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※各画像はクリックすると拡大します。



                                         





















 1号車に乗り込みます。元がキハ47形であるとは思えない生まれ変わりぶりですが、先に見ていただいた写真の通り、外は逆に種車の面影を色濃く残しているので、内外でだいぶギャップがあります。

 写真を見ると分かるように、定員2人または4人のテーブル席と長テーブルに向いた独立席を組み合わせた座席配置になっていることから、ひとりで利用するときには、おのずとテーブル席が除外されます(知らない人とペアになるのは、いくらなんでも避けたいでしょう)。そういう意味において、伊予灘ものがたり号の”ひとり利用時の定員”は、実際の座席数よりも少なくなるので、非10時打ちで独立席にありつけたことは幸いでした。

 列車の性質上、折り返しの準備に時間がかかってしまうので、列車に乗り込んでから5分と経たないうちに発車時刻となるため、旅立ちは少々あわただしいです。伊予灘ものがたり号は、車内で楽しめる食事がウリでもあるので、食事券を購入しての乗車が前提となっていますが、決して必須ではないので、車内でメニュー表を開けながら軽食を頼むもよし、食事なしで列車への乗車に集中するもよしです。

 昔の私なら「ミニフランス料理に5,000円も出せるものか」と、食事券を買うことはなかったでしょうが、まあ、そこは学生時代よりも格段にカネがある社会人になりましたし・・・、今回の旅の原資は賞与でもあるので・・・、事前に「フランス料理松花堂弁当」の食事予約券を買い求め、伊予灘ものがたり号の旅の神髄に触れることにしました。

 ”胡瓜の冷製スープ”が提供されたその次に待っているのは、弁当箱に入れられた6種のフランス料理。地べたを走る古参気動車の中で食べるフランス料理には、高層階にあるレストランからの抜群の眺めもなければ、静寂に包まれる落ち着いた雰囲気もありませんが、人間の一種の創作活動から生み出された料理の価値は、”妙な場所で”味わっていたとしても、もちろん失われることはないのです。

 モノがフランス料理なので、正直言って量はそれほどないのですが、松山13:28発となると、時間帯的には明らかに昼食どき。私もこれを昼食と位置付けていたので、いかにしてこのフランス料理をもってお腹を満たすのかという問題がありましたが、結局乗車前にランチパックを少々放り込むことで何とかしました。・・・今になって思うと、メニュー表から何か追加注文すれば良かったのではないか、という気もしますが。

 ちなみにですが、今日はこの後に車の運転が控えているので、酒類は飲めません。さりとて、「どうあがいても本物にはなれない」ノンアルコールでごまかすくらいなら、アイスコーヒーを飲む方がよほど満足度があるので、そのようにしました。

 なお、今回出された料理は、⑫胡瓜の冷製スープ、⑮一口モッツアレラとミニトマトのカプレーゼ、⑯鱧のフリットオリーブソースマリネ/パテドカンパーニュ、⑰シイラのフレッシュトマトソース煮、⑱蛸と梅のライスサラダ、⑲牛モモ肉のロースト 夏野菜と共に、です。




                                         





















 向井原を過ぎると、予讃線のいわゆる”旧線”に入ります。特急が通過する新線・内子線の経路と比べると遠回りで所要時間もかかりますが、その代わり海沿いを走り、景色はこちらの方が遥かに優れているので、観光列車としての伊予灘ものがたり号は、この旧線のルートをとります。眺めが良くなれば、食事もなおのことおいしくなってゆきます。

 「地元の人々からも愛されている」というのがこの列車の特徴のひとつのようで、時折沿線でこちらに手を振る人たちが現れます。彼らのためにというわけではないでしょうが、伊予灘ものがたり号も基本的にはゆっくりと走るので、人々と目を合わせることも可能です。

 一通りの料理が出終わると、献立表には掲載されていませんでしたが、八幡浜の名産品”八水の竹ちくわ”が配られました。どうもこれは松花堂弁当の予約の有無に関わらず、乗車していた全員に配布されていたようです。先に記したとおり、弁当も量としては決して多くはないので、少しでも腹の満たしになりそうなものが出てきてくれるのは、”燃費が悪い”人間としてはありがたいもので・・・。

