◆8月18日◆
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※各画像はクリックすると拡大します。
















 ここは三江線・所木駅[①]。三次駅近くのホテルに泊まっていたはずなのに、なぜいきなり場所が飛んで所木なのか?

 三江線の秘境駅として名高いもののひとつは、長谷駅でしょう。ただでさえ本数が少ない三江線にありながら、下りは3/5が通過、上りは2/5が通過してしまうという駅で、周囲の民家は僅か、そして眼前に江の川を控えるという立地がもたらす秘境性も相まって、鉄道ファンの間では、その名がよく知られている駅です。せっかくこの辺りまで来たわけですから、是非長谷駅へ行ってみたいと思っていました。

 しかし、停車する列車の本数や時刻の都合上、三次〜長谷〜江津方面や、三次〜長谷〜三次という移動をすることは不可能です。そのため、予めタクシーを手配し、朝にホテルからタクシーで長谷駅へ向かい、長谷〜三次〜江津方面という移動をすることにしました。

 ところが、長谷駅へ向かう道路が途中で寸断(道路崩壊)していて、長谷駅へ辿り着くことができませんでした。運転手いわく「回り道がある」とのことで、回り道を通って向かってみましたが、「長谷駅だと思っていたところが船佐駅だった」というよく分からない事態が発生。結局、ふとそこに所木駅があったため、そこで降ろしてもらい、所木から列車に乗ることとしました。料金は2400円程度と計算していたところが結局5000円になる始末。

 もっとも、所木駅もなかなか味のある駅でした。緑が豊かで[②]、ホーム上に「立入禁止」と書かれて立つ柵は、現在は編成長の短い列車しか来ないことを伝えています[③]。1面1線で屋根もないホームは、質実剛健、「列車を乗り降りするところ」という駅の本質だけを極めます[④]

 タクシーで駅に着いてから3分程度で列車がやってきました[⑤]。所木駅からは、私と女子高生の計2人が乗車しました。車内はお年寄りを中心に比較的乗客数が多く、「三江線」というところの印象から想像されるものとは異なっていました。

 江の川と三江線は、切っても切れない関係にあります[⑥]。起点の江津から終点の三次まで、江の川に沿って右へ左へ曲がったり、あるいは橋で一気に対岸へ渡ったり。中国地方最大の川である江の川は、間違いなく、三江線の名車窓と言うことができましょう。

 船佐駅の駅舎は、ホームとは繋がっておらず、全く違うところに単独で建てられています[⑦]。これでは、駅舎からホームへ向かう過程で雨に濡れるなど、雨除けにすらならないような気がします。また、自動券売機や乗車駅証明書の発行機もないので、「駅舎」ならではの機能もないようで・・・。

 堰堤を越えて泡を立てる江の川[⑧]。タクシーの運転手によると、昨日は、三次の方は別に大雨にはならなかったとのことですが、川の流れは豪快です。離れたところから見ると、その白い泡は、まるで小麦粉をまぶしたかのようなきめ細やかなものに見え、美しく見えます。

 9:06、噂の秘境駅・長谷に到着しました[⑨]。なるほど、たしかに風情のある駅ですね。しかし、負け惜しみを言うつもりではありませんが、正直、思っていたほど凄い駅ではなかったように思います。写真の左後方に屎尿処理場の建物が見えるなど、「人の気配は全くなし」というような雰囲気でもありませんでしたしね。 なお、長谷駅の上り三次方面は、この9:06発が最終列車です。残りの3本は全て通過!

 まもなく終点の三次です[⑫]。2つの路線が分岐する駅では、しばらくの間、両線が並走することもありますが、三江線と芸備線はすぐに分かれるようになっています。写真奥の方でホテルアルファーワン三次へ向かって右へ曲がっていくのが三江線、左へ進んでいくのが芸備線です。





















 三次にやってきました。当時、三次駅周辺は工事が行われており、警備員なども配置されていましたが[③] [⑤]、三次市が公開している情報によると、駅前広場などの整備は、2015年9月に完了する予定とのことでしたから、皆様のもとにこの6日目分が届くころには、工事は完了しているかもしれません。なお、工事の影響により、駅の便所が使用不可能となっていたため、駅近くの観光センターまで行って用を足さねばなりませんでした。

 三次駅の駅舎は、一足早く、2015年2月末より使用を開始しました[⑥]。一見、横に広い箱型の駅舎に見えますが、改札口、自動券売機、みどりの窓口といった駅の機能は、全て「三次駅」とある、右側の一段低い部分に集約されているため、実質的にはかなり小さな駅舎です。

 さて、今日は江津〜三次間を結ぶ三江線を攻略していきましょう。誰もが認めるローカル線でありながら、全通は1975年というかなり遅いもので、定期優等列車が設定されたこともないという、かなり地味な路線です。一方、江の川を友とする風光明媚な車窓、1日計5本しか停車しない長谷駅、地上20mに位置する宇都井駅、何度災害に見舞われても復活する不死鳥ぶりなど、様々な特徴があります。

 これから乗車するのは、9:57発の石見川本行きです[⑦]。その次は4時間以上空いて14:15発の口羽行きが設定されていますが、その時間の空き方、どちらも1両編成という短さなど、いかに輸送量の少ないローカル線であるかということが分かります。

