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 電話で担当の人を呼び出し、穴神洞穴の扉を解錠してもらいます。この洞穴は、普段は施錠されていて、いつでも誰でも入れるわけではありません。もっと多くの人が来るならば、常時係員を配置することもできるのでしょうが、「見たい人は連絡してくれ」の方が割に合うくらいの来訪者しかいないのだろうということが分かります。

 穴神洞穴は、もっと有名な鍾乳洞などとは異なり、観光地として快適に見学ができるようにはなっていません。いきなり簡易的な階段が待ち受けていたかと思えば、その角度は実に急で、バリアフリーのバの字もない、体力自慢の者たちだけを受け付けると言わんばかりの門構え。背筋を伸ばして立てる場所はほとんどなく、常時屈んだ姿勢を強制されます。

 奥に行くほど外界の暑さからは切り離された涼しさを手に入れたかと思えば、代わりに携帯電話の電波が失われます。分岐する道があるわけではないので、ここで遭難することはないと思いますが、一方で他の見学者はいないので(誰かが入ると入口に「見学中」の札が掛けられ、しばらく新規の入場はできない)、問題が発生しても、恐らく助けを呼ぶことはできないでしょう。

 前を見ても後ろを見ても道は細く、その雰囲気は、はまさにゲームで見るようなダンジョンのそれです。「岩の中」とでもいうべき不思議な空間に放り込まれ、人の手がほとんど入っていない、ただただ時の流れが生み出した究極の自然美に360度を囲まれる異質の道のりは、人なら誰しも心の奥底には持っているであろう「冒険心」を引き出してくれます。

 身体とカメラバッグを壁にぶつけながら進むその道は、ところどころで水が滲み出しており、ある程度泥にまみれることを覚悟する必要があります。昨日の佐田岬の夕景もそうですが、結局、素敵な絶景というのは、常に困難の先にこそ待っているもので、苦労もせず、身を汚しもせずにでは、旅人の歓びとなる最高の一瞬には出会えないというわけです。

 20分以上をかけてようやく出口の光に辿り着いたときには、一種の達成感さえあり、「まさか四国の山中でこんな体験ができるとは」と、特別大きな期待を抱いてやってきたわけではなかった穴神洞穴に来て良かったと感じていました。




                                   


















 場所は大きく飛び、ここは「源氏ヶ駄馬」。愛媛県と高知県の境に展開される四国カルストの一エリア名で、ここに至るまでの路は、これまた隘路に狭路、崖に落ちるか落ちぬかの刹那を幾度も潜り抜けるような面倒な道で、やはり車の運転に自信がない人はオススメできないものです。バイクは小回りが利くから良いものの、自動車は、このときばかりは軽自動車のありがたみを感じそうなものでした。

 遠くを見渡せば四国の山々、足元を見れば高原に咲く花があり、大地の力強さと自然の芸術性を映し出す石灰岩が見える向こうには、この山脈に放牧されている牛が鷹揚に生きる姿。北海道においてさえもなかなか出会えないような、ここは本当に日本だろうかと一瞬疑ってしまいたくなるような雄大かつ牧歌的な眺めが、ここ四国カルストにはあります。だからこそ、今回来てみたいと思っていました。

 一見、緑が豊かな山脈の景色ですが、そこに堂々と居座る石灰岩の存在が、ここがカルスト地形であることを示しています。四国カルストは、日本三大カルストのうちのひとつにも数えられているところで、松山市街からも高知市街から遠い、ハッキリ言ってアクセス性は最低クラスですが、その分こうやって辿り着いたとき喜びは大きいものでした。

 人が低地にいるとき、山々はそれより先に対する視界を遮りますが、それなら山のてっぺんに来てしまえば、もう我々の見通す先を邪魔するものはありません。並みいる山々を自分よりも下に見て、山たちよりも自分の方が雲に近いのではないだろうかと思い始めたその瞬間に、高原を吹き抜ける爽やかな風は、都会とも田舎とも違う環境にやってきた旅人を公平に歓迎してくれます。

 四国カルストで浴びる風はどこまでも涼やかで、そしてどこまでも爽やかです。「気持ちのいい風を浴びること」は、扇風機の前でもできることですが、こうも心まで晴れやかになる清風を得られる場所は、2021年7月23日、日本のどこを探しても、他にはなかなかないのではありませんか。




                                         





















 姫鶴平エリアは、キャンプ場やコテージ、簡易宿泊施設などが整備されており、四国カルストの中では人の出入りが激しい場所と言えます。なるほどたしかに車の交通量は多く、賑わいに満ちています。ここには風力発電機の風車が設置されており、放牧された牛との組み合わせは、四国カルストの雄大さを端的に表すようでさえあり、四国カルストを象徴する眺めであると言えましょう。

 キャンプ場には多くのテントが立てられており、ここは2019年以前に近いような賑わいがあるようでした。ひとりキャンプはしないまでも、「どうせなら四国カルストに泊まり、夜に星空を見たい」と思っていたのですが、感染症絡みで営業休止をしているとかしていないとか言われているうちに姫鶴荘の7月23日分が満室になり、諦めたという経緯があります(もっとも、場所が場所なので、ここを宿泊地にすると旅程がだいぶ歪みそうでしたが)。

 高原にはむやみやたらに立ち入るものではなく、人が立ち入ることができる場所は、おおむねこの四国カルストを貫いている県道383号線(愛媛県・高知県両方の県道)のところに限られます。四国カルストの自然を可能な限り維持しながら整備された道は、右に左に、そして上に下にうねっていますが、それに順応して走ることもまた”自然との調和”と言うべきか・・・。

 四国カルストの眺めと雰囲気を最大限に魅力的にしてくれるであろう快晴の到来を期待していたのですが、実際には、快晴どころか視程が悪化する曇り空に。山の天気は変わりやすい、とはよく言われますが、まさにその通りというところでしょうか。幸い、雨が降ることは全くありませんでしたが、曇りになると、四国カルストって、急に絶景レベルが下がるような気がしますね。

 あの写真もこの写真も、夏の抜けるような青空だったら・・・と夢想してしまいますが、これは逆に言えば”また行くためのきっかけ”が自然に生じたというように解釈することもできるわけです(前向きに言えば・・・)。


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