◆11月1日◆
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※各画像はクリックすると拡大します。









 さて、いよいよ旅が始まりますが・・・、ここはいったいどこでしょう[①]。旅が夜に始まるといっても、例えばこれが21:30ごろの東京駅であるならば、例によってサンライズ瀬戸・出雲号に乗るというパターンでの開幕が想定されますが、目の前に書いてあるのは「北斗星」。それに「HOSTEL」という文字も見えます。現在時刻は20:00ですが、この場所は少なくとも駅ではありませんね。

 表紙でもお伝えしたように、今回はかつての寝台列車たちとの”再会”を果たすことが主要なテーマです。岩泉の日本海号、小坂のあけぼの号に泊まることは絶対に外せない事項ですが、「どうせならこのテーマに則って、馬喰町の”アレ”にも泊まろう」ということで、本格的に北東北・北海道へと向かう前に、東京は馬喰町にある、北斗星号の部品を再利用した簡易宿泊施設、「トレインホステル北斗星」に泊まっていくことにしました。

 私はだいぶ東京に近いところに住んでいるので、仮に翌朝に自宅を出て、それから北東北を目指して行ったとしても、この先の旅程は十分に成り立ちます。つまり、トレインホステル北斗星への宿泊は完全なる「蛇足」。が、いいんです、いいんです。「かつての寝台列車との再会を懐かしむ」という主題を掲げた旅をするにあたって、体を張ってネタを提供したということで・・・。

 その性質上、鉄道好きの方々には大変利用価値のある宿泊施設ですが、実はこのトレインホステル北斗星、馬喰町駅から徒歩0分どころか、そのすぐ脇に位置するという、とてつもない好立地を誇ります[②]。それゆえ、一般的なホテルほどの快適性を望むことはできませんが、特に鉄道が好きというわけではなくても、殊にその立地において、この施設は高い利用価値を持っています。

 「トレインホステル北斗星」を名乗るだけあって、EF510形の流星を模した壁紙、食堂車で使用されていた椅子(本物)、方向幕を思わせるデザインをした受付案内板など、フロントに立ち入ったその時点から”北斗星要素”が満載[③]。客室への入り口部分も、車両番号のプレートや号車番号札受け、E26系の個室扉にあるシールそっくりの「扉の開け方」など、心くすぐる要素に溢れています[④]












 3階の部屋にやってきました[①]。ひとつ忘れてはならないのは、ここは「トレイン”ホテル”」ではなく「トレイン”ホステル”」であるということです。全ての客室がいわゆるドミトリー、つまり相部屋仕様であり、それぞれの区画は個室にはなっておらず、鍵をかけることはできません。普通のホテルではなく、あくまでも簡易宿泊施設にしか過ぎないということは、予め頭に入れておく必要があります。

 なお、そのような仕様であることに対応して、1人に1台、無料で使えるロッカーが提供されます(先ほどの写真の右側に写っているものがそれ)。貴重品などを持たずに外出するときには、ここに入れておくと良いでしょう。

 かつての「開放式B寝台車」に該当する設備は、「ドミトリー2段ベッド」という名称になっていて、最安で2100円から利用できるという、トレインホステル北斗星で最も安い設備です[②]。上下2段の寝台に懐かしいあの表地、寝台灯、小型テーブル、上段の転落防止ベルト、通路の引き出し椅子など、本物の部品を数多く再利用し、かつての北斗星号の開放式B寝台車を忠実に再現しようと努められています。

 さて、開放式B寝台が並ぶ中、窓側にひとつだけ、他の区画とは壁で仕切られた異質な設備があります[③]。入り口の脇には「A個室1」とも。実は、トレインホステル北斗星には、1区画だけ、A寝台個室ロイヤルをイメージした「ドミトリーA個室(半個室)」があります(厳密には5階にもう1つありますが、女性専用につき問題外で、男性が利用できるのは本当に3階のここ1つしかない)。

 「どうせ泊まるならコレがいい」と思っていたところに運良く空きがあったため、今回は”ロイヤル”を選びました。最安4500円から(今日の値段は5000円)で、2段ベッドの倍以上はしますが、それでも本物のロイヤルの寝台料金よりは遥かに格安。1つしかないからか、あるいは本当に人気だからなのか、ドミトリーA個室はただの平日でも空いていないことが多く、一発で予約できた今回は幸運でした。

 カーテンを開けて中に入ると・・・、そこには、本物よりだいぶ狭いですが、実際の個室で使用されていた大型テーブルや椅子、クッション、照明器具などが使用された、”ロイヤルっぽい雰囲気”を宿した空間がありました[④]。入り口と外部はカーテンで仕切られているだけで、やはり鍵がかかる扉はありませんが、高い壁で仕切られることで、”開放式B寝台”より高い独立性とプライバシー性があります[⑤]

 上から俯瞰した図[⑥]。寝台灯や小型テーブル、鏡(いずれも本来は開放式B寝台のもの)もあるほか、操作しても何も起こりませんが、写真右下にあるように、オーディオ操作のパネルも移植され、少しでも往時のロイヤルを再現しようと努力していることが分かります。あとは”背もたれ上下機構”も維持されていれば嬉しかったですね。なお、この狭さ、そして1人用につき、「補助ベッド」はさすがに撤去済み。

 ここでちょっとアドバイス(?)。開放式B寝台にせよ、ロイヤルにせよ、所詮は「鉄道車両の寝台」だったので、寝心地はイマイチでした。そこで、この施設では、寝心地改善用にマットレスが提供されています。しかし、「寝心地も北斗星仕様に・・・」と思う方もいらっしゃるはず。
 そう思われる場合は、マットレスを敷かず、シーツだけを敷き、その上で眠ってしまえば、往年の「やったら硬いベッド」の寝心地がリアルに蘇ります。今回、私は実際にマットレスなしで就寝し、ロイヤルのベッドの感触を再現させました。

