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 利用客の少ない小さな駅は、乗降客を通したらさっさと扉を閉めて発車してしまうのが普通ですが、この名寄行きの普通列車は、扉を開けたままアイドリング状態で待機していて、なかなか発車しようとしません。

 どうしたのだろうかと思っていると、旭川方面から、キハ183系の特急サロベツ号が姿を現しました[①]。キハ54形の横を通過し、終点の稚内へ向けて、ラストスパートをかけるサロベツ号[②]。たまに、単線区間で、特急列車が普通列車を待つという不可解なことが起こることがありますが、今回は、普通列車が特急列車を待ちました。これこそが正しい上下関係だと思うんですけどね。

 兜沼駅の駅舎は、木造駅舎でも車掌車駅舎でもない、コメントに困る普通の駅舎ですが[⑦]、しいて言うならば、屋根の形状などに特徴があるように思います。無人駅ですが、JR北海道の職員が駐在しそうな部屋はあるようです。駅構内の側線にも、作業用の機械が置かれているようですし、線路の保守作業や除雪作業の拠点地になっているということなのでしょうか。

 抜海駅と違い、待合室の前後には、緩衝地帯はありません[⑧]。お年寄りが使用する手押し車が待合室の中に放置されていたのが気になりましたが・・・。プラスチック製の椅子は4脚設置されていて、座布団も4つ置かれています[⑨]。駅ノートはありませんでしたから、秘境駅としては認識されていないようです(秘境駅でありながら駅ノートがない=秘境駅として認知されていない駅を発掘するのが夢なんですが)。

 駅の近くには民家がぽつぽつとあるようで、たしかに、秘境駅という雰囲気は薄いです[⑪]。駅前に建てられている地図を見てみると、兜沼が駅のすぐ左下にありますが、実際にそこに行くためには、ちょっと遠回りする必要があります[⑫]。左からの方が少し近いようです。

 兜沼駅の駅前は、道道1118号線の起点となっています[⑭]。駅(の前)が起点となっているということで、まるで鉄道路線かのようです。道道1118号線は、全長3.8kmしかない短い道ですが、起点(車止め)から道路(線路)が伸びていく光景を見たとき、この先の道路(線路)からはどんなものが見えるのだろうか、と期待を膨らませることができるところは、鉄道そっくりです[⑮]

 稚内行きの下り列車に乗るためにホームへ向かおうとしたとき、「ホームまで5M」という案内板を目にしました[⑰]。「ホームまで50M」であれば、まだそれを立てる意味も分かりますが、いや、5mなんていうのは目と鼻の先で、ホームは、もうすぐそこに見えているんですが・・・。たとえ大雪が降ったとしても、ホームがそこにあることが分からなくなるということまではないでしょうに。

 駅前の道から兜沼に行こうとすると、やや遠回りになって面倒なようですが、ホームの裏手に、沼へ続いていると思われる裏道が整備(?)されていました[⑱]。ホームで列車の到着を待っていると、この裏道から2人組の女性が現れてきたので、実際に裏道として活用されているようです。先ほどの地図を見ても分かるように、駅と沼の直線距離は短いですから、この短絡路があるとかなり便利なことは、間違いないですね。

 ワンマン列車の乗降口周辺だけが整えられ、あとは雑草が伸び放題という兜沼駅の下りホーム[⑲]。夕陽は水平線の下へ沈み、いよいよ夕闇が迫ってきています[⑳]。この小さな駅から乗り込む列車から降り立ったその地こそ、北の大地の北端に位置する、夜明かりに包まれる小都市です。













 音威子府以北の普通列車は、キハ54形の独壇場です。この区間においては、いつ、どの時間帯の普通列車に乗っても、必ずキハ54形やってきます。そんなわけで、宗谷本線への乗車の最後を飾る稚内行きの普通列車4335Dも、キハ54形でやってきました[①]

 勇知、抜海と進んでいくたびに、辺りが暗くなっていきます。18:39着の南稚内では、辺りはもう夜の暗さになっていました[②]。南稚内駅の利用客数は、稚内駅とほぼ同等で拮抗していて、南稚内では、地元の高校生たちが集団で下車していきました。

 「南稚内」は、当然、稚内の南にある駅。「稚内」は、当然、南稚内の北にある駅。南稚内の次は、いよいよ日本最北端の駅・稚内です。稚内駅は、ホームから車止めまでの距離が短く、許容できる過走距離が極端に短いため、進入する際は、15km/hという速度制限を受けます。やけにゆっくりと停まりに行くその様は、じれったくもあり、一方で、最北端の駅に到着して旅が終わることを惜しんでいるようでもあります[③]

 18:45、列車は終点の稚内に到着しました[④]。鉄道を利用してこれ以上北へ向かうことはできません。こここそが北のてっぺんであり、全ての駅は、この駅よりも南にあります。今この瞬間、私は、日本全国の鉄道利用者の中で、最も北にいる人間となりました。






























 日本全国に張り巡らされる鉄道網の中にある駅で、最も北に位置する駅、稚内[①]。この駅よりも緯度的に上にある駅は存在しません。北緯35度42分50秒にある上野駅と、北緯45度25分1.3秒にある稚内駅。東西の移動はほぼなく、南北の移動だけでここまで上ってきただけに、「北へ向かって進んできた」という実感は強いです。その頂点にやってきたんです。

