◆521Mから降り立つ◆
東海道本線には、ある有名な普通列車が存在する。東京7:24発の下り普通列車、伊東行きの521Mである。この列車は、実は特急型車両の185系で運転されていて、乗り得な列車としてよく知られている。
その521Mのグリーン車に東京から乗車し、1時間36分で、目的地の根府川に到着した。根府川は特急は停車しない駅だが、通常は特急として走る185系が今は停車している。事故か何かで突発的に臨時停車しているようにも見えるが、521Mは毎日必ず185系で運転される定期列車だから、これは日常の光景だ。
◆東海道本線唯一の駅◆
根府川駅は東海道本線の1駅にすぎないが、ある大きな特徴がある。それは、東海道本線の本線上にある駅としては唯一、終日無人駅であるということ。しかも、自動改札機もない。また、1日平均の乗車人員もわずか639人(2010年度)しかないという、東京〜神戸間を結ぶかねてからの大動脈、東海道本線の本線上の駅としては、極めて特異な存在なのだ。
521Mが発車し、それとほぼ同時に到着する上りの普通列車も発車していくと、ホーム上からはいよいよ人がいなくなる。しかし、根府川駅といえども、東海道本線の駅、ましてや東京〜熱海間(=JR東日本)にある駅である。列車の本数は多いし、ホームは15両編成に対応した非常に長いもので、およそ無人駅には似合わない。その長いホームの端から端まで人が1人としていないというのは、山中の秘境駅に自分1人しかいないという状況よりも、寂しさや不気味さはあるかもしれない。
また、駅名標もJR東日本仕様の新しいものにきちんと取り替えられているし、ホーム上には飲み物の自動販売機だってある。さらに、島式ホームには、小奇麗な待合室も設置されている。無人駅ではあるが、決していわゆる秘境駅だとか、ローカル線の小駅ほどではない。
さらに付け加えれば、根府川はATOSの範囲内にあるので、列車が来るときには、東京や新宿などの駅でお馴染みの自動放送が流れる。Suicaで入場して、お馴染みの自動放送が流れて、お馴染みの長い15両編成のE231系やE233系の電車が来て、乗って、という流れになるというところは、東京の人がひっきりなしに行き交う大駅と何ら変わりはない。
そういう意味では、やはり根府川駅は東海道本線にあって列車本数も多い、便利な駅だということではあるのだが、”東海道本線の本線上の駅としては、唯一の終日無人駅”という肩書きは、根府川駅だけのものだ。それに、自動改札機もない。
あの東海道本線の駅でありながら、支線ではなく本線の駅でありながら、まさかそのような駅があるとは・・・、というのが、根府川駅の詳細を初めて知ったときの思いだ。このギャップがあるから、根府川という駅は面白い。
|
|
◆それでもここは根府川駅◆
さて、そうは言ったものの、ここは根府川駅である。少なくとも都会の駅にありがちな喧騒というのは存在しないように思うし、全体的にはのどかな雰囲気の中にある駅と言えるだろうと思う。
4番線ホームの、柵がある側には、錆びついたレールが敷設されているが、そこにすずめがやってきていた。首を左右に振ってはぴょんぴょんと跳ねながら移動する・・・。こういうほのぼのとした光景は、都市の駅にはあまり似合わない。人も少ない、根府川駅ならばよく似合う。
根府川駅は海に近いところにあり、それも特徴の1つである。4番線ホームからは雄大な駿河湾を眺めることができる。やや曇っていたのが残念ではあったが、夏の快晴の日なら、より素晴らしくなっている海を眺められることだろう。
そうこうしていると、4番線に下りの普通列車がやってきた。15両編成のE231系である。ステンレス製の新しい車両が、15両も長大編成でやってくるが、しかしここ根府川駅は無人駅である。やはり無人駅というと、ローカル線の1両や2両の普通列車が発着するような駅を想像してしまうのだが、根府川駅はまさに例外。
無人駅に15両の列車が停車するその様子を見ていると、無人駅に対するイメージとの違いが頭をよぎり、「何と不釣り合いな」と、つい苦笑してしまうのである。
|