−7−

※各画像はクリックすると拡大します。






















 正直、九州横断特急5号に乗って人吉へ行くという段取りは、あまり気の進むものではありませんでした。緒方〜人吉間、所要時間3時間33分というのは、ぶっちゃけ長すぎる・・・と。夜行列車であるサンライズ瀬戸号を除けば、この九州横断特急5号への3時間33分の乗車というのが、今回の旅での1つの列車の乗車時間としては、最も長いものです。

 さて、この旅をする前に指定席の空席を照会したときは、九州横断特急5号の指定席は満席との回答が返ってきたんですが、いざ乗ってみると随分と空いていて拍子抜け[①]。まあ、この先乗ってくるんでしょうが。乗ったときから満員という状況を私は想定していたんですが、裏切られました。

 このキハ185系の窓の框には、飲み物を置くためと思われるくぼみが設けられていました[②]。なかなか面白いと思ったんですが、実情としては本来なら框全体をくぼませているところを、部分的にしただけ、というところでしょうか?

 九州横断特急号は、JR九州の位置付けとしては”観光特急”のようで(運転区間が長く、また熊本と大分という2つの県庁所在地を結んでいるというあたり、実用性重視の普通の特急と思っていた)、乗車記念のスタンプがありました。スタンプは、どこかに置いてあってそこへ乗客が押しに行くというものではなく、客室乗務員が持ち歩きながら、希望する人に押してもらうという形式をとっていました。

 というわけで、せっかくなので乗車の記念に押してみましたが[③]、丸の中に「九州横断特急」とあるだけという、実にシンプルなものでした(何かしらの絵が入っていると思っていたのに・・・)。台紙の白い部分の面積とスタンプの大きさにあまり差がなく、「これは綺麗に押すのは難しい」と思いながら押しましたが、結構上手くいきました。で、客室乗務員の人に「お上手でございます」なんて言われました(笑)

 豊後竹田、豊後荻、宮地と停車すると、次の停車駅は阿蘇です。宮地〜阿蘇間では、進行方向左側に阿蘇山を見ることができます[⑤]。曇天なうえに霞んでいたので、くっきりと見ることはできませんでしたが・・・。なお、この阿蘇山が見える区間では、客室乗務員による案内放送が流れます。

 そして16:47に阿蘇に到着しますが[⑥]・・・、まぁ観光客が乗ってくるわ乗ってくるわ。ガラガラと言っても差し支えないぐらいだった1号車指定席も、あっという間に満席になってしまいました。なるほど、阿蘇から乗ってくる人が多かったというわけだ。そして何より驚いたのが、そのたくさん乗ってきた観光客の中に、結構な数の中国(韓国?)人がいたということ。阿蘇で私の隣に座ってきた人もそうでした。

 座席の背面テーブルには、「TRANS-KYUSHU LIM ITED EXPRESS」と刻まれているんですが[⑦]、私は「これはひょっとして製造時のミスではないか」としばらくの間思っていました。「TRANSのAとNの間に”I”がないではないか」と。しかし、他の座席のテーブルを見てみても、いずれも刻まれているのは「TRANS」。・・・もうお気づきかと思われますが、私は「トランス」ではなく「トレインズ」と勘違いしていたんですね。

 阿蘇の次の停車駅は赤水。その赤水〜立野間には、かの有名なスイッチバックがあります。まず列車は、進行方向左側に山々を見ながら、茂みの中へと入っていきます[⑨]。そして行き止まり地点で一旦停止した後、逆走を開始します。このときに車窓から見える線路は、この後立野駅を発車した後に通っていく線路です[⑩]

 そして17:11、列車は定刻に立野に到着しました[⑪]。赤水を発車したのは16:56ですが、このように途中でスイッチバックを行うこともあって、1駅間ながら、赤水〜立野間の所要時間は15分でした。ここで宮地行きの普通列車と列車交換を行いましたが、あちらは立野17:04着で17:14発。一方こちらは立野17:11着で17:13発。このあたりは、特急列車として優先されているということでしょうか。

