「いつかはJR線を乗り尽くしたい」と思いながらこの世界に生きること20年以上。
全国津々浦々に張り巡らされた路線網を全てなぞるということは、非常に気の遠くなることのように思われていましたが、
私は、かつて心に決めた”約束”を果たすべく、日本中を駆け回り、未乗車の路線を乗ることに勤しんできました。

東西南北へ行ったり来たり。朝も昼も夜も。晴れの日も雨の日も雪の日も。新幹線から普通列車まで。
JRの路線に乗って各地を通ったり訪れたりすることは、さながら、日本全国をくまなく探索するかのようでもありました。
その後、制覇率は順調に上がり、100%という数字を手にできる日も、そう遠くはないところまで来ていました。

どのようにしてJR線の全線乗車という記念すべき記録を達成するのか。私は、あるひとつの条件を課すことにしました。
それは、「21歳になるまでに達成する」ということ。即ち、20歳のうちに達成してしまうということでした。

普通にJR線の全線乗車を達成するだけであれば、いつでもできます。ただ、例えば、あのプリウスが20世紀のうちに発売されたことを
誇ったように、どうせなら、私も、「20歳のうちに達成できた」と言える方が面白いではありませんか。
JR線を全て乗ったという人は少なくないように思いますが、21歳にもならないという年齢で達成した人は、そう多くはないはずです。

山田線のうち、2015年12月に、上米内〜川内間が災害により不通となった(JR線として復旧する見込みがあるため乗車対象にする)ため、
「(仮)」がつくこととはなりましたが、それでも、長い間夢見てきたことが一応達成できる瞬間がついにやってきました。

今回、JR線の(仮)全線乗車を達成する地は、2016年3月のダイヤ改正で末端部が復旧する名松線の伊勢奥津駅に定めました。
盲腸線の終点駅であり、眼前で線路が途切れる伊勢奥津駅は、壮大な夢が完結する場所としてふさわしいところです。
そして伊勢奥津駅に降り立った瞬間、私は、内心に微笑みを湛え、誇らしげにこう呟きたいのです。「21歳に間にあいました。」と。
◆3月23日◆
Page:1

※各画像はクリックすると拡大します。









 今回の旅の目標、テーマは、一言で言うならば、「まだ乗っていないJR線を(一部の不通区間を除いて)全て乗り尽くす」ということです。現在、未乗車の路線は、JR東日本の東北地方とJR東海に残っています。両者は方面が全く違いますが、今回の旅の中で一度に乗り尽くしてきます。順番としては、先に東北、後に東海ということで、まずは新幹線で仙台へと向かいます。

 上野駅の新幹線改札口を抜けると、3月26日の北海道新幹線開業を祝うホワイトボートが目に留まりました[①]。なんだかんだ言っても「結構先のこと」のように思われていた北海道新幹線の開業も、もう間もなくというところまで来ています。ところで、「JR東日本ステーションサービス 上野駅新幹線乗換口」と書かれていますが、新幹線改札口という小規模な場所とはいえ、上野ですら業務委託をしているとは・・・。

 ホームへ誘導する案内板を見てみると、各新幹線の路線名の文字は、明らかに不自然なシール貼り[②]。どうしてそんなことになっているのかということは、もう言うまでもありませんね。北陸新幹線は、わざわざ「(長野経由)」などという注記をつけていますが、一度でも長野新幹線・長野行新幹線などと言ってしまった手前、北陸新幹線!と言い切ってしまうわけにはいかないのでしょうね。

 乗車するのは、上野6:38発のこまち1号です[③]。東海道新幹線では、東京6:00発ののぞみ1号が定期列車として走っていますが、東北新幹線では、東京6:00発のはやぶさ号・こまち号は臨時列車となっており、1号は東京6:32発というやや遅い時刻になっています。発車標は案内板以上に不自然な状態であり、「秋田    新幹線」という妙な隙間が。蛍光灯が当たるように角度をずらすと、北海道の文字が浮き上がってきました[④]

