※各画像はクリックすると拡大します



はそんな意識などなかったのだが。
 その理由は簡単だ。カシオペアという列車内においては、これは特別なことではないからである。カシオペアに乗っている者ならば、誰もがこの「贅沢な行為」を実践できる。日常生活という「外」から見れば、いかにも凄いことをしているように思えてしまうが、カシオペアという「内」から見れば、あまりにも普通のことでありすぎて、特にどうということはない、と思ってしまうのである。内から内を見ても、それは「普通」にしかならない。
ゆったりと流れる寛ぎの時間・・・
 朝食をゆっくりと味わっている間にも、列車は終点の札幌へ向けて進んでいく。食堂車であれば。あまりにものんびりと食べ過ぎている場合、回転の都合もあって急かされそうなものだが、自分の部屋であれば、食堂車の営業終了までに食べ終えれば良い。
 他の乗客を考えることなく、自分の好きなように、時間をかけてゆっくりと朝食のひとときを過ごせるのは、実は、ルームサービスの最大の利点かもしれない。
 7:13に洞爺に到着する。洞爺に限らず、比較的長さのある曲線に差し掛かると、1号車からは、2号車以下と機関車から成る編成が反る様子が見える。ピンとした張りを持っているかのように反る編成の向こうには、時に駅や街があり、そして雄大な山々がある。車窓は移ろいゆくもの・・・。当たり前のことだが、それを改めて実感する。
 朝食を食べ終えたので、電話で食器の回収をお願いするとともに、食後のコーヒーを配膳してもらった。6:00過ぎにモーニングコーヒーを飲んだときは、まだ夜明け前であったが、今はすっかり明るくなっている。先ほどのモーニングコーヒーは「暗闇に移ろう車窓を見て、新たな一日に目覚めていくもの」であったが、今から飲む食後のコーヒーは、さしずめ「旅路の終わりを予感し、最後にゆったりと流れる寛ぎの時間を味わうもの」か。
 何かを意識することもなく、そしてもはや視線を動かすことすらもなく。北の大地の風景が、眼前を左から右へと流れていく。一口、そしてまた一口とカップを啜るたびに、その音と味が霧散し、目の前に展開する光景が変化していく。まさに寛ぎのひとときであった。
 何か発見はないだろうかと思って、12号車のラウンジカーへ向かってみた。最上級個室であるカシオペアスイートは1号車と2号車に配置されているが、ラウンジカーは編成端の12号車であり、全く正反対の位置に連結され
ている。あらゆる面において優れたカシオペアスイートだが、ラウンジカーに行くときだけは、カシオペアツインの乗客よりも長く歩かなければならず、玉に瑕である。
 ただし、「展望スイート」と「展望ラウンジ」を両立させる場合、このようになるのはやむを得ない。トワイライトエクスプレスのサロンカーは4号車に連結されていて、スイート・ロイヤルからも近かったが、それは展望タイプではないからこそ成せたことである。
 もっとも、ラウンジカーは「長距離・長時間を走るカシオペアの中で息抜きをする場所」。最初から非常に快適な空間が用意されているカシオペアスイートならば、狭苦しさも息苦しさも感じるはずはない、わざわざラウンジカーへ行くこともなく、自室で孤高を守り続けることであろう・・・という前提になっていると捉えることもできる。
 8:10過ぎというこの微妙な時間帯、どれほどの人がいるものかと思いながらラウンジカーへ入ると、10人ほどの人がいた。眼前に迫る迫力あるDD51形に息を呑む子供、残された時間も少なくどこか名残惜しそうにする女性、水入らずの時間を過ごす夫婦・・・。行動も心境も多様だが、ラウンジカーでは、実にのどかで穏やかな時間が流れているものだな、と思った。ゆったりと流れる寛ぎの時間は、ここにもあったのだ。
 12号車・カハフE26形は、車端部に展望スイートばりの三枚窓、両側面に各個室の窓よりも一回り大きい窓が3枚設けられ、開放感が高く、視界が広い。各個室の窓もそれなりに大きいが、窓1枚分の視界しかない。その点から言えば、ラウンジカーは窓9枚分の視界が確保されていることになるわけで、視界がとても広い。前から後ろへ、絶え間なく、そしてダイナミックに流れていくラウンジカーの車窓は、カシオペアの隠れた見どころのひとつなのではないかと思う。
迫りくる北の都 旅路は終着点へ
 白老では先行する普通列車を追い抜く。カシオペアという列車は、新幹線や航空機と対比する存在として取り扱われることが多く、「ゆったり、のんびりとした列車」という印象を持たれがちであるが、れっきとした「特別急行」であることを忘れてはならない。
 加減速の鈍い客車列車であり、また函館〜札幌間の最高速度は95km/hという数値ではあるものの、先を急いで走り続ける特急列車としての本分も忘れてはいない。
 残された僅かな時間の楽しみ方は、人それ
▲青空ではないが爽やかな朝 朝の目覚めにも悪くない天候である
▲洞爺駅へ進入するカシオペア 5色の色帯が一直線に編成を走り抜ける
▲紋別岳と稀府岳だろうか 行く手の先に立派に聳える山々が見える 
▲伊達紋別に到着 降車の有無は別だが停車駅はおおむね特急北斗に準ずる
▲再びのホットコーヒー 今度は明るくなった車窓を見ながらの寛ぎのひととき
▲長い旅路も終わりに近づいている ラウンジカーでは残された時間を楽しむ人が集う
▲明るく開放的なラウンジカー 眼前に迫るDD51形の姿は迫力満点であろう
▲白老で普通列車を追い抜く 先を急ぐ特急列車らしさも忘れない





                  10  11  12  13  14  15  16  17  18 
DISCOVER どこかのトップへ

66.7‰のトップへ