛おしもうとするわけでもあるのだが。

 充実した朝食を食べ終えたころ、列車は中庄に到着していた。私も食堂車を後にしようとしたところ、食堂車のマネージャーの計らいにより、厨房のコックが一堂に会した集合写真を撮らせてもらえることになった。在来線車両の食堂車の厨房ということで、そこは非常に狭いのだが、そんな環境下でも最高の結果(=料理)を送り出し続ける彼らの働きぶりは、実はこの列車の影のMVPかもしれない。





































中庄は7:41着・9:10発であり、乗降扉が開かない駅でありながら、1時間29分も停車する。加減速が鈍い客車列車で、団体専用ゆえに通勤・通学客を捌くのにも使えず、かといって団体客の乗降もない列車を、ラッシュの時間帯に岡山に突っ込ませるわけにはいかないということなのだろう。中庄で約1時間30分停車し、朝の通勤・通学ラッシュをやり過ごすようだ。

 この列車がどういう走り方をするのかということくらい、既に十分に思い知らされているので、中庄で長時間停車をするのは別に構わない。ただ、扉が閉まりっぱなしなのは辛い。いかにトワイライトエクスプレス号といえども、明るい時間帯に、車窓の変化がゼロのまま1時間30分缶詰め状態というのは、退屈を極める。息抜きができるようにするためにも、せめて、扉を開けて外に出られるようにしていてほしいと思うのだが・・・。

 街並みが都会らしくなり、新幹線の高架橋や留置線でひとやすみする車両たちが見えてくると、列車は岡山に到着する。岡山は9:22着・9:30発で、8分だけ停車する。が、単純に駅の規模だけで考えると、中庄8分・岡山1時間29分の方がしっくりくるものだ。発車標には「臨時 団体専用列車」で表示されていたが、「通る列車は何でも表示する」ことが岡山駅の発車標の特徴であり、「貨物 通過 00:00」のような表示まで出る。

 上道を過ぎると、山陽新幹線の線路と分かれ、内陸へ進んでいく。残念ながら、正直なところ、山陽コースの車窓は全体的に地味で、これという見どころは少ない。海が見える区間はあるものの、山陰コースの日本海や大阪〜札幌時代の内浦湾などに比べれば、だいぶ劣る。また、今は2月であるが、冬の山陰や道内のように銀世界・・・であるはずもなく、何も植えられていない田畑がただただ広がる。結局、車両を楽しめということか。

 沿線の随所でカメラの放列に迎えられながら、列車は山陽本線を東へ進み、9:54に和気に到着した。ここは2回目のミニツアーが設定されている駅である。昨日の柳井と同様、参加は希望制で、居残ることも認められている。特別なトワイライトエクスプレスの山陽コースに乗車したことが既にあり、ミニツアーも参加済みなどという人は、引き続き列車内に残ったようである(ある意味ではうらやましいことだ)。

 私はミニツアーへの参加を決定。「トワイライトエクスプレスを和気で下車する」という不思議な体験を経て、駅前で待つバスへと向かった。




 

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