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 0:50ごろ。私は、12号車にあるラウンジカーへ向かいました。この時間帯になればさすがに誰もいないだろう・・・と思いながら向かいましたが、予想通り、ラウンジカーには誰もいませんでした[①]。青森駅での機関車交換や青函トンネルの通過など、何か特徴的な出来事が発生している場合は、深夜であってもラウンジカーに人が集まりますが、深夜で何もないとなると、さすがに人はやってきません。

 BGMとしてクラシック音楽が延々と流れるラウンジカー。この広い空間を一人占めするという、ある意味展望スイート以上に贅沢なことをしてしまっています[②]。食堂車と同様に、決して派手な内装ではありませんが、波型に配置したソファー[③]、ソファーと壁の間の照明[④]、鈍いぎらつきを放つ革張りの椅子[⑤]、片側にだけ集中して取り付けられた丸い筒形の照明[⑦]など、どこか未来的なものを感じさせる空間となっています。

 ラウンジカーは、入った左側はソファー、右側は革張りの座椅子が並ぶという構成になっていて、展望窓の前には、後面展望用の座椅子が2つ置かれています。座椅子は、初期状態では函館〜札幌間での海側を向いていて(回転できます)、ソファーも同じく海側に向かったものになっているなど、朝焼け・夕暮れの内浦湾を眺めることを意識しているのではないかと思います。

 人口希薄地帯を走っているのか、車窓からは、建物などの光があまり見えません。そんな中、線路を照らしながら突き進む物体が[⑩]。北斗星号か?と一瞬期待してしまいましたが、その正体は貨物列車でした。東北本線から青い森鉄道・いわて銀河鉄道に変わっても、関東と北海道を結ぶ物流の大動脈として、多くの貨物列車が通過しています。

 ラウンジカーは青森から再び最後尾となっているので、展望スイートの民でない人でも、後面展望が楽しめます。しばらくの間、後ろに流れゆくものたちをぼーっと見てみます。光が現れたか、と思っても、それは踏切のわずかな光で、みるみるうちに小さくなっていってしまいます[⑪]。光を放つ建物がないとしても、昼間なら、まだ後面展望をする価値があるかもしれませんが、何も見えない夜となると、ちょっとつまらないかも・・・。

 テーブルの上に、誰かが忘れて行ってしまったと思われるディナータイムのメニューがありました[⑫]。ちょっと中を見てみると、左半分にフランス料理と懐石御膳のお品書きが書かれ、右半分にEF510形の写真と北斗星号・カシオペア号の簡単な紹介が書かれていました[⑬]。ディナータイムを利用しなければ入手できないものですから、このまま拝借しようかと思いましたが、やはり誰かの忘れ物ですから、そのままにしておきました。

 ラウンジカーを後にして[⑮]、3号車・食堂車へ向かいました[⑯]。食堂車のきちんとした写真を撮っていなかったので、ここで撮っておこうと思ったためです。しかし、食堂車は照明が消されているとともに、入り口にロープが渡され、立ち入り禁止の閉鎖空間となっていました。

 北斗星号であれば、食堂車は通路も兼ねているため、深夜でも照明が落とされず、出入り自由となっていますが、カシオペア号の食堂車は2階部分にあり、通り抜け用の通路が1階に設けられていますから、そのような措置をとる必要もないわけで、深夜は完全に閉鎖されてしまうんですね。当たり前といえばそうなのかもしれませんが、「深夜なら行ける」と思い込んでしまっていました。

 結局、通り抜け用の通路だけ撮影して自分の部屋に戻りました[⑰]。いったん階段を下りてまた上がるという、2階建て車両の”船底”部分に通された通路を見ていると、在りし日の100系の2階建て食堂車を思い出す方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 2:19、盛岡に到着[⑳]。言うまでもありませんが、ここは運転停車です。青森〜盛岡間は青い森鉄道とIGRいわて銀河鉄道という第三セクターの路線を通って来ましたが、ここからは再びJR線に戻り、終点の上野まで東北本線を走ります。





 カシオペア号の普通の乗客・・・、つまり、2人組以上で乗車している人たちであれば、他には誰もいないというラウンジカーで深夜の語らいができるのでしょうが、相方がいない私は、話す相手がいませんでした。ああ、深夜にラウンジカーでひとりでいるというのは、なんとむなしいものなのか。

 これが例えば北斗星号であれば、1人で乗車している人も多くいるわけですから、深夜にふらっとロビー室を訪れた”見知らぬ人”との会話が弾むこともあるはずです(実際、今年の3月に上りの北斗星号に乗車したときは、札幌から宇都宮まで乗るという男性と語り合いました)。しかし、カシオペア号はペアで乗車することが前提となっていますから、人との会話というのは、基本的に、同行している相方とのものになります。

 私はここに、「全車2人用A寝台個室」というカシオペア号の特殊性を見ることができると思っています。寝台列車の魅力が「見知らぬ人との出会い」であるなら(個人的には同意しかねるんですが)、カシオペア号では、それが極めて起こりにくくなっています。それは全寝台が個室だからというよりも、「気心の知れた人と一緒に乗ることが前提となっているから」であると思います。

 個室の中では、見知らぬ誰かと出会うことはありません。それはあまり問題ではありません。ただ、気心の知れた相方という存在があることで、部屋を出て食堂車に行っても、ラウンジカーに行っても、心と関心は常にその相方に向いてしまいます。拠り所もなく寂しい思いをしている一人旅の人間と違い、常に拠り所がそばにあることで、わざわざ知らない人を求める必要がないわけです。

 各個室には便所と洗面台さえありますから、何なら、札幌から上野まで、一歩も外に出ることなく快適に過ごすこともできます。何か物が欲しければ、向こうから勝手にやってくる車内販売を利用すれば良いわけです。また、仲間がいるわけですから、寂しさを感じることもないでしょう。やろうと思えば、見知らぬ人との関わりを一切断つ環境を保ち続けることもできます。

 もちろん、実際には、より設備・サービスが充実している上級個室の人でさえ、個室の外に出ることはあるはずですが、こうした視点からカシオペア号というものを捉えてみると、やけに内向きで閉鎖的な列車であることに気づかされます。夕暮れ時にラウンジカーを訪れたとき、そこには複数のグループがありましたが、知る者同士の会話はあっても、知らない者同士の会話は全くありませんでした。

 一夜限りの出会いを求めて外へ外へと向いていた「好奇心」は、いつしか、自分だけの、あるいは自分たちだけの孤高の時間を求める「無関心」へと変わってしまったようです。無関心を貫いても楽しく快適な旅をできることが「豪華寝台列車」の真髄であるとするなら―それは社会と人々の志向の変化を反映して―これから誕生しゆくクルーズトレインとやらも、どれだけ閉鎖的であれるかを追い求めるような気がします。

 



































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