Page:41

※各画像はクリックすると拡大します。










 伊勢奥津行きが到着した後、数分経って、松阪行きの列車が発車していきました[①]。詳細な確認はできませんでしたが、こちらの列車よりは混雑しているようでした。2両目の後部では、三脚とビデオカメラを使って後面展望を撮影している人もいて、やはり、鉄道好きの人も多く(というか、8割9割はそうなのでしょうが)乗車しているようでした。

 ひとつ先の駅、「いせたけはら」を隠していた駅名標も、昨日から、両側の駅が表示されるようになりました[②]。家城〜伊勢奥津間は、2009年10月9日から運休し、2016年3月26日に運転を再開しました。運休期間は約6年半にも及び、災害などで不通になった区間が復旧するまでの期間としては、かなり長いものとなりましたが、2011年3月12日から運休している常磐線(の一部区間)は、確実にそれを更新しそうです。

 古びた駅舎は薄汚れており、駅前もなぜか未舗装と、全体的に、ちょっと陰気な雰囲気があります[③]。駅舎のすぐ目の前には、代行バスが発着していたバス停が残っていました[④]。昨日、家城〜伊勢奥津間が復旧しましたが、車両の回送が間に合わない都合で、3月26日当日に限り、朝に同区間を走る区間列車は、引き続き代行バスでの運転となりました。全ての便が列車で運転されるようになったのは、実は今日からです。

 随所に木材が見られる駅舎内[⑥]。平屋建てということもあってか、駅舎自体は木造のようです(外壁は塗り壁のようですが)。名松線においては主要駅として挙げられる家城駅は、有人駅で、みどりの窓口もありますが、いったい何ですかこの注意書きは[⑦]。営業時間は5:30〜20:20と言っておきながら、何回にも分けられた休止時間帯が多数あります。

 「あまりにも休止回数が多すぎやしないだろうか」、「あまりにも休止時間帯が長すぎやしないだろうか」と思っていましたが、計算してみたところ、営業時間(5:30〜20:20)である890分間のうち、約65%にあたる575分が休止時間でした。営業時間だと主張している時間帯のうち、65%がお休みっていったい・・・。「以下の時間帯のみ営業します」と案内した方が適切かもしれませんよ、これ。





















 家城でいくらかの下車があり(地元の人と思われる)、空席ができたので、家城まではロングシートに座ってきましたが、ここからはクロスシートに座ることにしました[①]。進行方向左側のクロスシートに居を構え、残りの時間を過ごしていくことにします[②]

 16:01、列車は家城を発車しました[③]。家城では13分の停車時間が設定されているため、家城にやや遅れて到着したものの、発車は定刻となりました。家城から先は、いよいよ昨日復旧したばかりの区間です[④]。被災以前に同区間を乗ったことはなく、今回が初めての乗車ですが、約6年半ぶりに列車の運転が再開したということで、私にとっては、ある意味、新規開業区間のようなものに感じられます。

 まずは伊勢竹原に停車します[⑤]。ホームの端に立てられている柵には、「祝 名松線開通八十周年」と書かれた横断幕がありました。これとは別に、「祝 運行再開 名松線」という横断幕もありましたが、なぜか、この列車が発車する前に片づけられてしまいました[⑥]。撤去される直前の瞬間をなんとか激写しましたが、もう少しだけ待っていてくれたら良かったのに・・・。

 関東よりも西ということで、桜の開花は、関東よりも進んでいます。車窓に、今ちょうど満開を迎えていると思われる桜の木が見えました[⑦]。溢れんばかりに咲き誇っているその様子は、名松線の新たな門出を祝っているかのようです。

 家城から先は、山間の狭隘な地帯を進んでいくようになります[⑧]。右も左も山という区間が多くなり、名松線の線路は、雲出川の右岸と左岸を行ったり来たりします。名松線と並行する県道15号線も、センターラインがない道幅の狭い道路で、すれ違いにも手間取りそうです[⑨]。頼りなさげなガードレールの先は川で、道路形状に翻弄されて運転操作を誤ると、大変なことになります。

 家城までの区間にトンネルはありませんが、家城から先は、いくつかのトンネルが現れます[⑩]。それだけ険しいところを走っているということの表れですが、その険しさは、同時に脆さでもあり、2009年の台風で家城〜伊勢奥津間が不通になったときは、同区間の約40か所で路盤流出や土砂崩れが起きました。それゆえ、同区間の復旧に当たっては、治山・治水工事を地元が行うことが条件とされました。

 松阪を出てから1時間24分、列車は終点の伊勢奥津に到着しました[⑫]。そして、これは、JR線の(仮)全線乗車達成の瞬間でもあります。このときを迎える前までは、「長い長い”旅”もついに終わるのか、と感慨深くなるのだろうな」と思っていましたが、実際には、そういった感情は湧き上がりませんでした。それは、やはり、「(仮)」であって、「(真)」ではないからなのでしょうか?























