Page:21

※各画像はクリックすると拡大します。



                           















 神居古潭駅は、函館本線の旧線上にあった駅です。1969年10月、函館本線が滝川〜旭川間が複線電化されましたが、これにより旧線とは異なる経路をとることになったため、旧線にあった神居古潭駅は廃駅になってしまったというわけです。現在はその地にホームや駅舎、蒸気機関車などが保存・展示される場となっています。

 神居大橋を渡ると、そこには蒸気機関車と駅のホームがありました。ホームは残っているものの、線路は剥がされてサイクリングロードとなっており、線路に相当する場所からホームを見るという体験ができます。隣の駅は納内と伊納になっていますが、伊納は、2021年3月のダイヤ改正で廃駅となり、これで旧線でいうところの連続した2駅が共に姿を消しました。

 かつてのホームの上には緑が生い茂り、その草葉が作り出す木陰が、涼しげな空間を作り出します。それは気温的もそうですが、瑞々しい緑色というのは、視覚的にも涼やかに感じさせます。ここでちょっとホームに腰かけて線路側に足を下ろし、風で枝葉が揺れる音に包まれれば、そこには夏の北海道が織り成す「ちょっと幸せな時間」があります。

 旧駅舎は1989年に復元されたもので、サイクリストの休憩所も兼ねています。明らかに前時代的な雰囲気を湛えながらも、市街地からやや離れた地に根を下ろして悠然と構えるその姿は、50年以上の歳月を越えてきた者としての風格を・・・と書きかけて、これが復元されたものであることを思い出しました(明治期の数少ない駅舎建築として貴重であるため”復元”したという説明は「?」ですが笑)。

 そのうち行かねばと思っていた神居古潭駅に行けて、私はだいぶ満足しました。




                         














 今回、旭川からレンタカーを借りた本当の目的は、”宗谷本線の廃駅(予定)巡り”でした。2021年3月のダイヤ改正で宗谷本線の駅が大整理されるという情報を聞いていたため、そうなる前にその姿を拝みにいこうという考えでした。本当は、名寄市で催されるひまわりまつりを見るのが先にあり、それに廃駅巡りがくっついてきたのですが、ひまわりまつりが中止という憂き目に遭い・・・。

 神居古潭駅を後にした私は、車を北へ走らせ、南比布駅にやってきました。この駅も、2021年3月のダイヤ改正で廃駅となりました。お、どうやら、私と同じ考えの人が来ているようですね・・・(その人は車ではなかったようでしたが)。

 南比布は、単式1面1線の板張りホームの駅で、「まあ廃駅になるのもさもありなん」という印象。「本場の味 サッポロビール」の駅名標は、このような非常に小さな駅にさえもある広告でしたが、後日、これが大半の駅から撤去されるという報を聞き、特に深い思いがあるわけでもなく撮影した、「縦書き琺瑯の駅名標+サッポロビールの広告+駅名標」の写真が、急に価値を持ってきました。

 直線上に設けられた南比布駅は、快速なよろ号にとっては通過駅でした。そして今、キハ40形単行の快速なよろ号が、南比布駅を軽やかに通過していきました。キハ40形の牙城であった宗谷南線も、H100形が投入されたことにより、現在では一部の列車を覗きH100形による運行に変わりました。快速なよろ号における運用は、キハ40形にとっては花形運用のひとつでした。

 青空とローカル線らしい駅。こんなどうということもない組み合わせも、実は結構価値があるのかもしれません。




                     












 北比布駅に来ました。南比布駅は、線路の上を国道40号線の高架が通過していて、車通りが少々賑やかにであるとともに、”上空の見通し”に難がある駅でしたが、こちらは稲作地帯の中に設置され、遠くの山々も青空も一望できるということで、南比布駅よりも優れた環境に立地している駅でした。こうも絵画チックな景色が見られる駅って、実はそう多くないと思います。

 青空に見つめられている駅ホームは、こちらもお馴染みの板張り仕様。上面を歩くたびにコツ、コツ、コツ・・・という音が鳴ってくれるのも同じです。上屋などはあるはずもなく、雨風は待合室で凌ぐことになりますが、晴れているならば、ちょっとした陽射しぐらいなどなんてことはない・・・と思えるはず。このホームに居ながら、お日様と涼風を身に受けて列車を待ちたいものです。

 2020年の夏は、北比布駅にとっては最後の夏でした。私も、こうやって多くの写真を撮影することによって、後からそれを見返したときに「ああ、そういう駅もあったな」と思い出すことでしょう。しかし、列車の乗ってこの場所を通過したときに、「そういえば、ここにはあんな駅があったな」と思い出すことは難しいと思います。ホームも待合室も解体され、自然に還ってしまった駅は、なかなか顧みてはもらえません。

 あまりにも爽やかで、あまりにも静かで。賑やかさとは対極にあるこの駅は、旅で昂る心における清涼剤のようなものでした。


TOP                    10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20
21  22  23  24  25  26


DISCOVER どこかのトップへ

66.7‰のトップへ