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 EH800形が回送されていくと、ラウンジカーにいた人々も皆ねぐらに帰ってしまい、ラウンジカーは私だけしかいなくなってしまいました[①]。このころ、1号車の展望スイートの眼前では、EF81形の連結作業が行われていることでしょうが、それを見られるのは、ただ1室しかないそこを勝ち取れた”選ばれし者たち”だけで、これから1:55の発車まで、展望スイート以外の乗客にとっては、退屈な時間が待っています。

 「ラウンジカー貸し切り状態」は、たしかに気持ちの良いものですが、過去3度の乗車でも既に体験していて、そのうえ車窓が変わらない(停車している)とあっては、ここに居続けても特に面白いことは何もないので、しばらく貸し切り状態を堪能した後、私も自室に帰ることにしました[②]。全室個室であるカシオペア号では、深夜帯であっても、廊下やデッキの照明は、全車両で常に明々と灯ります。

 E26系には、ワゴンで回る車内販売のほかに、12号車で営業する売店があります[③]。「次の車内販売はいつ回ってくるのか」といったことを考える必要がなく、常時買い物ができるという点では、非常にありがたいと言えますが、当然のことながら、このような深夜には営業していません。その向かいの壁には、取り扱っているグッズの一覧が掲示されていましたが、「トートバッグお楽しみセット」は、さすがに手が出にくいです[④]

 カシオペア紀行も、そして2016年2月に乗車した特別なトワイライトエクスプレスも、なぜかシャワーカードの一般販売は行わず、個室内に予め組み込まれているシャワーのみ使用できる(つまり上級個室利用者以外はシャワーを使えない)という運用をしていました。なぜそのような制度にしているのか不思議ではありますが、では実際のところ、共用のシャワー室は今どうなっているのか?

 それが気になって、10号車にあるシャワー室に立ち寄ってみました[⑤]。鍵部分に「あき VACANCY」と表示されているので、施錠されてしまっているということはないようです。そんなわけで扉を開けてみると、脱衣所の照明は点灯していて、状態表示は「シャワー営業中です」の緑色のランプが点灯していました[⑥]。更に浴室も見てみると、内部は綺麗で、残り時間表示も稼働していました(=電源が入っている)[⑦]

 これを見る限り、シャワー用の水は充填してあって(もし共用シャワーが利用不可で、それゆえにタンクも空ならば、このような状態にはなっていないはず)、カードを入れさえすれば、お湯はきちんと出てきそうに見えます。A2個室の利用客は本当に使えないが、万が一SA2個室にあるシャワーが壊れてしまった場合に備えて、その利用客のために、数回分のシャワーは使えるようにしてある、といったところでしょうか。










































 青森駅[①]。そこは、夜行列車界の冬の時代にあっても、「夜行列車の聖地」たる駅でした。例えば、既に夜行列車界がボロボロの状態に陥っていた2010年においても、北斗星号・カシオペア号・トワイライトエクスプレス号・はまなす号・あけぼの号・日本海号の計6種の夜行列車(運転停車だけのものも含む)が発着する駅で、東京駅や上野駅など目ではありませんでした。

 それが、今となっては、たまに運転されるカシオペア紀行を除いては、青森駅を発着する夜行列車は、全て消滅しました。トワイライトエクスプレス号(大阪〜札幌時代)を除く、先の5つの夜行列車で青森駅を通過した/乗下車したことがある私は、かつてを懐かしむばかりです。そのうえ、北海道新幹線の開業によって青函特急を失った青森駅は、本州⇔北海道の長距離移動にも関与しなくなり、ただのローカル駅に成り下がってしまいました。

 青森駅の駅名標を見ながらそのようなことを考えていると、時刻は1:55になり、約40分間の運転停車を終了して、カシオペア号は、上野駅に向けて再び動き出しました[②]。進行方向は再度変わり、1号車が上野寄りになっています。そして、これから走るのは東北本線・・・、もとい、青い森鉄道線といわて銀河鉄道線。寝台特急の”通行料”が大きな収益源でしたから、カシオペア紀行が通過するだけでも、両社に少しは貢献できるでしょう。

 自室の窓には、シャーベット状になった雪が張り付き、この窓を隔てた向こう側にある凍てつく世界の厳しさをうかがわせます[③]。窓を挟んで、片や北国の美しくも過酷な環境があり、片や豪華寝台特急が織り成す、温もりと華やぎの環境がある。その対照的な2つの世界の存在を認知し、そして「温もりと華やぎ」の側に身を置いていることを思い出したとき、乗客たちは、改めて豪華寝台特急の空間に包まれていることを実感します。












































 夜行列車が夜行列車であるとき、あるいは夜行列車が夜行列車らしくなるとき。それは、いったいどのようなときでしょうか。人によってその答えは異なるかと思いますが、私は、「寝静まった街(郊外)を駆け抜け、窓からは満天の星空が見えるようになったとき」こそが、夜行列車が自らのアイデンティティを確立すると考えます。そして今、どうやら機は熟したようです。

 深夜も2時台になり、この列車に乗っている人たちも、そして家々にいる人たちも、大方は寝床についたことでしょう。そして、カシオペア号は青森市の街中を抜け、郊外を走っている最中です。今、カシオペアデラックスの大きな窓から車窓を眺めると、そこには素晴らしい星空がありました[①]

 普通に写真を撮っても星は写らないので、長時間露光で星を捉えようと試みますが、やはり走行中であるがゆえに、踏切の赤い光が通過したり、木々が視界を遮ったりすることがあるため、星空の撮影は難航します。私がまさにこの目で見た星空をそのままお伝えできないのが残念ですが、雪にまみれた道内や青森市内とは違い、空は澄み、夜空には無数の星々が展開していました[②]。 <実際に見た星空のイメージとしてはこんな感じ>

 例え世界一の星空があったとしても、室内側の照明が点いていては、窓に室内の様子が映り込んでしまい、夜空を観賞することはできません。そのような意味では、寝台車、それも個室寝台車に乗っていてこそ、初めて美しき夜空を楽しむための下地が整えられます[③]。今このとき、カシオペア号はまさに夜行列車らしくなり、私はその神髄を味わっています。もしかすると、フランス料理を食べていたときよりも幸せかもしれません。

 もうそろそろ丑三つ時になろうかというとき、遠くに街灯りが見えました[④]。青森発車後に、青森県内であれだけの立派な街灯りが見えるのは、八戸市以外にはありません。もっとも、「遠くに見える」のは、東北本線(青い森鉄道線)が市街地を通過しなかったためで、市の中心部に位置する駅は、八戸から2つ目の八戸線・本八戸駅となっています。市街地を通っていれば、まさに「街灯りがすぐそこに」となっていたはずです。

 そして3:01、カシオペア号は、やたらと明るい(ホーム上の自動販売機等が意外と眩しい)八戸駅を通過しました[⑤]。誰もが眠っている時間帯でさえ、その歩みを止めることなく、目的地に向かって走り続けることこそが、夜行列車が夜行列車たる所以。鉄道ならではの揺れ、音は、嫌いな人にとってはさぞかし不快でしょうが、好きな人にとっては、眠りを誘発するための格好の材料になります。

 「せっかくのカシオペア号(夜行列車)。一眠りもしないのでは、さすがにもったいない」。眠るのはもったいないというのも正しいですし、起きているのはもったいないというのも、また正しいです。ただ、私は、16:43に札幌を発車して以来、約10時間30分に渡って”取材”を継続しています。そういうこともあって、夜汽車の車窓を眺めるのもそこそこにして、私もしばしの眠りに就くことにしました。



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