 17:23、列車は肥後大津に到着[⑫]。大分を出てからずっと非電化だった豊肥本線ですが、肥後大津から先は、終点の熊本まで電化区間になっています。電化されている肥後大津〜熊本間は、熊本都市圏の通勤・通学の圏内で、列車の本数も多くなっています。

 電化区間となり、架線柱が車窓に現れるようになった豊肥本線[⑬]。とここで、客室乗務員から、乗客1人1人に飴が配布されました[⑭]。グリーン車であれば、こういうサービスがあっても大して不思議に思いませんが、今私が乗っているのは普通車です。驚きましたね。

 17:45に水前寺、17:47に新水前寺と停車していきますが、この両駅の周辺は凄いですね。マンションだらけでした[⑮]。なお、新水前寺駅は、路面電車の新水前寺駅前電停と歩道橋で接続していて、その路面電車に乗れば、熊本市の中心部へ行くことができます(結構有名な話かもしれませんが、JRの熊本駅は、市の中心部からは外れたところに位置しています)。

 列車は残りわずかとなった豊肥本線を進んでいきます。線路が右へ曲がり、進行方向左側に九州新幹線の高架橋が見えるようになると[⑯]、間もなく熊本です。熊本に到着すると、大分〜熊本を結ぶ、全長148.0qの豊肥本線の全線乗車が果たされます。

 そして17:53、列車は熊本に到着しました。いくらJRの熊本駅が市の中心部から外れていると言っても、九州新幹線や鹿児島本線と接続する駅であり、またJRにおける熊本市の代表駅です。混み合っていた1号車指定席からも、車内の通路で下車の順番待ちが発生するほどの数の人が、ぞろぞろと降りていきました[⑰]。なお、乗る方に関しては、

 緒方を15:52に出て、17:53着の熊本までやってきましたが、私が下車するのは19:25着の人吉。緒方〜人吉間3時間33分という所要時間から考えると、まだ1/3以上残っています。列車は熊本で進行方向が変わるため、引き続き前向きに座りたい場合は、座席を回転する必要があります[⑱]。ただ、熊本から先も乗車するという人はかなり少なかったので、逆向きのまま放置された座席も多数ありましたが・・・。

 熊本では、進行方向が変わることのほかに、もう1つ大きな変化が起きます。それは、全車両が自由席になること。1号車も、始発の別府から熊本までは指定席として扱われてきましたが、熊本から先、終点人吉までは自由席となります[⑲]。このため、私が購入した九州横断特急5号の特急券も、緒方→人吉全区間の特急券と緒方→熊本の指定席券(ノミ券)の組み合わせという形になりました。

 自由席になるということは、当然、どこに座っても構わなくなるということです。そこで、ここまで座った5番D席から、前面展望ができる最前列の席へと移動しました[⑳]。残りの区間、熊本→人吉間は、この席で前面展望を楽しむことにしましょう。


























 熊本には3分停車して、17:56に発車します。最前列の席で前面展望をすると言っても、キハ185系は、最前列の席と運転室の間にデッキがあるなど、特に前面展望に考慮した設計とはなっていないので、眺めはあまり良くありません[①]

 熊本を発車してしばらくすると、進行方向右側に熊本車両センターが展開しますが、そこで留置されている車両の中には、かつて富士・はやぶさ号で運用されていた14系の姿もありました[②]。同列車が廃止された後も、しばらくは各種リバイバル(もどきの)列車で使用されましたが、そのあとはずっとここで雨ざらしにでもなっていたのか、車体の状態はかなり悪いようでした。普通なら、もう解体されてもおかしくないと思うんですが、わざわざ置いてあるということは、何かしらの方法で活用される・・・ものだと思いたいですね。

 1号車には謎の小部屋がありましたが、ここはいったい何なのでしょうか[③]。見た感じ、かつては公衆電話が設置されていた部屋というように思えましたが。現状は気分転換用のフリースペースというところなのかもしれませんが、そう称するには若干狭いです。

 運転室の窓越しに前方を眺めれば、向こうからやってくる列車の正面の顔を拝むことができます[④]。しかし、その対向列車がこのような2両編成だったりすると、すぐにすれ違いが終わってしまうので、ちょっとつまらない。熊本〜新八代間も、九州新幹線が全通する前はリレーつばめ号が頻繁に往来していましたが、今では、同区間の優等列車は、下り3本・上り4本の特急九州横断特急号と、下り2本・上り1本の特急くまがわ号だけです。

