音らしい音があるはずもない下沼駅周辺に、絶えず音がする場所があります。その音の発生源は、駅前の道を数十メートル歩いたその右にある、「権左衛門」と名付けられた湧き水[②]。なんと、こんなところに天然の湧き水があるんですね。
一見するとただの水道のように見えますが[③]、なんせ、湧き水です。止まることなく永遠に出てくるものですから、蛇口などというものはついているはずがなく、ホースの先からは、水が絶え間なく、勢いよく出続けています[④]。水の出方は、まさに「チョロチョロ」ではなく「ジャー」で、結構水勢があり、ペットボトルなどに溜め込む場合でも、満杯になるまでそう時間がかかることはないと思います。
綺麗な湧き水ですから、当然、飲用として使うこともできます。訪れた人がこの湧き水を飲めるようにか、ここには、ステンレス製のカップが用意されています[⑤]。湧き水は勢いよく出続けるので、「カップに注ぐ」というよりは、「カップを洗いつつ、水を残す」といった感じでした。湧き水はそこそこ冷たく、おいしいです(水のうまいまずいってなんだ?)。下沼駅を訪れた際は、記念に一杯飲まれてはいかがでしょうか。
永久に出続けるこの”タダ”の湧き水は、地元の方々にも有効に活用されているようで、下沼駅には似つかわしくないような中型トラックがやってきたかと思うと、運転手の方が降りてきて、ペットボトルに湧き水を入れていきました。飲み水として使うもよし、お米を炊くのに使うもよし、お皿を洗うのに使うもよし、何なら便所の洗浄水として使うもよし。この湧き水があれば、料理がおいしくなるとともに、水道代が節約できそうですね。
「最果ての地」と聞くと、「とにかく、それは遠いところだな」と私は真っ先に思います。宗谷本線は、その(鉄道における)最果ての地に向かう、唯一の路線です。需要はさほどでもありませんが、稚内へ至る線路は、今や宗谷本線の線路しかなく、重責を負っています。ただ、単線・非電化・木製枕木・ゆがんだ線路・雑草と来ると、なんだか非常に頼りなく見えてしまいます[⑦]。こんなもので本当に稚内へ行けるのか、と。
昔の宗谷本線は、樺太への連絡鉄道という旅客面における重責と、木材や石炭・海産物の輸送という貨物面における重責、の両方を担っていました。同じ線路でも、時代が時代なら、頼もしげに見えたのでしょうか。
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