 列車は途中の下灘で10分停車しますが、ここで1号車の乗客全員がホームに出払っていったので、今こそが好機と車内の様子を撮影しておきました。言うに及ばず、伊予灘ものがたり号は海側の席こそ価値が高いですが、山側の席に当たっても「外れ」にならないよう、山側は床が嵩上げされ、少しでも海側が見やすくなるように設計されています。ひとり席が全て海側にあるのは、個人的には◎。

 多くの人々に見送られながら伊予灘ものがたり号は下灘を後にしますが・・・、いやはや、下灘駅も有名になりすぎてしまったというべきか・・・。私は2011年4月に初めてここを訪れましたが、当時は今ほどは賑わっておらず、まだ「知る人ぞ知る」という感じだったと記憶していますが、今やあちらこちらから観光客が訪ねてくるようになり、少なくとも秘境駅の風合いは薄れました。

 高野川〜伊予長浜間にかけて、列車はひたすら海沿いを走ります。串〜喜多灘間にある本村川橋梁は、列車を撮影するスポットとして名が知られていますが、逆に列車内から車窓を見る際にも有名な地点です。電線があるとか、道路があるとか、綺麗に晴れていないとか、ケチをつけだしたらキリはありませんが、伊予灘ものがたり号も、ここでは美しい景色を堪能するためにといったん停車します。

 喜多灘駅は、ちょうど大洲市と伊予市の市境が走っている駅ですが、偶然にも私が座っている1号車2番B席が、まさにその線の上になりました。




                                         





















 伊予長浜で進路を西から南に90度変更し、今度は海から川に沿う対象を変えます。五郎駅では、またしても地元の人々から盛大な歓迎を受けましたが、ここでは乗降扉は開きません(停車はしてくれますが)。このとき、ホーム側が海側になるのですが、キハ47形の伊予灘ものがたり編成は、山側の窓は開閉可能な状態で残されたものの、海側は固定窓に改められていました。

 伊予灘ものがたり号 八幡浜編は、運転停車はちょくちょくするものの、乗降可能な途中の停車駅は、伊予大洲のみです。といっても、ここで乗り降りする人はゼロ。私もそうですが、”伊予灘ものがたり号”自体を目的とするならば、最後の八幡浜まで乗り通したいという人が多いのでしょう。大洲市には、大洲城をはじめとした観光地もあるので、それへのアクセス手段として使うならば、伊予大洲で降りるのもアリですが。

 列車は伊予平野で乗降扉が開く運転停車を行います。反対側のホームには「鬼列車」のラッピングが施されたキハ32形の普通列車が到着し、一風変わった車両同士のツーショットが楽しめる時間・・・というのは単に偶然の産物であり、ここでは折り返し便(道後編)で使用する食材の積み込みと、逆にこの八幡浜編で使用した食器類の積み降ろしが行われました。この運転停車の本当の目的はそちらのようです。

 2014年に登場した初代伊予灘ものがたり号(便宜上、このように称しておきます)は、2021年に引退しました。私は7月に乗車しましたが、その引退を記念するヘッドマークが、編成の両端に掲げられていました。”観光列車”や”食事ができる列車”というと、全国的に水戸岡デザインのものが粗製乱造されていますが、そのような中でJR四国の社員自らがデザインしたという伊予灘ものがたり号は、目を瞠るものがありました。

 ガソリンスタンドを挙げての見送りも受けた伊予灘ものがたり号は、15:52に終点の八幡浜に着きました。松山から2時間24分という所要時間は、長すぎず短すぎずというところで、ちょうど良いくらいでしょう(これよりも長いとなると、あの”座席というより椅子”の席では苦しいかなと)。なお、キハ185系の2代目では、普通列車から特急列車に格上げされましたが、ごく僅かに所要時間も短縮されています。

 乗客は当然ここで下車しますが、添乗員は笑顔で乗客を見送ったのもそこそこに、折り返しの道後編の運転に備えた車内整備を始めます。揺れる列車内での”おもてなし”は、どう考えても心身共に疲れること請け合いなしだと思いますが、息つく暇もなくそれをもう一度やらねばならず、しかし抜かりなくやり遂げるプロの仕事ぶりには敬意を表します。


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