乗降扉が閉まり、列車が動き出すと、「ついに北海道を離れる時が来たのか」という思いはより一層強まります。もちろん、青函トンネルに入るまでは、まだ時間も距離もありますが、「道内最後の停車駅」を発車するということは、大きなことです。列車はしばらくの間、函館市の市街地の中を走り、五稜郭駅を過ぎると、函館本線から分岐する江差線に入っていきます。
ここで、予約なしで利用できるパブタイムの営業を行っている、食堂車・グランシャリオへ向かいました。予約制のディナータイムでのフランス料理(7800円)や懐石御膳(5500円)には手が出るわけがありませんが、北斗星号に乗ったのならば、「食堂車での夕飯」を味わいたいものです。そんな私の希望を叶えてくれるのがパブタイム。予約不要で、コース料理よりもずっと安く、ハンバーグやスパゲッティ、カレー、ピザなどを食べられます。
しかし、いざ食堂車へ向かってみると、食堂車は多くの人で賑わっていて、「現在は満席」とのこと。「6番目に案内するので、それまで、隣の6号車にあるロビー室で待っていてほしい。ただし、パブタイムのラストオーダーは22:30であり、それまでに案内できないかもしれない(要は、そうなったら、今回はちょっと諦めてもらいたいと)。また、相席になるかもしれない」とのことでした。現在時刻は22:05。さて、どうなるか。
結果から言うと・・・、もう間もなくラストオーダーの時間になろうかという22:25ごろに、無事食堂車へ案内してもらうことができました。もちろん、食堂車は未だに混雑していて、全てのテーブルが埋まっていました。注文伺い・配膳を行う従業員は2人で、この2人が、休む暇もなく、ずっとお客の応対にあたり続けていました(一方の人はまだ2年目の若い人で、ちょっと手際に難がありましたが)。
今回、私は「きのことベーコンの和風パスタ」と「ホットコーヒー」を注文しました。前者は1200円(当時)、後者は400円(当時)です。果たして「夕飯」と言えるかどうか、かなり怪しい程度のものではありますが、ディナータイムのコース料理よりも遥かに安い値段で、「寝台特急の食堂車での夕飯」を気取ることができました。食堂車という、食事のためだけに造られた特別な車両で過ごすひとときは、素晴らしいの一言に尽きます。
パブタイムでの食事を終え、部屋に戻ってきたときに列車が走っていたところは、トンネルの中。そう、列車は今、青函トンネルを走っています。もっと言えば、上りの北斗星号が青函トンネルに入るのは22:38ごろなので、食堂車で飲食しているときに、列車は、青函トンネルの中に入りました。日本一の長大トンネルで食べる夕飯・・・、トンネル内の蛍光灯しか見えませんが、それはそれで特別な時間です。
青函トンネルを抜けるのは23:16ごろ。青函トンネル内を走っている間はずっと聞こえていた、車内まで響き返してくる独特の走行音が止んだことを感じ取ったその瞬間こそが、本州への帰還の瞬間でもあります。ついに、列車は津軽海峡を越え、青森県内に入ってきた・・・、つまり、北海道を脱出し、本州へ戻ってきてしまった・・・、と! 旅の終わりが見えてくるようで、ちょっと嫌な感じですね・・・。
スーパー白鳥号や白鳥号の運転は既に終了しているという中、ふと右側をすり抜けていく1つの列車。札幌行きの夜行急行、はまなす号です。はまなす号には、道内1日目に、札幌〜千歳間で乗車しましたね。しかし、はまなす号は、日付を越えて走り、そして朝を迎える「夜行列車」です。今度は、夜や早朝に短区間で乗車するのではなく、長距離で、夜行運転の恩恵にあずかって乗車したいものですね。
上りの北斗星号は、下りの貨物列車と列車交換を行うために、蟹田に運転停車します。今晩の北日本は天気が良いようで、長万部を発ってから、まだ雪には遭遇していません。それどころか、蟹田の辺りは雲ひとつない快晴で、個室の窓から見える夜空は、大小・色合い様々な星々が、至るところで輝きを放っていました。旅の最後の夜にふさわしい、素晴らしい星空でした。
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