下関から27時間42分をかけて、特別なトワイライトエクスプレスは、終点の大阪に到着した。普通列車と新快速だけで行く場合でも、下関〜大阪間は10時間程度で移動できるというところを、この列車は、丸一日以上かけて走破した。その気になれば、下関を出たその日のうちに大阪に着くこともできたが、時間をたっぷりと使い、夜行列車として走ったことに、この特別なトワイライトエクスプレスの旅の神髄がある。
昼の大阪駅、京都側に機関車がついたトワイライトエクスプレス。車側灯が点灯し、今日の乗客の登場を静かに待つ。その姿は、まるで、これから札幌に向かって走っていく下りトワイライトエクスプレスのようである。「これから乗り込む」のではなく、「今降りてきた」ということが、誠に不思議でならない。これは札幌行きの入線が済んだ後の光景で、今でも大阪〜札幌で走っているのではないか、と信じてしまえるような気がする。
しかし、発車標に出た「回送」の2文字は、そんな幻想を打ち砕く。このトワイライトエクスプレスは、下関からやってきた特別列車の到着後のものなのだ。大阪〜札幌間での運転が行われていないことは、未だに信じがたい。その事実を受け入れるにしても、「あの改正で」ではなく「この改正で」と思ってしまう。件のダイヤ改正からもう1年近くになるが、本当にそんなに経ったのだろうか、と。
外観の写真はもう十分に撮ってあるが、一応大阪でも機関車の写真を撮ろう・・・と思い、ホームの京都方へ向かうと、そこには、多くの撮影者が集結し、警備員も出動していた。さすがに大阪駅。人の集まりは、下関や光、柳井といった駅とは比べ物にならないほどに多い。綺麗に撮れる位置で撮ろうとするのはもはや不可能で、大半の人は、構図と仕上がりを妥協するしかない。
一方、特別なトワイライトエクスプレスから下車してきた乗客たちは、血眼になって写真撮影に興じることもなく、長旅を共にした乗務員たちと別れの挨拶をしたり、ツアーの添乗員と雑談をしたりと、旅の余韻に浸っていた。乗客と乗務員たちは、この約560kmの旅路を通して、すっかり仲良くなり、私も、食堂車のある従業員に名前を覚えてもらえていた。つくづく、時間は人と人との結びつきを育むものだなと実感する。
乗務員たちの声、ベッドやソファーの温もり、列車の揺れ、食べてきた料理の味・・・。何もかもが、まだどこか近くに感じられる。全て終わったことなのに、なぜかそういう気がしない。列車から降りたなり現実の世界に辟易するかと思ったが、もう少し夢の中にいられそうだ。
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