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 近年の鉄道におけるサービスの簡素化は「目覚ましいもの」があり、グリーン車サービスの廃止、車内販売の廃止といったことが、会社を問わずJR各社で相次いでいる。そんな中、ウェルカムドリンクやミニバーセットの提供が、列車の運転開始時から継続して行われているのは嬉しい。
 もちろん、グリーン料金など目ではない寝台料金を徴収しているのだから、こうしたサービスを行うのは当然でさえある。とはいえ、時代に逆行して手厚いサービスの提供を続けていることは、評価されても良い。
 まだ明るい上野を発車して、列車は東北本線を北上していく。車内放送で遠い地の駅名を聞くときに高まるあの旅情は、今カシオペアに乗っている人であれば、誰もが共感してくれるであろう。高まる旅情、旅路への期待。人々が豪華寝台特急に抱く夢と浪漫こそが、この列車の原動力である。
おいしいものをおいしいと感じるディナー
 大宮を過ぎて東北本線を北上する最中、「第1回目のディナータイムをご予約のお客様、準備が整いましたので・・・」という放送が入った。食事予約券を手にして、3号車にある食堂車・ダイニングカーへ向かう。
 本来ならば2回目、あるいは3回目のフランス料理を堪能したかったのだが、フランス料理の食事予約券の購入を試みたものの、2回目も3回目も既に予約がいっぱいとの回答だった。懐石御膳のみが提供される1回目に何とか滑り込むことができたが、寝台券のみならず、ディナーの食事予約券までもが争奪戦になっているとは思いもよらなかった。
 カシオペアデラックス、あるいはカシオペアスイートの利用客は、1回目の懐石御膳に限り、自室へのルームサービスとすることも可能である。だが、「どうせなら食堂車で食べたい」と思う人も多かろう。私もその1人であった。流れゆく車窓を見ながらの晩餐は、やはり、食事をするために設計された専用の空間で過ごしたいものだ。
 ダイニングカーの階段を上って客席へ向かうと、食事予約券を回収されたうえで、係員に席を案内された。懐石御膳ゆえ、フランス料理ほどの華やかさはないが、2段重ねの容器に丁寧に誂えられた料理は、華美を抑えて落ち着きを払っている。飲み物(別料金)を注文し、それが届けば、いよいよ華麗なる晩餐の始まりである。
 豪華寝台特急のディナーだからといって、特別な格式や正装を求められることもなけれ
ば、格別に優れたマナーが求められることもないのだが、やはりどこか緊張して落ち着かない。パブタイムやモーニングタイムとはまた違う空間であるように感じる。
 2月半ばで多少は陽も長くなってきたが、それでもまだ冬場である。食事を始めるころには、外は既に薄暗くなっていた。ディナータイムの1回目は17:15〜18:15と、晩御飯にはやや早いのだが、辺りが暗くなりつつある状況下での食事となると、それなりに「ディナー」としての雰囲気も出てくるものだ。
 各料理の味が優れているのは、今更言うまでもない。準備と調理には相応の時間をかけているのだろうから、それは当たり前でもあるのだが、「おいしいものをおいしいと思いながら、ゆっくりと料理を味わえること」が、いかに素晴らしいことか。ここは「腹ごしらえをする」列車食堂と言うより、まさに「料理を味わう」地上のレストランの延長である。
 予めテーブル上に2段重ねの容器があったため、全ての料理は既にその中に入っているのかと思っていたが、「季節御飯」・「揚物」・「お吸い物」・「甘味」は、時間を追って順に後から配られた。ご飯の温もり、揚げ物のサクッとした食感、湯気さえ立つお吸い物の温かさ。後から配った効果か、どれもおいしさの中核となる要素が失われておらず、その料理が表現したい味が伝わってくる。
 最後に「甘味」として温かい日本茶と和菓子がやってきて、これをもって懐石御膳の全ての料理が配られた。様々な料理のおいしさが入り混じる口の中を日本茶で整えて、約1時間のディナータイムが終了した。
 この素晴らしいディナータイムの主役は何かと言えば、もちろんおいしい料理である。しかし、ディナータイムの運営に携わる係員たちの姿も見逃せなかった。
 揺れる列車内で、次々と舞い込む仕事をテキパキとこなし、2回目・3回目のディナータイム、パブタイム、モーニングタイムでの接客も控えているとなると、どこか余裕なさげになって、ややもすれば内心のイライラがこぼれても不思議ではないのだが、笑顔と丁寧さを忘れず、時には思い出作りをと記念撮影を提案する係員たちの姿は、見ていて気持ちが良い。ディナータイムを楽しむ他の乗客たちの笑みが、係員たちの優れた接客を何よりも見事に反映している。
 モノの質も大事だが、モノを生み出すヒトの態度は、それ以上に大事である。どんなに料理がおいしくとも、仮に接客が無機質で不愛
▲すっかり見慣れた車窓 しかし夜行列車から眺めるとどこか違うのはなぜだろう
▲懐石御膳のディナーの予約券 1回目は17:15〜と晩御飯にはやや早い
▲座席車でも寝台車でもない食堂車 食事の楽しさを演出する(翌日撮影)
▲まさに「もてなされている」感のあるディナーの席 豪華寝台特急の売りのひとつ










※渡し箸などという醜態を晒した写真を掲載していることをお詫び申し上げます。


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