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想であったなら、せっかくのおいしい料理やディナータイムにも傷がついてしまう。
 世間で幾度も垣間見る人々の余裕のなさやイライラは、カシオペアには存在しないようである。ゆったりと時間が流れる列車の中では、人々の心もゆったりとしている。
晩餐の後の静かな時間
 食堂車での晩餐を終えて自室へ戻る。3号車の食堂車より札幌寄りの4〜11号車はカシオペアツイン、上野寄りの1〜2号車はカシオペデラックス・カシオペアスイートとなっており、A個室とSA個室の利用客が、それぞれ違う方向へ帰っていく。食堂車を境に「居住空間」が分けられている格好だ。
 カシオペアツインが並ぶ車両ではどうなっているのかは分からないが、カシオペアデラックス・カシオペアスイートが並ぶ2号車と1号車の廊下は静かであった。人の話し声はもちろん、物音も全く聞こえなかった。
 廊下に寝台車のお約束の「ジャンプシート」でもあれば、そこに腰掛ける人の姿を見て、ああこの車両にはこんな人がいるんだな、と思うこともあったのかもしれないが、E26系にはジャンプシートなどない。廊下と室内を仕切る扉に遮られた向こうの空間など知りようはなく、顔や様子を窺い知ることもままならない。そうなると、いよいよ人の気配さえも感じにくくなってくる。
 座席車にしても寝台車にしても、鉄道というものは、他の見知らぬ人と混じり合う「公共の場」であるはずなのだが、個室寝台車では、その概念は通用しないのかもしれない。廊下に立っている限り、他人がいるような感覚はまるでない。ずらりと並んだ個室、誰もいない廊下は、まるでアパートの一角のようである。そして個室の中は自宅の延長のように機能し、その住人は他人に気兼ねすることなく、自由気ままに過ごすことができる。
 食堂車で晩御飯を食べているうちに、辺りはすっかり暗くなってしまっていた。列車は17:15〜18:15のディナータイムのうちに宇都宮を過ぎ、郡山へ向かって北上している最中である。こうして外界が暗闇に閉ざされるようになると、建物の灯りや踏切の光が織りなす光芒が車窓の楽しみとなってくるのだが、既に東京も埼玉も通り過ぎており、地方の郊外においては、建物の密度は低い。
 那須塩原、新白河といった新幹線併設駅を通過しつつ、列車は本州を北へ進んでいく。幸か不幸か、我がカシオペアを追い抜いて行く新幹線の姿を見ることは、23:14着の盛岡
まで目にすることはなかった。寝台列車に乗っている間くらい、「速さ」を連想させるようなものは見たくない・・・。それを言うと、カシオペアは「特急」だろう、と指摘されてしまいそうだが。もっとも、私は遅すぎるものも嫌いである。客車特急の何とも言えない適度な「速さ」は、とても心地良く感じられる。
 上野を発車した後、初めて室内の時計に目をやると、時計は「6:54」を示していた。上野を発車してから既に2時間30分以上が経過していて、辺りは暗くなり、東京都から福島県へと移り変わり、晩御飯も食べてしまったが、150分という時間が経過したことの具体的な実感はない。そのうえ疲労感も一切なく、列車に乗って移動していることを忘れてしまいそうな気分である。
 ディナータイムが終了する21:30過ぎからパブタイムが始まるが、それまでの間は、特にすることがない。部屋の照明を消して、映り込みがなくなった窓越しに、暗澹たる闇夜をぼんやりと眺める。夜を走る夜行列車、個室寝台車ならではの至福の時間である。
 車窓の良し悪しだけで言えば、本州内の車窓は、北海道内の車窓には到底及ばない。何より、まだ雪が一切なく、それに夜であるために、辺りもよく見えない。
 だが、絶景であるかそうでないか、雪があるかないか、明るいか暗いかは、別にどうでも良いのである。夜行列車とは「夜を行く列車」であり、その真髄、楽しさの核心は、夜にこそ詰まっているのだ。
 夜の景色。夜景。これこそが、夜行列車の全てである。車内を一瞬照らす、伸びゆく光芒と明滅する灯り。それは、夜行列車においては、何よりもの絶景であり、何よりもの価値ある時間である。
 19:12に郡山、19:50に福島にそれぞれ到着する。ホーム上でカシオペアを撮影する人はいても、カシオペアに乗り込んでくる人は、いずれも見当たらなかった。北斗星の場合、開放B寝台車、1人用B寝台個室ソロが連結されているということもあってか、一般的な移動手段としても使われているようで、数人ながら、途中駅からの乗車もある。
 仙台が近づくにつれ、街明かりが増えてくる。宇都宮・郡山・福島もたしかに街ではあったが、人口約107万人の仙台市は、やはりそれらの街を越える活気がある。
 列車は20:57に仙台に到着する。上野・大宮以外の駅で乗車がある可能性が高いのは、ここ仙台と考えられるが、この日仙台か
▲すっかり闇深くなった車窓 しかしまだ雪は見当たらない それどころか雨模様である
▲新白河を通過 新幹線のように一瞬で来たのではないだけに距離を実感する
▲上野を出てから既に2時間30分以上が経過している しかし疲労は一切ない
▲寝室に車窓の光が舞い込む 寝ていても移り変わる景色 視界には何が映るのか
▲郡山で719系と遭遇 走るにつれてすれ違う車両の種類は変化していく
▲暗がりの車内 伸びゆく光芒 明滅する光が車窓を彩る
▲名取を通過 列車は次の停車駅である仙台へ向かって走る
▲仙台に到着 1組だけ乗車があった ここで荷物の搬入出が行われた





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