 駅舎に接する1番線に、10:03発の快速みよしライナー号となる車両が入線してきました[⑨]。広島〜三次間では、芸備線は、高速バスとの競合関係にありますが、芸備線は毎時1〜2本程度であるのに対し、バスは最大毎時5本。また、芸備線は、みよしライナー号でようやく所要時間的に張り合えますが、それは1日に4往復しかありません。更に、バスは駅より市街地に近い広島バスセンターに乗り入れるなど、全体的にバスが優位です。

 三江線の各駅には、三江線活性化協議会によって、石見神楽の演目名にちなむ愛称名がつけられています。三次駅は「土蜘蛛」駅[⑩]。愛称版の駅名標には、正式な駅名は一切登場しておらず、隣の駅の名前や三江線の駅の一覧も、全て愛称名で書かれています。

 9:57発の石見川本行きに乗車しましょう[⑪]。江津まで直通する列車ではなく、途中の石見川本を行き先としています[⑫]























 少しでも涼しい車内にするためか、太陽の光が差し込む側の窓は、全てカーテンが閉じられていました[①]。冷房効果の向上も兼ねているのでしょう。また、運賃箱上の運賃表によると、終着の江津は、三次から34番目の駅のようです[②]。うーむ、これは結構気の遠くなりそうな話ですね・・・。

 9:57、計7人程度の乗客を乗せて、列車は三次を発ちました。三次を出ると、列車はほどなくして進路を北西にとり、江の川・馬洗川・西城川が集う地点を越えていきます[③]。三次から次の尾関山までの一部は、非電化・単線のローカル線らしからぬ、コンクリートの高架橋となっています。

 透き通る青さを見せる青空、そこに浮かぶ綿あめの如き白雲、水をいっぱいに湛えた川面は水鏡となり、周囲に広がる緑の草木も含めて、あらゆるものを映し出します[④]。「夏らしさ」「夏の爽やかさ」を感じるのには、これ以上のものはないと言える車窓風景です。何もかも忘れて、窓に張り付き、ずっとこの美しい世界を眺めていたい・・・。そんな気分になります。

 例の通行止めの地点がやってきましたが・・・、おや?[⑤] んー、どうも、この写真を見る限り、看板にはきちんと迂回路が示されていて、それに従えば、長谷駅に行けていたのではないかという気がしてきたんですが・・・。いや、別にタクシーの運転手を恨もうというわけではありませんが、「どうあがいても長谷には行けなかったというわけではない」という事実を突きつけられてしまえば、釈然としない思いはあるわけで・・・。

 曲がりくねった先に長谷駅が見えます[⑥]。コンクリート造りの階段を上った先にある、崖に無理やり後付けしたという感の否めない骨組みとホーム、その下にある小さな駅舎。そんな長谷駅を、石見川本行きの424Dは、気にもかけずに通過してしまいます[⑦]。上り江津方面行きは、この424Dとひとつ前の422Dが通過し、14:30発の428Dから停車を開始します。ちなみに、三江線の中で「通過される駅」は、長谷しかありません。

 所木駅付近にかかる赤い橋[⑨]。これを初めて目にしたとき、私は、「二輪以下専用橋かな」と思いましたが、タクシーの運転手は、なんとこの橋を渡って所木駅方向へと向かいました。5ナンバーサイズのコンフォートですら左右にほとんど余裕がないというこの橋は、本来は車に通行してもらいたくないのではという感じ。Googleのストリートビューでさえ、見事にこの橋だけを避けています(川の両岸の道はきちんと撮影している)。

 江の川の際を通る三江線の線路[⑩]。今は川も穏やかですが、ひとたび豪雨が降ろうものなら、三江線は、橋脚の流出などの甚大な被害をもたらすことがあります。江の川の流れに合わせるように線路を敷設したり、一方で江の川を突っ切るように橋梁を設置したりと、江の川に従ったり従えたりする三江線は、江の川との付き合い方が重要な路線です。

 道路と線路が見事なまでに同じ曲線を描いています[⑪]。膨らんだり狭まったり、右へ行ったり左へ行ったりする江の川の形に、道路も線路も翻弄されてしまいます。単車線の道路と単線の線路、しばらくの間、仲良くお付き合いしましょうか。

 江の川の川下りを楽しむ人がいました[⑫]。あまり綺麗な水ではないと思いますが・・・、それでも、素晴らしい天気と色鮮やかな木々があれば、きっと爽快な旅路になるのでしょう。川下りは川下りでも、急流を行くスリルに溢れたものではなく、穏やかな川面をゆったりと移動するものなので、自然の雰囲気をのんびりと楽しむことができそうですね。

 「なんとなく じいちゃんとか ばあちゃんとか ようきたのうって。」[⑬] この言葉にどのような思いが込められているのかは分かりませんが、三江線を使ってやってきた孫に会い、たちまち笑顔になった祖父母の図、が思い浮かびます。鉄道が好きな私とて、三江線は、廃線にされても文句はつけられないなと思っていますが、乗る人がゼロでない限り、三江線は、誰かと誰かと繋いだり、誰かの目的を果たしたりしてくれます。

 「神降ろし駅」こと口羽駅に到着しました[⑭]。1分で発車しますが、列車によっては、ここを始終着としたり、ここで長時間停車をしたりします。


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