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ミニツアーの一行は、観光バスで吉永駅へと戻ってきた。先ほど特別なトワイライトエクスプレスを下車したのは和気であったが、乗車するのは吉永からとなる。吉永は和気の1つ東側の駅だが、なぜ下車する駅と乗車する駅が違うのであろうか。どちらも2面3線の駅であり、定期列車の発着をさせつつ、列車を留め置くことができる。和気と吉永の両方の駅の様子を見られたと思えば、別に悪い話ではないのだが・・・。

 1号車・スロネフ25やサロンカーもなかなか特徴的な外見を持つ車両であるが、トワイライトエクスプレスの編成の中で最も目立つのは、今も昔も、やはり食堂車・スシ24であろう。その姿は明らかに24系客車のそれではなく、屋根が低く、冷房装置も露出している。更に細かく見ると、車体の断面も異なっている。そんなスシ24の出自を辿ると、485系列の食堂車、サシ481・サシ489に辿り着く。

 サシ481は1964年に、サシ489は1971年にそれぞれ第一陣が製造され、各特急で運用されたが、1985年に雷鳥・白山の食堂車営業が廃止されたことで、485系列の食堂車の営業はなくなった。結局、サシ481(9)が食堂車として使われたのは、21年間であった。一方、スシ24は、1988年運転開始の北斗星に組み込まれたのを機に、今年3月の特別なトワイライトエクスプレスの運転終了まで、最終的に28年間、食堂車として使われた。

 形式全体で見ても、そしてサシ481・サシ489からスシ24に改造された各車両単体で見ても、結果的に、食堂車として使われた期間は、改造後のスシ24のときの方が長かったということになる。特別なトワイライトエクスプレスの編成に組み込まれたスシ24は、1972年製造のサシ489-4からの改造であり、サシ481・サシ489の仲間の中で最後まで残存し、485系列の食堂車を伝える生き証人となった。

 この特別なトワイライトエクスプレス・山陽コース上り便についた列車番号は「臨特急客9040」であり、ダイヤ上は特急列車なのだが、ここまで見てきたとおり、その走りは惨憺たるもの。運転停車と長時間停車をひたすら繰り返すありさまであったが、ついに普通列車に追い越される場面を眼前で目撃してしまった。1番線にやってきた相生行きの115系の普通列車が、2番線のトワイライトエクスプレスよりも先に出てしまった。

 先ほどの中庄では、1時間29分も停車したことにより、その間、なんと9本もの普通列車に先を越されてしまった。特急列車としての格はどこに行ったのかと嘆きたくもなるが・・・、1分1秒を気にせず、時間を贅沢に使うことを楽しむことが、この特別なトワイライトエクスプレスの旅のミソである。(私以外の)参加者は、普通列車に追い越されても、気にするそぶりもない。無意識のうちに心が広くなることも、この旅のミソである。

 2番線で我々を待っていたトワイライトエクスプレス号もまた、惨めにまみれた雰囲気もなく、威風堂々とその編成を横たえていた。そしてふと、私は「帰宅してきた」という気分に陥った。今やすっかり見慣れた緑色の車体。道中の大半の時間を共にし、過ごしたこの列車は、今やひとつの”家”、愛着を持つ我が家のようでさえある。この安心感は何なのだろう。再度列車に乗り込んだとき、私はホッと一息つくのであった。




































吉永停車中、最後の食事となる昼食が部屋に配達された。当初、食事は全て食堂車で提供される予定であったが、出発時に配られた資料には、「都合により、2日目の昼食は部屋食」とあった。その後撤回され、食堂車でも食べられることになったが、食堂車はもう3度も利用しており、また「部屋まで持ってきてくれるのは、まるでルームサービスのようで、ロイヤルらしい」と思ったため、我々は部屋で食べることにした。

 4度の食事の締めくくりとしてやってきたのは、風呂敷に包まれた竹籠弁当であった。おにぎりとお吸い物も付属させた、料理の内容的にも全体の量的にもバランスのとれた一品であった。ここで写真を見て、すぐにお茶に目が行った方は鋭い。飲み物としてついてきた温かいお茶は、昔駅弁と一緒によく売られた、やけにキャップが大きいプラ容器(風の何か)に入っていたのだ。こういった演出は実に心憎く、汽車旅の旅情を盛り上げる。

 もっとも、熱い飲み物を好まない私は、冷たい飲み物としてアイスコーヒーを頼んだ。どうせならビールとかワインが欲しいところなのだが、このあと夜に車を運転する予定があったため、念のため、アルコール類を控えることにした。弁当も飲み物も、係員が部屋まで持ってきてくれたが、これはかつて、スイートとロイヤルでルームサービスができていたことを彷彿とさせる(”それっぽい”ことをしたいから、こうして部屋で食べたのだ)。

 トンネルに入り、テーブルランプの光が弁当や飲み物を照らすと、一瞬、夜になったかのように錯覚する。夜、個室の照明を消すと、窓への映り込みがなくなり、車窓がよく見えるようになる。昨日の夕食は食堂車で食べたが、客席は明々としており、車窓はくっきりとは見えなかった。食堂車での夕食も素晴らしいが、部屋の灯りを消し、星空さえも手に入れられそうな夜景を眺めながら自室で食べる夕食も、また良かったのかもしれない。

 最後の食事として出てきた昼食も、やはり味については、ケチのつけようがなかった。列車の中で食べるからおいしいのでもなく、車窓を見ながら食べるからおいしいのでもなく、この弁当それ自体が、周到な準備と調理によって作られたからおいしいのである。ひとつの弁当としての本質を磨き上げているからこそ、そこにトワイライトエクスプレスという環境が加われば、本当に鬼に金棒なのだ。




 

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