最後尾となり、展望スイートばりの後面展望が楽しめる。あいにく展望スイートの民になれなかった者も、青森〜函館間では、1編成1室の特等室にいるような気分になれる。
青函トンネルの通過が控えているし、恐らく先客がいるであろう・・・と思いながらラウンジカーに参上したら、ところがどっこい、誰もいなかったものだから拍子抜けした。
そういえば、上野では、とある旅行会社のツアー客が大挙してカシオペアの入線を待っていた。憧れの・・・豪華寝台特急・・・などと銘打ち、カシオペアを組み込んだツアー商品は多い。そういうものに参加する人の年齢は、割合高いものだ。さすがに深夜の3時台・4時台まで起きてはいないのだろう。
若者が旅をしなくなる(それが若者のせいだとは思わない)一方で、年をとっても、旅が好きであれば、人はどこへでも出かける。高齢化が進み、旅行者の平均年齢もますます上昇していくであろう今後、寝台列車の需要は高まるような気がするのだが・・・。
深夜も元気な人々 列車は海峡越えへ
もちろん、今日のカシオペアの乗客全てが高齢者というわけではないので、「若者も含め、青函トンネルもいよいよ物珍しくなくなったのか」と思った。しかし、やはり青函トンネルの通過は一大イベントであるようで、中小国通過後、青函トンネルへの突入が近いと知ってか、老いも若きも、深夜でもなお元気な人たちがラウンジカーへやってきた。単に私が気が早かっただけのようである。
夫婦で来た人、母娘で来た人、兄弟で来た人、そしてあるいは1人で来た人など、様々な人たちがラウンジカーにやってきたが、それぞれの間に新たな交流は生まれない。各組の中では会話があっても、今このカシオペアの車内で初めて出会ったであろう見知らぬ人との会話は、全く起こらないのだ。
夜行列車の魅力のひとつとして、「見知らぬ人との一夜限りの出会い」が挙げられることがある。しかし、殊にカシオペアにおいては、それは当てはまらないように思われる。
その原因は「全車2人用A寝台個室」という編成内容に求めることができよう。全ての寝台が2人用個室となると、気心の知れた者同士2人での乗車が基本となる。孤独を愛しつつも、心の拠り所がなく、人を求める一人旅の者がいる場所ではないのだ。
自分のことをよく知る者と一緒に乗車していれば、心細さも寂しさもない。心の拠り所はすぐそばにある。そうなると、わざわざ見知ら
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ぬ人との出会いを求める必要はない。個室内、そしてラウンジカーでも、「知る者同士」で楽しく会話を弾ませれば十分なのだ。
各組が各組の中でだけ通じる会話を展開しても、人々の視線が向く先は一様である。後ろへと流れゆく光、そして限りなく伸びゆく線路。いくつかのトンネルを抜けた末に突入した、入った瞬間に窓が曇るトンネルこそが、お待ちかねの青函トンネルである。
以前は、本州側の入口で青色の蛍光灯が灯っていて、それが青函トンネルの印であった。もっとも、現在は行われていないが。しかし、年間を通じて高い湿度が保たれている青函トンネルでは、突入した列車の窓が瞬く間に曇ってしまう。青色の光がなくとも、これが青函トンネルであることを教えてくれる。
人々の注目と関心を集める青函トンネルといえども、「トンネルはトンネル」である。灰色の壁とレールが繰り返すだけの至って無機質な車窓しか見られない。最深部の青色と緑色の蛍光灯も今はなく、蛍光灯は延々と白色のものが続く。かつての竜飛海底駅と吉岡海底駅は、蛍光灯の密度が高く、トンネル内でもひときわ明るくなっている。
ラウンジカーには「思い出ノート」なるものが備えられていて、カシオペアに乗車した人たちの思いが綴られている。そこからは、カシオペアという憧れの列車に乗れたことの喜びがひしひしと伝わってきて、読んでいるこちらもどこかほっこりとする。そう、「なんとなく」カシオペアに乗ってくる人などいないのだ。この憧れの列車に乗り込むとき、人々は、大きな期待と喜びを胸にしている。そして、それらの思いは、決して裏切られなかった。ノートを読むと、そのことがよく分かる。
定刻では4:12ごろに青函トンネルを抜けるが、今日は少し遅れて抜けたようだった。長らく続いた規則的な走行音が止んだその瞬間こそが、北海道上陸の瞬間である。
しかし、青函トンネル突入〜脱出を起きて立ち会うと、北海道上陸というものが、意外なまでにあっけないものに感じられてしまったことに気がつく。長いトンネルを走り終えたことはたしかなのだが、それがイコール北海道上陸にうまく繋がらない。むしろ、夜はきちんと眠って、「朝、目覚めたら、そこは既に北海道であった」となる方が、よほど北海道上陸を実感しえるような気がする。
ラウンジカーの面々も散り散りになった。単線の江差線を走り、約6分遅れた5:08に、カシオペアは函館に到着した。いくら御託を並
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▲後ろへと流れゆく風景 光は筋となり果てしなく伸びていくように感じる |
▲青函トンネル内を走行中 灰色の壁とレールが延々と続く無機質な風景 |