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ら乗車したのは1組だけであった。乗ること自体が楽しみとなり、長く乗ってこそのものであるカシオペアは、やはり上野・大宮で乗客数の大勢が決定するということか。
部屋でだらだら 受動的な「快適さ」
 カシオペアでは、12号車の車端部にある売店を拠点とする「移動しない車内販売」のほか、ワゴンによる「移動する車内販売」も行われる。ワゴンによる車内販売は、定期的に車内を巡回し、各個室の前を通過していく。
 仙台を発車してからしばらくして、車内販売が回ってきたので、アイスクリームを購入してみた。ディナータイムでは和菓子が出たが、それに続く第2のデザートとしよう。暗がりの車窓を眺めながら、寒冷地を走る列車の温かい車内で食べるアイスクリーム。ささやかなながら、幸せなひとときだ。
 それにしても、カシオペアスイートという部屋は、部屋の中にいながら何でもできてしまうから恐ろしい。その気になれば、どこまでも果てしなくゴロゴロできてしまう。
 乗車駅を発車してからしばらくすると、まずウェルカムドリンクとミニバーセットがやってくる。部屋には便器・洗面台・シャワーがあるから、排泄も、洗顔・歯磨きも、そしてシャワーを浴びるのも、全て自分の部屋の中に居ながらにしてこなせてしまう。
 晩御飯を食べようと思ったら、ディナータイム1回目の懐石御膳であれば、部屋まで配膳してもらうことができる。パブタイムとモーニングタイムは、食堂車へと繋がる電話ひとつでルームサービスにしてもらえる。やろうと思えば、食堂車に全く行くことなく、3回の食事ができてしまうのだ。
 さらに、翌朝のモーニングコーヒーは、こちらが予め指定した時刻に部屋まで配膳してくれるし、何か欲しいと思ったら、こうして車内販売が勝手に部屋の前まで来てくれる。とにかく、こちらがその気になれば、部屋から一歩も出ることなくあらゆる用事をこなせるし、例えそのようにしても、上野〜札幌間を快適に過ごすことができる。こちらからわざわざ他人に会いに行く必要もなければ、何かをしに出て行く必要もないのだ。
 部屋で延々とだらだら過ごして、そのうえ受動的で居続けること。設備とサービスを徹底的に磨いたカシオペアスイートでは、もしかしたら、それが正しい過ごし方なのかもしれない。やれ食堂車だラウンジカーだとはしゃぐのも良いが、それは、どちらかと言えばカシオペアツインに乗ったときの正しい過ごし方
であるように思われる。
 だが、こうしてあまりにも孤高を守りすぎたとき、そこにどこか閉塞感があるような気がするのはなぜだろうか。見知らぬ乗客との交流を楽しまなければならないということはないが、他人の姿を見ることすらないというのは寂しい。他人との遭遇や交流を拒否して孤高を守れる空間も、向こう側を自分側から隔離したのかと思っても、見方によっては、むしろ「隔離された側」になりかねない。
ルームサービスで体験する新世界
 3回目のディナータイムは21:30に終了する。21:30を過ぎてしばらくすると、これよりパブタイムの営業を始めるという車内放送が入った。カシオペアに乗車した以上、これを利用しないわけはない。
 ただし、先ほどのディナータイムで既に食堂車は利用していること、また、SA個室利用者の特権である「パブタイム・モーニングタイムでのルームサービス利用権」を活用したいということもあり、ここでは、ルームサービスをお願いしてみることにした。
 部屋の壁面にある内線電話で「33」と入力すると、3秒ほどで食堂車へ繋がった。「北海道ソーセージ盛り合わせ」と「ホットコーヒー」の2つを注文し、部屋でしばし待機。
 数分後、食堂車の係員が品物を持ってやってきた。部屋の入り口で受け渡しをするのかと思えば、わざわざ階段を上がって2階のテーブルに置きに来てくれたものだから恐れ入る。抜かりのないサービス精神だ。
 時はパブタイム、食堂車で流れる車窓を見ながら軽食を・・・といきたいところだが、辺りが真っ暗になっていると、窓への車内の映り込みが激しくなり(曲面ガラスなので尚更)、実は思っているほど車窓は見られない。
 ルームサービスであれば、照明を消して暗くした部屋で、窓への映り込みに遭うことなく、流れる車窓を見ながら食事ができる。それだけではない。他人の話し声が聞こえることもないから、静かに、静寂の中で、ゆっくりと、物思いに耽りながら食事ができる。
 部屋の照明は一切不要であり、灯りという灯りは、車窓に現れる煌めきで十分だ。だが、頭上にある読書灯を点灯させると、さらに神秘的な世界が誕生した。
 外も中も闇が支配しているというその中で、テーブル上に置かれた料理だけがほのかに照らされ、不思議な存在感を主張する・・・。これまでの人生の中で、私は様々な列車に乗車してきたが、これほど神秘的で「列車ら
▲仙台を発車する 1号車の廊下が蛍光灯の光で明るく照らされる
◆暗闇を見ながらアイスを食べる しかしその行為に深い意味を込める必要はない
ただただそうやって無為に時間を過ごせることが何よりも素晴らしい
▲内線電話を使ってパブタイムのルームサービスを頼む 上級個室の特権だ
▲北海道ソーセージ盛り合わせ こうしたものを自室で食べられる
▲ホットコーヒー ルームサービスでも紙カップではなく陶器のカップなのは嬉しい
▲部屋の照明を消して料理を味わう こんな形のパブタイムも悪くない
◆部屋の照明を消してしまえば映り込みはなくなる これぞ真の「流れゆく車窓を見ながら楽しむ食事」と言えよう
▲読書灯で皿を照らす 照らされる皿やソーセージがか細く光った





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