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 列車は11:52に富良野を発車します。ノロッコ号においては、とにもかくにも天候が重要ですが、雲ひとつない快晴には至らなかったものの、晩夏の北海道というものを体で感じられるくらいには晴れてくれました[①]。真夏ではないが、しかし秋ではない。中途半端と言えば中途半端ですが、今回、そのような時期に北海道を旅したことで、「晩夏」という頃合いの魅力がよく分かりました。

 ノロッコ号の魅力と言えば、何と言っても、北海道の自然を視覚・聴覚・触覚・嗅覚で味わえること。雨天時のことがあるので、窓が全く存在しないわけではありませんが、晴れていれば、当然窓は出しません。窓越し・・・、いや、窓枠越しには北の大地の風景が広がり[②]、窓がないことでノロッコ号の歩みの音がより大きく聞こえ、手を窓枠に近づければ、涼風に触れることができます。そしてその空気は、どこかおいしいような気が・・・[③]

 車内を貫く銀色の配管[④]。そして、その下にある木炭ストーブ[⑤]。富良野・美瑛ノロッコ号は6月〜10月半ばにかけて運転される列車であるのに、なぜストーブがあるのか? そう思った私でしたが、やはり北海道という地を甘く見てはいけないようです。終盤の10月にもなれば、それなりに寒い日も出てくるようになり、寒さによっては、このストーブを炊くことになる場合があるそうです。

 観光列車として位置づけられる富良野・美瑛ノロッコ号では、このような乗車証明書が配布されます[⑥]。自由席の利用客を含む、乗客全員が貰えます。裏面には記念スタンプを押すための丸い枠(各駅名は停車駅)が設けられ、1号車にある乗車記念のスタンプを押すことにより、より思い出深く、価値のある乗車証明書になります[⑦]

 富良野・美瑛ノロッコ号は、ただゆっくりと走って車窓を楽しんでもらうだけの列車ではありません。車内には、乗務員の手作りの沿線マップやアナウンスポイントがストックされています[⑨]。こういったものの制作からは、車窓をより楽しんでもらいたい、富良野・美瑛の観光をより楽しんでもらいたいという意気込みが感じられます。この列車は、列車の運転に携わる人たちの気持ちも感じ取れる列車です。

 最初の停車駅は中富良野です[⑩]。「ようこそ富良野・美瑛ノロッコ号」と書かれたパネルが立てられているのが見えます。富良野・美瑛ノロッコ号には自由席の設定もあるので、富良野〜中富良野といった短距離でも、気軽に乗車することができます。全車指定席とされるのではなく、自由席が設けられていることで、この列車を「普通列車の増発」として捉えることも可能です。

















 1号車と4号車は50系を改造した車両ですが、ノロッコ号仕様にするにあたって、特に天井をいじりすぎたようで、鉄道車両では一般的な天井や壁に埋め込むスピーカーがなくなりました。その代わり、スタジオなどで使われる吊り下げ型のスピーカーが取り付けられました[①]。分散して複数個が埋め込まれる通常のスピーカーと異なり、ノロッコ号のこのスピーカーは1両に2個しかないので、車内放送の聞こえ方が独特のものになります。

 秘境駅の風情を感じる板張りのホーム[②]。この駅はどこでしょうか。今停車しているこの板張りのホームの駅は、ラベンダー畑で有名なファーム富田への最寄り駅、臨時駅・ラベンダー畑駅です[③]。富良野といえばラベンダー、ラベンダーといえばファーム富田ですから、この駅では、多くの下車がありました。駅は見ての通りの簡易な作りで、非営業期間は撤去されています。

 列車は美瑛に向かって走ります[④]。通常では退屈なものでしかない鉄道での移動も、富良野・美瑛ノロッコ号においては例外なのでしょう。次々と繰り広げられる見事な車窓に、多くの人が見とれていました。そこで印象に残ったのが、他の普通の列車ではスマートフォンを凝視し続ける人が後を絶たないのに、この列車では、そういった人たちがほとんど見られなかったことです。富良野・美瑛ノロッコ号は、乗る人たちを退屈させません。