 エスカレーターを利用して地下へ降りると、北海道新幹線の開業を記念して製作されたという、過去と現在の所要時間の変遷や写真展、歴史などの展示コーナーがありました[⑤]。青函トンネルを含む区間では、様々な列車が運転されてきましたが、バトンタッチとはいうものの、開業直前の3月22日〜25日は、青函トンネルでは旅客列車が一切運転されず、”空白期間”があることが、他の新幹線開業とは異なる点です[⑥]























 こまち1号がやってきました[①]。今回は普通車指定席に乗車します。JR東日本では、最近、普通車でも枕をつけるということが流行っているようで、E6系の普通車も、座席には枕がついています[②]。一方、グリーン車の座席は、進化しない、あるいは昔よりも退化しているため、特に在来線の特急型車両とミニ新幹線車両においては、普通車とグリーン車の格差はかなり縮まっており、グリーン車を選びたくない状況になっています。

 上野の前後の地下区間を抜け、地上へ[③]。乗車区間は東京〜仙台ですが、今回は、「どっちでもいいや」ではなく、れっきとした理由をもってこまち号を選択しました。はやぶさ号を選んでしまうわけにはいかなかった、というわけです。

 その理由は、右側の車窓を見たい、即ちA席に座りたかったから[④]。皆さんも、2人掛けの座席と3人掛けの座席があれば、隣に来る人数、あるいは通路への出やすさなどを勘案して、2人掛けの方を選ぶかと思います。私もそうです。それゆえ、私は、どこの新幹線であれ、E席を選んでばかりいました。東北・上越方面の新幹線では、下り列車の場合、E席は進行方向左側となります。

 ただ、そんなことを繰り返していると、いい加減左側の車窓に飽きてくるわけです。たまには右側の車窓も見たくなるじゃないか、となります。ただ、下りはやぶさ号の場合、右側はA・B・Cの3人掛け席。これは困ったものだな、と。そこでこまち号が一肌脱ぎます。E6系を使用するこまち号であれば、普通車は2+2の配列であるため、A席(右側)を選んでも、そこは2人掛けの座席です。2人掛け/右側という2つの願いが両立されます。

 赤羽付近から埼京線の線路と並走するようになります。埼京線の列車や駅が見られるのはA席の特権・・・などと思っていると、目の前を205系が通過していきました[⑤]。置き換えが一応は完了した埼京線の205系は、E233系へのATACS対応改造工事が実施されている絡みで、予備車として1本が未だに残っています。もっとも、快適性はE233系よりも数段落ちるはずですから、こんな朝に205系に乗せられる側は困り顔でしょうけど。

 大宮から先は、上越下り・東北下り・東北上り・上越上りという複々線状態で北へと線路が伸びていきます[⑥]。埼玉新都市交通の沼南駅を過ぎると、上越上りの線路が高度を上げ、東北新幹線の上下線を跨いでいきます[⑦]。上越は左へ、東北は右へ進み、両線が分かれます。

 まずは小山を通過[⑧]。仙台以北の停車駅に統一性が全くないはやぶさ号・こまち号ですが、大宮〜仙台間は無停車である、ということは、全ての列車において共通しています。当然、東京〜仙台間では抜群の速達性を発揮しますから、仙台へ行き来する人たちに大人気。東京〜仙台間の客が多すぎて長距離を利用する客に影響が出ないよう、仙台以南のみの特急券の発券枚数を制限しているとさえ言われています。

 右側の車窓が見られているのは良いことですが、何せ太陽がこっち側にあるものですから、とにかく暑い暑い[⑨]。ただ、私の特性を考えれば、じゃあカーテンを下ろせばいいじゃないとはなりません。熱線吸収ガラスであったならば、いくらかマシになっていたのでしょうか?