 各階には便所がありますが、そこでは、なんと個室の扉にツインデラックスの扉が使用されていました[⑦]。客室の寝台に数多くの部品が流用されていることは知っていましたが、まさか便所の個室の扉でもそのようなことをしているとは知りませんでした。上下ではなく左右に動く、指先でしか操作できないやけに小さなドアノブを引いて扉を開閉すると、思わず「そう、これこれ」と言いたくなってしまいます。












 設備の汚損を防ぐため、トレインホステル北斗星では、寝台での飲食は禁止とされています。そのため、2階に、飲食ができるラウンジと、調理が可能な共用キッチンが用意されています。「飲み食いをするための部屋」ということもあってか、2階のラウンジ・キッチンの入り口には、食堂車・グランシャリオのサインが掲出されていました[①]

 向かい合わせにされた4脚の椅子に、各テーブルに1台が用意されたテーブルランプ、そして武骨なテーブル・・・。テーブルクロスがないのが惜しい(これは買い取れなかったのでしょうか?)ですが、見た目のその具合は、あたかもスシ24・グランシャリオの一角を切り取ったかのようです[②]。台を支える脚こそ増設されましたが、テーブルも本物を流用した品のようで、”置き心地(?)”も完全再現。

 トレインホステル北斗星で使用されている各種の「部品」は、全てJR東日本所属車両から採られました。テーブルランプ[③]や椅子[④]なども、JR東日本車で使われていたものです。利用回数や時期から言えば、こちらの方が親しみはあるのですが、実は私の人生”初”北斗星は、当時JR北海道が担当していた「北斗星1号」でした。あの重厚感に満ちた調度品は、今となってはJR東日本仕様のそれよりも懐かしい存在です。

 テーブルランプや椅子といったものは、目線よりも下に置かれるものであるため、目につきやすく、かつ懐かしさを感じさせやすいものですが、ふと天井を見ると・・・、こ、これは[⑤]。このクリア部分とスモーク部分が交互する特徴ある模様の照明は、まさに北斗星号の食堂車・グランシャリオで使われていたそれそのものです。その飽くなき”再現”への努力は、目立たないところにまで及んでいました。

 ラウンジ・キッチン利用者用の便所への扉には、食堂車の客席への出入り口部分で使われていた扉がそのまま使われています[⑥]。「お食事」と「お手洗い」の親和性は皆無に等しいですが、用を足してこちらに戻ってくるときなら、グランシャリオという特別な空間に立ち入るときのあのドキドキを思い出せそうです。逆に、こちらから向こうへ行く際にこの扉を開けるときの気分たるや・・・。

 壁の下部には、ロイヤル・ソロ/ロイヤル・デュエット合造車両の廊下にあった引き出し椅子と、ロイヤルのオーディオ操作パネルが埋め込まれています[⑦]。この引き出し椅子は、開放式B寝台車特有のものに思われますが、先の合造車両は、個室寝台車でありながら、廊下に例のこの椅子がありました。同合造車両は、廊下が木目調に仕上げられていて、木目調の内装と引き出し椅子という不釣り合いさが印象的でした。

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 本物の北斗星号、そしてブルートレインが失われた今、東京のど真ん中で安価に”あの懐かしい北斗星”を体験できるトレインホステル北斗星に、是非一度泊まってみてはいかがでしょうか・・・、と大手を振って申し上げたいところですが、どうもそういうわけにもいかない出来事が起こったので、ここで私の体験として報告しておきます。

 結論から言うと、私の「ロイヤル」に侵入者が現れました。時刻は0時を過ぎ、既に布団の中に潜り込んでいたところ、なんの断りもなしに入り口のカーテンを開けて半個室内部に侵入する男が出現。その人物は、「入る?」「入る?」「入る?」と小声で連呼しながら(もはや日本語ではなかったかもしれませんが)、ゆっくりと私の掛け布団を引き剥がしていきました。

 ここでその男の存在に気が付いた私は、睨みを利かせながら「どうされましたか?」と答えて応戦。しばらく無言の睨み合いが続いた後、侵入者はこれまたよく分からない言葉を呟きながら撤退していきました。このとき、私はテーブルの上に財布とロッカーの鍵を置いていましたが、それらの貴重品を盗みにかかられていなかったのは幸いでした(今考えると、少なくとも財布はロッカーに入れるべきだったかも)。

 「怖かった」というよりもむしろ「あまりにも意味不明だった」というのが振り返ってみての感想ですが、鍵がかかる扉がない、相部屋形式のホステル(ドミトリー)だと、やはりこういった出来事は起こりえるようです。また、ひとつの実情として、2段ベッドが2100円から、半個室ですら4500円から利用できるという”安価な”簡易宿泊施設であるゆえに、残念ながら客層が高いとは言えません。

 今回は暴力も盗難もなく、精神薄弱(もうあえてこの言葉を使っておきます)と思しき人物が徘徊しに来ただけで済みましたが、暴力や盗難を狙う悪意のある利用者が同じ日にいないとは限りません。そして、そういった人物がいても、個室がないトレインホステル北斗星では、彼らの侵入を防ぐ手立てはないわけです。

 あまりにも金額の安い施設だとどのような階層の客が来ることになるのか。そして、見知らぬ赤の他人とはせいぜい布1枚でしか仕切られないとはどういうことなのか。今回のような出来事に遭遇することは、そう多くはないはずですが、皆さんがトレインホステル北斗星を利用される際には、どうかこの一件のことを頭の片隅に置いておいていただきたく・・・。


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