今日最初に乗る列車は、小倉6:39発の特急にちりん3号です[①]。小倉を発着する日豊本線の特急列車というと、今ではすっかりソニック号という印象になってしまっていますが、現在でも、1日に1本のみ、小倉駅ににちりん号がやってきます。それがにちりん3号というわけです。この他にも、にちりんシーガイア号が1日に1.5往復やってきますが、正真正銘の「にちりん号」は、このにちりん3号しかやってきません。
小倉発宮崎空港行き、走行距離345.9km、所要時間は5時間8分という長距離特急ですが、駅への入線は発車の5分ほど前と、意外と余裕がありません。車両は6両編成の787系です[②]。今や車内販売も行われていないわけですから、ここはひとつ、ちょっと早めに入線して、駅での買い物を行うだけの時間を与えてくれてはいかがだろうか、と思います。
では、列車に乗車しましょう。私が向かう先は、普通車自由席でも、普通車指定席でも、グリーン車でも、DXグリーン車でもありません。「じゃあ他に何があるというんだ」と思われた方は、JRでも787系と251系にしかない、あの設備をお忘れのようです。
1号車・8番、GREEN CAR SALOON COM PARTMENT[③]。「使用中」の表示に変え[④]、扉を開けた先に広がる大空間。そう、それは、787系が誇る最高峰の設備、グリーン個室であります[⑤] [⑥]。この男、にちりん3号のグリーン個室を、小倉〜宮崎空港間で貸し切りしようというのです。
今回の旅では、九州でこれだけはやっておきたい、と思っていたことが2つありました。ひとつは、長崎での軍艦島訪問。そしてもうひとつは、787系のグリーン個室に乗車するということでした。その夢が今、叶おうとしています。
現在、寝台列車の廃止が相次いでいます。その中で、例えばあけぼの号が廃止されたことで、シングルデラックスを持つ列車は、サンライズ瀬戸・出雲号だけになりました。トワイライトエクスプレス号が廃止されたことでツインという個室寝台が消滅し、北斗星号が廃止されたことでツインデラックス・デュエット・ロイヤルという個室寝台が消滅しました。「鉄道の世界から個室という設備が消えつつある」と思わずにはいられませんでした。
そのとき、私は、昼行列車における個室という存在に着目しました。「今まで、夜行列車の個室寝台には散々乗ってきたけど、昼行列車の個室には乗ったことがない」。「普通の座席とは違って売りにくい設備。いま個室を連結している列車も、もしかしたら、車両改造で個室が消えるかもしれないし、次の車両が導入されるときには、個室を用意しないかもしれない」。
そんな中、私は、787系にグリーン個室があることを思い出しました。定員は4人ですが、1人でも利用可能。不足人数分の運賃・料金は不要であり、また、グリーン個室料金は座席のグリーン料金×2にすぎないという良心的なもの。何より、昼行列車の個室に興味が湧いてきていたこと、そしてちょうど九州に行く機会があるということ。これはもう乗るしかない、ということで、10時打ちにてグリーン個室券を獲得しました。
グリーン個室がある787系の編成で運転される列車は結構多く、グリーン個室に乗ること自体は、さほど難しいことではありません。有明号やかもめ号、きらめき号、ひゅうが号にも、グリーン個室付きの編成が充てられる列車があります。しかし、私は、「どうせなら長時間の貸し切りをやりたい」と思っていました。上記の列車では、せいぜい2時間ちょっとしか乗れません。
「グリーン個室付きの編成で運転され、かつ長時間を走る列車」。この条件に基づいて列車を探した結果、候補は、小倉6:39発・宮崎空港11:47着のにちりん3号、宮崎空港17:19発・博多23:23着のにちりんシーガイア24号の2つに絞られました。当然、6時間4分も乗れる後者の方が良かったわけですが、それに乗るとどうしても旅程がうまく組めないため、やむなく前者を選ぶこととなりました。とはいえ、5時間8分でも十分に長いものです。
こうして、夢にまで見た「787系のグリーン個室をおひとり様で長時間貸し切り利用」が現実のものとなりました。
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