 仕切り扉の上にある情報表示機を、「北海道新幹線開業の最終準備のため、津軽海峡線を走行する全ての列車は、3月22日〜25日は運休します」という旨の案内が流れます[⑩] [⑪]。面白かったことは、「運転を終了しました」ではなく「運休します」だったということ。つまり、3月21日の運転分をもって廃止・ダイヤ削除となったのではなく、形式上は、ダイヤは存在しながらも、「ウヤ」になっているわけですね。

 宇都宮を通過すると、320km/hでの運転が可能になります。案外、「さすがに320km/hは速い!」という実感はないもので、淡々と駅を通過しながら北上していきます。大宮以来の立派な都会的街並みが見えてくると、列車はまもなく仙台に到着します[⑫]。そして上野から1時間26分で、列車は仙台に到着しました[⑬]。はやぶさ号からもこまち号からも多くの乗客が降りていきました。






















 それほど寒い日ではないと言っても、関東と比べれば、東北・仙台の空気は冷たいものです。仙台で列車からホームに降り立ったときに感じる、身が引き締まるような心地良い冷たさは、何度味わってみても気持ちが良いもので、癖になります。

 西口の中央改札口前では、柱に北海道新幹線、天井からのタペストリーに北海道新幹線、床の上で青森・北海道物産展と、目前まで迫っている北海道新幹線の開業を大々的に祝うムードになっていました[④] [⑤]。よく言われることですが、今回の北海道新幹線の開業で本当に恩恵を受けるのは、東京でも函館でもなく、その間にある都市たちです(青森はむしろ不便になりそうですが)。

 人口が100万人を超えている仙台市は、東北地方随一の都市です。それは駅前に出てみた瞬間に実感します。歩いている人の数、交通量の多さ、高層建築の密集度は、他の県庁所在地を遥かに上回っています[⑥] [⑦]。交通の面で見ても、仙台には、東北地方で唯一の地下鉄があり、交通網の充実ぶりにおいて、頭ひとつ抜け出しているという状態です。その地下鉄は、2015年末に、新たに東西線が開業しました。

 これから乗るのは仙石線。しかし、JRの在来線各路線のホームが地上に置かれているのに対し、仙石線のホームだけは、エスカレーターを下った先にある地下に置かれています[⑧]。仙石線では、交通渋滞の解消などを目的とした高架化・地下化が進められていて、2000年3月、仙台〜あおば通間が地下で延伸開業するとともに、仙台〜陸前原ノ町間が地下へ移設されました。

 ホームに降りてみると、そこは本当の地下[⑨]。いや、地下だからそりゃ当たり前なんですが、JRの路線で地下を通っているという例は、それほど多いものではありません。線路が伸びてゆくその先も、暗闇の中で蛍光灯がぼんやりと光るという、まさに地下の線路そのもの[⑩]。仙台には仙台市営地下鉄がありますが、JRの路線に乗るというよりかは、その仙台市営地下鉄の一路線に乗るような気分になります。

 8:29発のあおば通行きに乗車します[⑪]。仙石線は、その名前の通り、元々は仙台〜石巻間を結ぶ路線でしたが、2000年に仙台〜あおば通間が盲腸線として延伸開業しました。そのため、仙石線を攻略するにあたっては、いきなり石巻に向かうというわけにはいかず、ひとまずあおば通へと向かわなければなりません。ちょっと面倒ですが、まあ1区間だけですから。

 205系がやってきました[⑫]。朝のラッシュ時に仙台に到着する列車ということで、まあ降りてくるわ降りてくるわ。通勤型車両、大量下車、4両という短さ、(地方の路線としては)高頻度な運転(次は6分後の8:35発)と、普通の路線の末端が地下になっているというよりかは、最初から本当に地下鉄として整備されたのではないか?というような気がしてきてしまいます。

 列車は2分で終点のあおば通駅に到着[⑬]。こちらの方が仙台よりもオフィス街に近いということもあってか、仙台で降りずにあおば通まで乗るという人は多いようです。車両は折り返しで多賀城行きとなります。


                  10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20  21  22  23  24  25
26  27  28  29  30  31  32  33  34  35  36  37  38  39  40  41  42  43  44  45  46


DISCOVER どこかのトップへ

66.7‰のトップへ