 ホームには、主な駅から稚内駅までの距離を示したプレートが掲示されていますが、私にとって最も理解しやすい数値を示してくれているのは、やはり東京駅からの距離です[③]。東京駅から1574.5km・・・。数値で言われても、ちょっと実感が湧きにくいですが、はやぶさ5号で東京を8:20に出ても、稚内に到着するのは22:56だと考えれば、その遠さが実感しやすくなるでしょうか。

 北の始発駅が稚内なら、南の終着駅は枕崎[④]。本当の最南端の駅は西大山駅ですが、路線の終点で考えると、枕崎が最南端の終着駅ということになります。稚内から枕崎までの片道切符を握りしめ、様々な路線や駅に寄り道しながら九州の南へ・・・という旅は、一度やってみたいものです。

 稚内駅のホームの長さは6両分くらいのようで、1両編成ではやや持て余し気味です[⑥]。先ほどの普通列車には、地元の人と旅人が半々くらいで乗車してしまいましたが、ホームに残っていた旅人たちも、既にどこかへ行ってしまいました。稚内駅発の上りの最終列車は、19:24発の幌延行きの普通列車。このキハ54形は、このままその列車に充当されるのでしょう。

 緩やかな坂になっている道を進むと、その先が改札口です[⑧]。改札口と言っても、駅員が入るためのラッチはありません。かと言って、みどりの窓口とは別の「窓」が設けられ、そこできっぷのやり取りをするというわけでもないようです。事務室内から出てきた駅員が、みどりの窓口の脇に立ちながら応対するというやり方をしているようでした[⑨]

 駅舎は、2011年から使用されている新しいもので、中も小奇麗になっています[⑩]。駅舎の中からは、「最北端の線路」と書かれた看板を見ることができますが[⑪]、1代前の駅舎のときは、屋外に設置されていました。ガラス越しにしか見られなくなったというのは、新駅舎の悪いところのひとつかもしれません。車窓もそうですが、物は何でも、ガラス越しだとイマイチ映えないんですよ・・・。

 樺太が日本領だったころ、現地で機関車の汽笛代わりに使用されていたとされる鐘が、駅舎の中に展示されています。物自体は、当然「鐘」だけですが、それを手に持つ鉄道員の彫刻に吊り下げられた状態で展示されています[⑫]。「日本とロシア鉄道友好の証として 最北の駅で旅人をむすぶ」と書かれていますが[⑬]、改札口の近くではなく、屋外に近いところに置かれているのは、少しでもロシアに近くなるように、ということでしょうか。

 新駅舎は、2011年から使用されているものということだけあり、さすがに新しくて綺麗です[⑭]。ガラスを多く使用した開放感のある駅舎は、稚内の地の先に大きく広がる海を連想させます(明日は海を渡って利尻島に行きますね)。「日本最北の地」とされる宗谷岬は、碑が立っているだけで、それ以外には何もないと言われていますが、稚内駅とその周辺は、普通の街といったところです。

 ホームから見える車止めは、宗谷本線の線路がここ途切れることを示している・・・のかと思えば、どうもそういうわけでもなかったようです。駅舎の外に、なぜか線路と車止めが設置されています[⑯]。その脇には、「日本最北端の線路」と書かれた碑が立っています。

 稚内駅と宗谷本線の線路は、2011年の新駅舎の完成に伴い、やや南寄りに移動しました。駅舎の外に置いてある線路と車止めは、「(前略)その当時の記憶を継承するモニュメントとして稚内市が平成二十四年三月に元の位置へ復元したものです。」とのこと。この線路は、駅舎の内部を貫通しつつ、実際の宗谷本線の線路の車止めの手前まで伸びています。
 さらに言うと、この屋外の車止めの先にも、稚内桟橋駅(港)まで線路が伸びていたころを再現する「線路の線」が描かれています。

 今日は駅すぐ近くの稚内サンホテルに宿泊します[⑱]。稚内駅近くのホテルというと、他には、12階建てのANAクラウンプラザホテルがありますが、そんな高級路線に走ってもしようがないので・・・。また、全国展開するドーミーインもありますが、思っていたよりも高かったので、これも放棄。結局、駅から一番近く、素泊まりで5225円で宿泊可能であった稚内サンホテルとなりました。

 客室はごくごく一般的なビジネスホテルと同程度のものでしたが[⑲]、部屋の中でインターネットが使えないとは思いませんでした(公式サイトには「※無線LAN対応しております。」ってあったのに・・・)。一方、ロビーに行けばインターネットが使えるというような案内が机の引き出しの中に入っていましたが、指示通りにやっても繋がりませんでしたけど・・・。いまどきインターネットがろくに使えないホテルはちょっと、ね。

 今回は、窓から駅が見える部屋が割り当てられ、部屋からは、ホームに停車しているキハ54形が見られました[⑳]。それにしても、せっかく、「日本最北端の駅」の称号を得ているのに、棒線1面1線の駅というのは、ちょっと残念ですよね。まるで、普通列車しか停車しない中間駅かのようです。


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