今日の最終目的地・幌延。幌延町は、人口約2500人の小さな町です。かつては、幌延駅から、留萌駅へと延びる羽幌線が分岐していましたが、羽幌線は、国鉄のJR北海道への移行の直前の1987年3月30日をもって廃線となり、現在の幌延駅は、宗谷本線の単独駅です。もし羽幌線が現存していれば、今日の一夜を幌延で明かして、明日は羽幌線へ乗車していく・・・という流れを辿っていたかもしれません。
幌延駅は、特急停車駅だけに、みどりの窓口を有する有人駅となっています。と言っても、駅員がいるのは、7:40〜15:50の間だけで、まだ暗くもなっていないのに、もう無人駅になってしまっています[②]。特急停車駅としての格に見合うだけの駅舎を有してはいますが、窓口のブラインドが下ろされ、ただ蛍光灯が明々と点灯しているだけの誰もいない駅舎内は、早くも1日の終わりを告げているかのようです。
今日の宿は、駅から非常に違いところにあります。その宿は、駅舎を出て駅前を眺めたその瞬間、もう視界に入ってきます。駅から歩いて30秒未満、幌延駅前に居を構える民宿旅館サロベツが、今日の宿です[⑤]。
人口約2500人、しかも超有名観光地というわけではない幌延町ともなると、これまでに私が夜を明かしてきた街とは違い、複数の店舗を展開するチェーンのビジネスホテルや、内外を綺麗に整えたリゾートホテルはありません。今回宿泊する民宿旅館サロベツも、「株式会社サロベツ会館」という会社によって経営されていることになっていますが、実質的には、先祖代々の個人経営の旅館のようです。
一方、そのような個人経営の旅館でありながら、インターネットでの宿泊予約に対応しているという現代性を持っていました(というか、いまどきインターネットから予約できない宿は、かなり時代遅れと言わざるを得ないかと・・・)。駅から最も近い宿ということもあり、ここを宿泊先に決定しました。
「旅館」ですが、新館の洋室が割り当てられていました[⑥]。2人用の部屋なので、ベッドが2つ置かれていますが、ベッドと言っても、木製の台の上に布団を敷くという「なんちゃってベッド」。洋室の中に和室の要素を持ち込んだ、和洋折衷の部屋という気がしない・・・でもない。
実のところ、旅館に泊まるというのは、人生で初めてのことでした。これまでに旅の中で泊まってきた宿は、いずれもごく標準的なビジネスホテルで、1度だけリゾート(風)ホテル、列車ホテルがあったという程度。とにかく、旅館に泊まったということは1度もありません。
「ホテルとはこういうもの」という概念が形成されている身には、「旅館とはこういうもの」という点は、なかなか受け入れがたいものがありました。まず、いくら北海道とはいえ、冷房がないという点には驚きました(北海道でも、ビジネスホテルには冷房くらいありますね)。トイレや風呂は部屋の中にはなく、部屋の外にある共同のものを利用する。これも今までにないことで、正直、抵抗はありました。
車通りも人通りも少ない夜の幌延町は、一人旅をする者に、またとない感傷的な気分をもたらします。旅の道中はずっと一人で、何かを頼る相手も、話す相手もいません。街灯が通りを照らし、見知らぬ街を歩く”見慣れぬ顔”の男だけがそこにいるという夜の風景は、今の自分の心の内を映像化しているかのようでした。旅はたしかに楽しい、でもどこかに人恋しさがある・・・。”イナカ”に宿をとったからこそ見えてきた、新しい真実です。
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