北斗星号。上野駅13番線に18:45に入線し、19:03に発車する、上野発札幌行きの24系11両編成による寝台特急。
この北斗星号は、現在、日本で唯一の「定期客車特急」「定期ブルートレイン」「定期上野発着夜行列車」です。
他にも様々な「唯一」を背負っていますが、そんな北斗星号も、2015年3月のダイヤ改正により、定期列車から臨時列車へと格下げされます。

そこで今回、北斗星号の廃止(JRでは「取り止め」としているため、こう表記しておきます)に寄せて、夜汽車の残像の特別篇として、
この「13番線のブルートレイン 〜1レのための18分〜」を制作し、公開することといたしました。

2014年11月25日〜12月19日にかけて撮影した写真(一部を除く)を中心に、上野駅の地平ホーム・13番線に佇む「列車」北斗星号と、
上野駅の13番線に集結し、様々な形で北斗星号に関わる「人々」が織り成す、13番線の独特の世界を描き出しました。

車内でのディナータイム、パブタイム、ロビー室での談笑、夜景、海底トンネルの走行、北海道の雪景色・・・。
といった北斗星号の「中」で展開される世界ではなく、あえて「外」で展開される世界に注目した、上野駅13番線の風景をお楽しみください。


★各画像はクリックすると拡大します★


Page:1


 

18:41 のこと。日暮里駅の4番線ホームに立っていると、貫通扉を開けた客車を先頭に「逆走」する列車が目の前を通り過ぎていった。いかにも特別なことをしているように思われるが、これは毎日の光景。上野駅の地上ホームに出入りする客車列車で行われる伝統的な回送方法、「推進回送」である。
 下り1列車・札幌行き寝台特急「北斗星」の上野入線時刻は18:45。今日もまた、青い客車を連ねた”ブルートレイン”が、これからの旅路に胸を膨らませる人々が待つ上野駅へと向かっていった。














一方 、そのころ上野駅では・・・。中央改札にある6段表示の発車標には、小金井行き、宇都宮行きといった近郊列車に混じって、遠い北の大地「札幌」を行き先に表示する列車があった。北斗星号がやってくる13番線は地上ホームであり、階段の昇降ではなく、歩き(水平移動)で行くのが一般的なようだが、高架の連絡通路から階段とエスカレーターで13番線へと降り立つことも可能である。
 天井から1段表示の発車標が吊り下げられ、その向こうに幅の狭い階段とエスカレーターが待ち構えるその様子は、まさに「門」や「関所」といった表現が似合う。北斗星号の表示のみを出し、通勤列車で家路へと急ぐ者は受け付けようとしないその場の雰囲気は、長距離夜行が発車するホームへの入り口にふさわしい。












   

13番線 ホームに降り立つ。そこには、通勤列車が発着するホームに漂うような殺伐とした雰囲気はない。パッと見て分かる違いは、やはり「乗車口で列をなす人たち」がいないことか。1分でも早く着けと思う列車と、1分でも長く乗りたいと思う列車の違いは大きい。「これから北斗星に乗るのだ」という人々の思いは、13番線に独特の雰囲気を生み出している。
 北海道観光に胸を膨らませる人、”憧れの”寝台特急に乗れることを喜ぶ人、いつかは乗ってやると思いつつも、とりあえず今日は撮影だけで我慢する人。共通するのは、どこか心に余裕のあって、北斗星号の到着を楽しみにできる人たちである、ということか。
 時計の針がまた1分進む。だが、「早く来い」などと思う人はいないであろう。「まだかな」「もうすぐかな」と、その主役の登場をワクワクしながら待ちつつ、いざ入線してきたときに「ついに来た!」と、その期待と夢を爆発させるのである。  














そして その時はいよいよ訪れる。入線時刻である18:45が迫る頃、「業務放送、トウサンバン、回1列車接近」の一言がホームに流れると、それに続いて「まもなく、13番線に、当駅始発、寝台特急・北斗星、札幌行きが参ります」と放送が流れる。
 乗車する人、写真撮影をする人、なんとなくやってきた人・・・。そのとき13番線にいた人たちはみな尾久方面を見つめ、”ブルートレイン”の登場を待つ。接近放送が流れてから実際に北斗星号が姿を現すまでには、少し待ち時間がある。
 しばらくすると、貫通扉を開け放った状態の24系を先頭に、札幌行きの寝台特急「北斗星」が、推進回送で上野駅13番線に入線してくる。一般的な電車が高速でホームに進入し、一気に速度を下げていくのとは対照的に、北斗星号は低速でホームに進入し、徐々に速度を下げ、ゆっくりと停車する。「焦り」「急ぎ」「速く」といった言葉を連想させない、実に厳かな入線である。