 北海道新幹線の乗車を完了した時点で、残る路線は太多線と名松線のみになり、どちらへの乗車をもって全線乗車を達成するのか、という問題が発生しました。しかし、私は、迷うことなく名松線を選択しました。

 それはひとえに、名松線が「線路が途切れる盲腸線だから」というためです[①]。駅名標の隣の駅は、「ひつ」のみ。この先の駅はありません。名松線という路線名は、「”名”張と”松”阪を結ぶ路線」であることに由来していますが、ここから先の名張方面への建設は、結局果たされずに終わってしまいました。それゆえ、線路はここで途切れます[②]。車止めをもって、スパッ!と途切れてしまいます。

 そもそも、私がJR線の全線乗車を標榜しようと思ったのは、全国に約20000kmも張り巡らされているという、その充実した路線網(総延長)にありました。この線路を辿っていけば、北海道へも、四国へも、九州へも、沖縄以外のどこへでも行ける。そんな壮大さに、私は魅了されました。約20000kmの路線網の、その全てを知り尽くしてみたい。その全てを辿ってみたい。これこそが、JR線の全線乗車を目指すようになった理由でした。

 今、車止めをもって途切れている線路を見ると、「ここを起点として始まる線路を辿れば、日本のどこへでも行ける」というように思います。それは、私の”初心”を呼び起こします。両端で別の路線に接続し、線路が途切れるわけではない太多線では、この感覚は得られません。「線路が途切れる路線(盲腸線)こそが、この長旅の完結にふさわしい」。こうして、私は名松線を最後の路線に選びました。

 復旧したてほやほやのためか、線路はまだ錆びつき気味です[③]。元々本数が少ないですから、幹線路線のように、綺麗に磨き上げられた状態にはならないかもしれませんが、もう少し輝きが欲しいですね。一応、昨日の運転再開よりも前から、訓練用の試運転列車を何度か走らせていますが、線路にツヤのある輝きをもたらすまでには至りませんでした。

 伊勢奥津発の列車は、主に2時間に1本の割合で運転され、17時台と18時台については、2時間台連続で発車していきます[⑥]。本数はたしかに少ないですが、2時間に1本という間隔は、朝から夕方まで、ほぼ終日守られ、あまりにも不均等になるということはありません。そういう意味では、本数は少ないながらも、利用しやすいダイヤを組むような配慮を感じ取れます。

 現在の駅舎は、2005年2月に完成しました[⑦]。地域住民センターなどを兼ねているため、平屋建てではありますが、横方向に広くなっています。この6年半、駅舎は、ある意味「巨大なバス停」として機能し続けてきましたが、ついに鉄道の駅舎としての本分を取り戻しました。2005年2月完成・2009年10月不通・2016年3月復旧という流れを考えると、現在のところ、「巨大なバス停」であった期間の方が長いということになります。

 「みんなで守ろう名松線」[⑧]。JR東海は、家城以遠を廃線にするつもりでしたが、「地元自治体が復旧に協力すること」を条件提示し、それに応じれば復旧をするということになりました。そこで、三重県と津市は、両者は、山と川の継続的な保守を約束し、復旧に際して治山・治水工事を行いました。復旧しろ・廃線するなと声高に叫ぶだけでなく、自ら鉄路の維持に協力する。これこそが、未来のローカル線に求められる事項です。

 駅周辺に小規模な町が広がり、周囲は山に囲まれている[⑨] [⑩]。いかにもローカル線の駅というこの雰囲気は、”雰囲気としては”、私はとても好きです。ただ、どんなにそう思ったところで、実際に住みたいとは思えないのは、やむを得ないところです。だからこそ、普段は縁のない、このような地域を訪れることというのは、旅行のひとつの醍醐味となっていきます。

 駅のすぐ近くにあるNPO法人の事務所では、レンタサイクルを無料で貸し出しているようです[⑪]。私が伊勢奥津駅にいる間にも、どこからか自転車を漕ぎながら帰ってきた人たちがいました。到着した便の折り返しで帰るのも良いですが、1本次の列車で帰ることにして、駅の辺りを自転車で巡ってみるのも良さそうですね。次回はそうしましょうか。

 名松線の復旧を祝う幟が立っていました[⑭]。今日はさすがに落ち着いていますが、復旧初日の昨日は、伊勢奥津駅でステージイベントが行われたり、特産品の販売や振る舞いが行われたりしていたようです。また、沿線住民が多数見送りに来たとか。名松線が、約6年半の眠りから覚めることができたことは、北海道新幹線の開業よりも、よほどめでたいことかもしれません。


                  10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20  21  22  23  24  25
26  27  28  29  30  31  32  33  34  35  36  37  38  39  40  41  42  43  44  45  46


DISCOVER どこかのトップへ

66.7‰のトップへ