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 好天に恵まれたおかげで、今日は庭園が一段と美しく見えます(初めて来ましたが・・・)。庭園の中を歩くことまではできないのが残念ですが、もしそれが可能なら、空気の感触と香る匂い、絶え間ない水音や生き物の営みが作り出すまたとない一瞬の連続を五感で体験することができるのでしょう。全ては四季に応じて変化しますから、その移り変わりを楽しむもまた良し。

 和室のひとつも設けられなくなりつつある現代では、ここまで日本的なものに触れられる場所は、そう多くはないでしょう。かくいう私もそうです。単身世帯向けのマンションに和室はありませんし、別に和服を着て街を闊歩しているわけでもありません。が、考えてみれば、世の中が洋で満たされてゆくからこそ、それと対照的な和が引き立ってくるということはありそうです。

 なお、念のために申し添えておきますが、ここは別に日本庭園の施設ではありません。写真撮影禁止と言われているがためにその写真がないだけであって、実際には、美術品の展示も見てきています。よって、美術品と庭園の両方を心ゆくまで楽しもうとすれば、足立美術館というのは、非常に「ボリューミーな」施設であると言うことができるわけです。

 足立美術館の庭園は、枯山水庭園・苔庭・白砂青松庭・池庭の4つのエリアに分かれていて、その各々に美があります。




                       












 窓を額縁として見立てたとき、そこに描かれている絵は、自然の変化を受けて常に光景が移り変わる不思議な額縁になります。床の間に設けた窓を掛け軸として見立てたとき、そこに描かれている画は、二度と再現されないであろう景色が展開する生きた山水画になります。いわば、「その中身すべてが庭園を借景とした」絵や画になるというところでしょうか。

 庭園をガラス越しにではなく屋外から見られるところがあったので、そこに向かいました。やはり隔てるガラスを取り除くと、庭園がよりはっきりとした色合いで活き活きとし始めるように感じられますし、匂いや音、感触といった五感に訴えかけてくる要素にも触れられるなります。新緑の季節の庭園がこのような感じであるならば、夏や秋、冬はどのような姿を見せてくれるのか、気になってしまいます。

 「白砂青松庭」エリアには、風が整えたかのようななだらかな丘陵が作られ、そこに点々と配置された青松が、自らの姿が映し出す影と相まって、海岸線で海風に立ち向かう大きな青松の姿を想像させます。これは横山大観の作品「白沙青松」をモチーフに足立美術館の創設者が心血を注いで作り出した庭園風景であり、絵画の中の世界がリアルな世界に再現されています。

 美術作品(横山大観作品)は、正直なところ、そういうものに確固たる興味がないとなかなか関心を持って見学できないかもしれませんが、日本庭園の景色というのは、日本人としての本質的感性や価値観に訴えかけてくるものがあるというべきか、特別な思いがなくてもずっと見ていられます。これまでの乗り鉄旅では決して得られなかったような時間がそこにはありました。




                           















 戻りのシャトルバスとやくも号の接続があまり良くなかったので(駅での滞在時間が設けられるので、必ずしも悪いことではありませんが)、安来駅の近くで何か観光するべきものはないだろうかと探していたところ、「毘女像」なる像が中海(汽水湖)にあるらしいということで、ちょっと見てきました。なお、毘女像とは、「出雲国風土記に登場する人物の娘」の像のことのようです。

 さてこの像、像というからには銅像レベルに大きいとか、あるいはもっと目立つところにあるとかであれば悪いことはないと思うのですが、なぜか「両手で持てそうなくらいには小さい」、「陸地ではないが中海の真ん中でもないという中途半端な位置」、「堤防に隠れそうでそもそも見えない(特に車からはたぶん見えない)」という、ハッキリ言って「なぜこういう造りになったのか」という要素が多いです。

 もっと言えば、そもそもこの毘女像、”出雲国風土記に登場する人物の娘”ですが、この娘が鰐に襲われ、それに対する復讐心に燃えた父親が鉾で鰐を刺殺した・・・というのが物語であるならば、像になるべきであるのは父親の方ではないのでしょうか。その勇敢さを称えるとか、娘を思う気持ちに敬意を表するとか・・・で。一体全体「噛み殺された娘の像」とは。

 2泊3日の島根旅も、そろそろ帰路につく段階です。18:06発の特急やくも28号に乗りましょう。これは最終のやくも号ではありませんが、やくも30号に乗ったとしても、稼げる時間は1時間くらいであり、もう夕方になってしまっている今から1時間を確保したところで、これ以上新たにできそうな観光もありません。よってやくも28号で帰ります。

 安来駅の列車本数は少なくありませんが、大半は特急列車です。まあ、地方にはよくあることとは思いますが。


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