 新八代駅の手前で見える、築堤を駆け上がっていく非電化の線路[⑤]。この線路は、リレーつばめ号が専用で使用していた、新幹線ホームへのアプローチ線です。九州新幹線が全通し、リレーつばめ号が廃止されたことで、このアプローチ線もお役御免となりました。説明の便宜上、「非電化の線路」「この線路」と書きましたが、実際には架線や架線柱だけでなく、線路も撤去されました。

 18:27に到着するのは八代駅。熊本〜新八代間は、九州新幹線が部分開業した後でも、優等列車としてリレーつばめ号が頻繁に往来していましたが、八代駅は、その段階で在来線の特急つばめ号の往来がなくなったことで、在来線の優等列車の発着が大幅に減っています。どうでもいいことですが、上述のように、キハ185系は最前列の席と運転室の間にデッキがあるので、乗降扉が開閉する様子を観察することができます[⑥]

 八代で鹿児島本線、もとい、肥薩おれんじ鉄道線と別れて、列車は肥薩線へと入っていきます[⑦]。八代〜段間には、九州新幹線の高架橋の下を通るという場所がありますが、運転室の窓から新幹線の高架橋が見えるというところで、運良く、ちょうど新幹線の列車がやってきました[⑧]

 球磨川に沿って線路が敷設されている肥薩線[⑨]。川が見える車窓というものは、海が見える車窓ほどダイナミックではありませんが、肥薩線の列車内から見える球磨川の場合は、線路が川に沿って敷設されているため、進めど進めど川が車窓から消えないというところに面白さがあります。

 坂本駅で八代行きの普通列車と列車交換[⑩]。しかしこの普通列車、普通のキハ40系などではなく、人吉〜吉松間を走る観光列車いさぶろう号・しんぺい号で使用される車両で運転されていました。突発的な車両変更かとこのときは思いましたが、いさぶろう号・しんぺい号用の車両は、八代〜人吉間の普通列車で1日1往復、間合い運用があるそうです。もっとも、観光列車用に改造されてはいますが、ボックスシートの座席を持つ普通列車用の車両ですから、特急型車両による普通列車運用と比べると、乗り得感は薄いかもしれません。

 まだ陽の長い8月で、しかも西の九州とは言っても、19時ぐらいになると、さすがに辺りが暗くなってきているのが分かります[⑪](実際は写真よりもう少し暗かった)。そして、いつの間にか陽はすっかり沈んでしまい、月が綺麗な夜の中を走っていました[⑫]。いつの間にか、といえば、山あいを球磨川に沿って走る区間もいつの間にか終わり、人吉盆地の平地に入っていました。

 乗客がほとんどいない列車内[⑬]。ローカル線を走る特急はこんなものかなあ、そのうち運転区間が短縮されるかなあ、そもそも肥薩線は今後も持つんだろうか・・・なんて余計な詮索をしたくなりますが、夜の暗さと乗客が少ない静かな空間は、1人で物思いに耽るのには良い環境です。

 ずっと球磨川沿いの過疎地を走ってきましたが、久しぶりに街の灯りが車窓に現れました[⑭]。緒方から3時間33分にも及ぶ、九州横断特急5号への長い長い乗車も、もう少しで終わります。

 そして19:25、列車は定刻に、終点の人吉に到着しました[⑮]。私が乗車した緒方からの所要時間は3時間33分でしたが、列車の始発駅である別府からの所要時間は、4時間39分にも及びます。キハ185系は「時間をかけて結構な距離を走ってきたな」と感慨にふけりたいところかもしれませんが、15分後の19:40には、今度は特急くまがわ2号として、熊本へ向かわなければなりません。

 私も私で、「緒方から3時間33分、尻の痛みに耐えつつよくここまで来たものだ」と感慨にふけりたいんですが、次の列車との乗り換え時間は10分ほどしかありません。感慨にふけることなく、次の列車が待つホームへと向かいます。


                  10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20  21  22  23  24  25

DISCOVER どこかのトップへ

66.7‰のトップへ