 富良野・美瑛ノロッコ号には、駅ノートならぬ列車ノート(?)があります[⑤]。このようなノートはカシオペア号にも置かれていて、乗車した人たちが思い思いに言葉を書き残していきます。カシオペア号のノートと比較して気がついたのは、外国人(まあアジアの人が中心ですが)の乗客が残していった言葉の割合の違い。今まさに1号車にも中国人らしき乗客がいますが、そういった人が書いたと思われるものが多かったと思います。

 ラベンダー畑の次は上富良野に停車します[⑥]。列車交換のために少々停車するとのことだったので、ホームに降りてみました。客車の茶色一色というその塗装はとても地味であり、旧型客車を思わせないこともありません[⑦]。しかし、窓を開けて走るのが基本で、木製の座席が置かれているということを考えると、それはまさに旧型客車に近いものがあります。そう考えると、この列車の別の楽しみ方が見えてきます。

























 上富良野〜美馬牛間で、進行方向右側に、小高い丘の上にコンクリート製の建物があるという車窓が見られます[①]。そしてその周りを、なだらかな丘陵が取り囲んでいます。この建物は日の出公園展望台と呼ばれる施設で、周りの丘陵は、ラベンダーが見頃の6月下旬〜8月上旬は、色鮮やかなラベンダーでいっぱいになるそうです。今は9月上旬ですから・・・、遅すぎましたね。

 1号車、2号車、4号車は富良野・美瑛ノロッコ号専属の客車ですが、3号車に組み込まれる客車は、釧路運輸車両所から貸し出されるナハ29002「バーベキューカー」となっています。車端部に流しがあるなど、料理を扱うことを前提とした造りとなっています[②]。車内は木製のテーブルを木製の座席で挟むという構造で、この車両を本当にバーベキューカーとして使用する際は、テーブルにホットプレートが設置されます[④]

 一番後ろに連結される4号車に向かってみます。4号車の最後部は、金属製のポールによる仕切りがあるものの、ある程度後面展望が楽しめるような構造になっています[⑦]。美馬牛〜美瑛間には、富良野線で最も急な坂となる28.6‰の勾配(ド直線)があり、その場面を後面展望の形で見ると、列車がじりじりと坂を上っていることがはっきりと分かります[⑧]

 ・・・で、こういう後面展望ができるからではないでしょうが、4号車の客車は、「オクハテ510-2」となっています[⑨]。この車両形式を素直に読み取れば、紛うことなき展望車ということになりますが、それはこの後面展望のためではなく、レール方向に設置された外に向けられる座席のためでしょう。その証拠として、レール方向の座席はあるものの後面展望ができない(窓がない)1号車も、「オハテフ510-51」の車両番号がつけられています。

 「ノロッコの窓枠から〜♪ 見える赤い屋根〜は♪」・・・「赤いやねの家」は、小学生のときに歌ったことがある合唱曲ですが、美馬牛〜美瑛間には、「電車の窓から見える赤い屋根」という歌詞そのものと言える車窓があります[⑩]。もっとも、「隠れてしまったよビルの裏側に」ということはありませんが。富良野・美瑛ノロッコ号の車内放送でも触れられるこの家ですが、町や企業が持つ観光地ではなく、実はただの個人の民家です。

 ひとつご案内しておきたいことがあります。富良野・美瑛ノロッコ号の1号車と4号車には、一応網棚がありますが、網棚の位置が高いのか、それとも天井が低いのか、上方向への余裕がほとんどなく、リュックやスーツケースを置くことは不可能と思われます[⑫]。厚さのない手提げくらいなら置けそうですが、そんなものは、そもそも手元や足元にあっても邪魔になりません。荷物は座席の下へどうぞ(空間があります)。

 美瑛川とそこに架かる赤い橋が見えると、間もなく終点の美瑛です[⑭]。この橋には、「四季の橋」という名前もついています。そして12:55、列車は終点の美瑛に到着しました[⑮]。富良野から1時間3分という乗車時間は、長すぎず短すぎずというくらいで、ちょうど良いというところでしょうか。


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