「暗闇の中で蛍光灯が光るだけ」という変わり映えのしない景色がずっと続く青函トンネルにおける楽しみは、ただひとつです。時刻は1分、また1分と進み、そして7:06になったその瞬間! 緑・紫・白の車両が、目の前を通過していきます[①]。相手は新函館北斗の初発列車、はやぶさ10号です。今このとき、北海道新幹線の旅客列車同士のすれ違いが初めて実現しました。しかも、場所は青函トンネルの中です。
今回は、何よりもA席の指定席券をとることが重要であるとしてきましたが、その理由は、結局、これだったわけです。「進行方向右側となるA席では、青函トンネル内におけるすれ違いを眼前で目撃することができる」。D・E席では、それはできませんからね。もうひとつ付け加えておけば、一応、A席は海側ですから、多少は青森湾や函館湾が見えるかな・・・というのもありました。
ところで、在来線との共用区間を140km/hで走るのは、「風圧により、すれ違う貨物列車が荷崩れする」といったことが理由のひとつですが、だからといって、本当にこれまでの在来線特急と同じ140km/hでなければならなかったのでしょうか?例えば、せめて160km/hにすることはできなかったのでしょうか。そうすれば、東京〜新函館北斗間での4時間切りもできたのではないかと思うのですが・・・。
竜飛定点・吉岡定点は、蛍光灯の間隔が他の場所よりも短く、通り過ぎる際は、「あ、今は定点を通過中か」というのが分かります[②]。ドコモの携帯電話をお持ちの方は、是非、そのとき、お持ちの端末をご覧ください。青函トンネルの中であるにも関わらず、アンテナが3本も立っています[③]。以前は、青函トンネル内は、当然全区間圏外でしたが、緊急時の連絡手段を確保するため、定点付近に限り、ドコモの端末を通じるようにしました。
もう少しで7:17というころ、トンネルの先が明るくなってきました[④]。長い長い闇を抜けて、海の底を通り、本州からの1番列車・はやて91号が、ついに北の大地に上陸しました[⑤]。北海道からの1番列車・はやぶさ10号が青函トンネルを抜けたときは、車内で拍手が起こったようですが、こちらでは何も起こらず、静かな上陸となりました。はやて91号は、「北海道に初めて上陸する新幹線旅客列車」という称号も賜っています。
北海道新幹線が青函トンネルを通過していくに当たっては、様々な問題が起こりましたが、半分冗談・半分真面目な話として、「東北新幹線・東京〜青森、北海道新幹線・函館〜札幌で分けて造れば良かったのでは?」なんて思います。これにより、いくつかの問題が解決されます。
新幹線が青森駅や函館駅に直接乗り入れることができなかったのは、そこから先の延伸を見据えなければならなかったからということが、その理由のひとつです。北斗星号を思い出すとお分かりいただけるかと思いますが、上野(東京)〜札幌を直通しようと思えば、青森と函館で方向転換をしなけばならなくなります。新青森と新函館北斗という形で、既存の駅とは違うところに新幹線の駅を置いたのは、それを避けるためでもありました。
この点に関しては、東北新幹線と北海道新幹線を繋げるのを諦め、最初からもう青森で打ち切り!函館を起点!というようにしておけば、青森駅と函館駅に直接乗り入れることができたのではないかと思います。そうすれば、中心駅へ行くための乗り換えは必要ありません。
また、両新幹線を完全に分けて建設するようにしておけば、青函トンネルを含む区間は、在来線専用となりますから、貨物列車のコンテナが吹き飛ぶとか、電圧が変わるから新しい機関車が必要だとかいう問題は生じません。客車夜行列車の牽引機の問題も、また生じません。三線軌条区間が存在しないことになりますから、架線の張り替えや、複雑な構造を持つ三線軌条分岐器の手入れの問題もなくなります。
もっとも、この場合、青森〜函館間は在来線の特急で連絡する必要があります。東京〜札幌を鉄道のみで通す場合、2度の乗り換えが必要となりますが、東京から函館といった場合は、現行と同じ1度の乗り換えで済みます。また、速達性の問題については、どうせ現状でも、新青森〜新函館北斗間のうちの55%は、在来線と同じ140km/hなわけですから、在来線特急で結んでも、劇的に遅くはならないでしょう。
青函トンネルを出てからしばらくすると、湯の里知内信号場を通過します[⑥]。本線の三線軌条の外側に、上下それぞれ貨物列車用の狭軌線路が2線ずつ敷設されています。何らかの事情で新幹線が貨物列車を追い越したり、貨物列車を留め置いたりするときなどに活用されるようです。
北海道内最初の駅、木古内に到着します[⑦]。これが新木古内などであったなら、それはもう失笑ものですが、人口4500人ほどの木古内町とはいえ、中心駅に新幹線の駅を併設したことの意義は、大きなものです。そして駅に到着すると、これまた熱心な歓迎が[⑧]。ただ、私も人のことは言えませんが、今日は大半の人が新函館北斗までの乗り通し組で、なかなか奥津軽いまべつ・新函館北斗で降りる人はいません。
北海道新幹線の車窓というのは、お世辞にも良いものではありません。まず、防音壁が多い[⑨]。森であれ住宅地であれ、曲がりなりにも何か見られれば、それは悪いことではありませんが、いくらなんでもコンクリートとにらめっこが楽しいはずはありません。この点に関しては、皮肉にも、在来線との共用区間については、トンネルこそ多いですが、防音壁はないため、眺めが随分とすっきりしています。
そして、全体的に内陸寄りです。在来線時代は、海沿いを走る区間がありましたが、北海道新幹線には、そのような区間はありません。一応、海が見えるところもありますが・・・、こんな変電所の構造物越しに見ても・・・[⑩]。また、函館山ですが、在来線時代は、函館湾越しに大きく見えましたが、ああ、小さい[⑪]。カメラ越しにズームして見ないとよく分かりません。そして、せっかく函館山が見えたと思ったら、これです[⑫]。防音壁め!
木古内からは新幹線専用区間に戻り、これまでの情けない走りではなく、新幹線らしい素早い走りに変わります。最後の最後で新幹線として本分を取り戻したはやて91号は、無事に新函館北斗に到着しました[⑬]。本州からの初列車が到着したということで、ホームはもう大騒ぎです[⑭]。
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