◆新旧の混在◆
ホーム上に立てられている駅名標を見てみる[-11-]。さすがに、開業当初からのものをそのまま使っているはずはないであろうが、何にも守られることなく風雨にさらされ続け、強く錆びついたその駅名標の姿は、経過したその年月、ひいては入地駅が持つ110年以上の歴史をも感じさせる。
そんな「古さ」がある一方、入地駅には、「新しい」もある。この竜ヶ崎線がSuicaやPASMOなどのICカードに対応した2009年、入地駅にも、ICカード用の簡易改札機が設置されたのである[-13-]。この簡易改札機は完全な室内に設置されているものではなく、雨などによる故障を避けるためか、装置全体が透明なビニールのカバーで覆われていたことが印象的であった。
今回、佐貫〜入地間の移動には、Suicaを使用した。入地駅に設置された簡易改札機の「出場」の方にSuicaを触れると、聞き慣れている、お馴染みの「ピピッ」という音が鳴った。入地駅が見せてくれる”現代的な”一面である。
◆行き来する1編成◆
明確な改札口があるわけでもなければ、駅舎(入口)があるというわけでもない。また、駅の周辺に「入地駅→」などと示す標識などもない。駅前で待機するタクシーなんて、もってのほか。入地駅には、「ここに駅がありますよ」と主張する要素がほとんどなく、「風景の一部」として溶け込んでしまっているような感がある[-15-]。
そんな入地駅が”駅”であることを主張できる瞬間と言えば、やはり列車が来るときであろうか。入地駅の周辺で観察や写真撮影をしていると、13:10発の佐貫行きの列車がやってきた[-16-]。車両は、先ほど乗車した竜ヶ崎行きの列車と全く同じキハ532形である。
竜ヶ崎線についてはあまり知らないという方でも、もう何となくご想像がついているところかもしれないが、全長4.5qで3駅しかない竜ヶ崎線では、1つの車両(編成)によるピストン輸送で事足りてしまうのだ。全く同じ車両が佐貫〜竜ヶ崎間を往復し続けているという点は、竜ヶ崎線の大きな特徴の1つとなっている。
さて、鉄道ファンからの注目と人気が高いキハ532形であるが、実は毎日走っているわけではない。この車両は使用日が限定されていて、毎月第1・第3土曜日と、第2・第4日曜日の日中(だいたい9:00〜15:00)しか走らない(駅訪問日の2013年10月27日=第4日曜日)。この措置により、必然的にキハ532形が見られる機会は絞られ、その”希少性”は自然と高くなっている。
地味な路線であることは否定できない竜ヶ崎線だが、殊にキハ532形の運転日となると、鉄道ファンが沿線などにやってきて、竜ヶ崎線はにわかに活気づく。
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◆直線街道◆
単線・非電化というと、ついつい、曲がりくねったローカル線を想像してしまうものだが、実は竜ヶ崎線の線形は非常に良い。全長4.5qのうち、直線区間は3.5qで、総路線距離の約77%を占めている。入地駅を基準にして眺めたとき、竜ヶ崎方面こそ、すぐそこに左への緩やかな曲線があるが、佐貫方面は、ずっと遠くが見通せるほどに、直線が延々と伸びている[-17-]。この直線は、佐貫駅まであと約300mという地点まで、1.8qにわたって続く。
ただ、残念ながら、竜ヶ崎線を走る列車は、こういった直線区間であっても、せいぜい60q/h程度しか出さないようだが・・・。
◆竜ヶ崎線と蒸気機関車◆
入地駅のすぐ脇に、「入地踏切」という踏切があるが、その近くに立てられている踏切を示す標識には、蒸気機関車が描かれたものが使用されている[-18-]。110年以上の歴史がある竜ヶ崎線では、もちろん、蒸気機関車が活躍していた時期があった。竜ヶ崎線の蒸気機関車は、1965年まで日常的にその活躍が見られ、それ以降も、4号機・5号機と呼ばれていた2機が、1971年に廃車されるまで在籍していたらしい。
最後まで使われていた2機のうち、1機は、龍ケ崎市にある歴史民俗資料館で保存されていて、もう1機の方も、東武鉄道のおもちゃのまち駅の駅前で保存されているという。歴史の証人は、解体されることなくその姿を留めているようだ。
◆ちょっとでも待てば◆
既に述べたように、竜ヶ崎線の列車は、日中は毎時2本が設定されている。そのため、入地駅においても、単純計算で1時間居続ければ、下り2本、上り2本の計4回(本)、列車に出会える。平均すれば、15分に1回は列車に出会えることになる。
ちょうど佐貫行きの列車を見送ったところということもあり、「もうそろそろ入地駅を離れようか」と思っていたところではあった。しかし、「ちょっと待てばもう1回キハ532形に遭遇できるんだな」と思い、次の竜ヶ崎行きの列車の到着を待ってみることにした。
踏切の警報機が鳴り出し、列車の走行音が聞こえてくる。快晴の空と冷たい秋風の下、電線や踏切の影を車体に落とした竜ヶ崎行きのキハ532形が、ゆっくりと入地駅に滑り込んできた[-19-]。
「果たして入地で降りる人はいるのだろうか」と思いながら、列車の到着〜開扉の流れを観察していたが、この列車から入地駅に降りてくる人は誰もいなかった。上下合わせて1日82本の列車があるという状況に対して、1日平均の乗降客数が68人なのだから、乗り降りが全くないというのは何ら不思議なことではない。いや、むしろ自然なことで、”いかにも入地駅らしい”光景と言えるのかもしれない。
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