◆8月23日◆
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 今日最初に乗る列車は、小倉6:39発の特急にちりん3号です[①]。小倉を発着する日豊本線の特急列車というと、今ではすっかりソニック号という印象になってしまっていますが、現在でも、1日に1本のみ、小倉駅ににちりん号がやってきます。それがにちりん3号というわけです。この他にも、にちりんシーガイア号が1日に1.5往復やってきますが、正真正銘の「にちりん号」は、このにちりん3号しかやってきません。

 小倉発宮崎空港行き、走行距離345.9km、所要時間は5時間8分という長距離特急ですが、駅への入線は発車の5分ほど前と、意外と余裕がありません。車両は6両編成の787系です[②]。今や車内販売も行われていないわけですから、ここはひとつ、ちょっと早めに入線して、駅での買い物を行うだけの時間を与えてくれてはいかがだろうか、と思います。

 では、列車に乗車しましょう。私が向かう先は、普通車自由席でも、普通車指定席でも、グリーン車でも、DXグリーン車でもありません。「じゃあ他に何があるというんだ」と思われた方は、JRでも787系と251系にしかない、あの設備をお忘れのようです。

 1号車・8番、GREEN CAR SALOON COM PARTMENT[③]。「使用中」の表示に変え[④]、扉を開けた先に広がる大空間。そう、それは、787系が誇る最高峰の設備、グリーン個室であります[⑤] [⑥]。この男、にちりん3号のグリーン個室を、小倉〜宮崎空港間で貸し切りしようというのです。

 今回の旅では、九州でこれだけはやっておきたい、と思っていたことが2つありました。ひとつは、長崎での軍艦島訪問。そしてもうひとつは、787系のグリーン個室に乗車するということでした。その夢が今、叶おうとしています。

 現在、寝台列車の廃止が相次いでいます。その中で、例えばあけぼの号が廃止されたことで、シングルデラックスを持つ列車は、サンライズ瀬戸・出雲号だけになりました。トワイライトエクスプレス号が廃止されたことでツインという個室寝台が消滅し、北斗星号が廃止されたことでツインデラックス・デュエット・ロイヤルという個室寝台が消滅しました。「鉄道の世界から個室という設備が消えつつある」と思わずにはいられませんでした。

 そのとき、私は、昼行列車における個室という存在に着目しました。「今まで、夜行列車の個室寝台には散々乗ってきたけど、昼行列車の個室には乗ったことがない」。「普通の座席とは違って売りにくい設備。いま個室を連結している列車も、もしかしたら、車両改造で個室が消えるかもしれないし、次の車両が導入されるときには、個室を用意しないかもしれない」。

 そんな中、私は、787系にグリーン個室があることを思い出しました。定員は4人ですが、1人でも利用可能。不足人数分の運賃・料金は不要であり、また、グリーン個室料金は座席のグリーン料金×2にすぎないという良心的なもの。何より、昼行列車の個室に興味が湧いてきていたこと、そしてちょうど九州に行く機会があるということ。これはもう乗るしかない、ということで、10時打ちにてグリーン個室券を獲得しました。

 グリーン個室がある787系の編成で運転される列車は結構多く、グリーン個室に乗ること自体は、さほど難しいことではありません。有明号やかもめ号、きらめき号、ひゅうが号にも、グリーン個室付きの編成が充てられる列車があります。しかし、私は、「どうせなら長時間の貸し切りをやりたい」と思っていました。上記の列車では、せいぜい2時間ちょっとしか乗れません。

 「グリーン個室付きの編成で運転され、かつ長時間を走る列車」。この条件に基づいて列車を探した結果、候補は、小倉6:39発・宮崎空港11:47着のにちりん3号、宮崎空港17:19発・博多23:23着のにちりんシーガイア24号の2つに絞られました。当然、6時間4分も乗れる後者の方が良かったわけですが、それに乗るとどうしても旅程がうまく組めないため、やむなく前者を選ぶこととなりました。とはいえ、5時間8分でも十分に長いものです。

 こうして、夢にまで見た「787系のグリーン個室をおひとり様で長時間貸し切り利用」が現実のものとなりました。





























 個室内が暖色系の内装となっている編成もあるようですが、私があたったのは、寒色系の内装をした編成でした。なお、初めに大切なことを申し上げておきますが、「グリーン個室」ではあるものの、この部屋には鍵というものがありません。ご注意ください。

 個室内に入り、最初に思ったことは、「とても広い」ということ。平屋建ての車両にある個室なので、天井は高く、開放感があります[①]。それは1人だからなのでは、というご指摘を受けそうですが、4人で利用しても狭苦しさを感じることはないように思われます。室内で歩くことさえ可能な床面積を備えているこの個室を利用したときと[②]、座席のグリーン車を4人で向かい合わせにしたとき。さあ、どちらの方が狭苦しさを感じるか?

 4人用個室となっていますが、座席が4脚あるわけでもなければ、ソファーが4人分用意されているわけでもありません。この個室は、1脚の座席と3人分のソファーという構成になっています[③]。大きなソファーは座席に向かって置かれており、90度の角度をなすような形状です[④]。頭が当たる部分にあるカバーの位置でも分かるように、3人で座っても、お互いの体は、触れることすらないでしょう。

 1脚だけ置いてある座席は、座席のグリーン車で使われているものと同等品です[⑤]。もっとも、列をなして置かれるわけではないので、さすがに座席後ろの足置きはついていませんが。ソファーに座っている人たちと向き合って会話ができるようにという配慮からか、座席は45度ほど内側に回転させることができます[⑥]。博多〜西鹿児島間のつばめ号として走っていたころは、ここが走る会議室にでもなっていたのでしょうか。

 この座席ですが、肘掛け下のボタンが2つあるということに気が付かされます[⑦]。片方は、言うまでもなく背もたれのリクライニングですね。では、もう片方を押すと、いったい何が起こるのでしょうか? もう一方のボタンを押してみると、なんとヘッドレストが稼働しました[⑧] [⑨]。快適な時間を過ごすためには、背もたれの角度はもちろん、頭の置き方も重要です。

 封筒のような形をしているテーブルは[⑩]、このようにして開くことができる折り畳み式です[⑪]。蝶番の部分の金属部品が8つも丸見えなのはちょっと残念ですが、マホガニーのような色合いをした木目調のテーブルは、”グリーン”個室にふさわしいです。

 照明は、大きなものをひとつやふたつ用意するのではなく、小さなものをいくつも用意するという方式になっています[⑫]。大雑把に全体を照らすのではなく、複数の照明が合わさって照らすことで、室内の高級感が演出されます。壁から下を照らす照明は、カバーが網目状というもの[⑬]

 出入り口の扉の脇あたりに、情報表示を行う装置や照明のスイッチがあります[⑭]。オーディオ装置は今でも電源が入っていますが、サービスはとっくに終了しているので、何をしても音は出ません。また、照明は、さすがに全てを消して真っ暗にすることはできません(ここは寝台車ではない、というか?)。便所の利用状況を示す装置があるほか[⑮] [⑯]、その下の床付近には、荷物入れがあります[⑰]

 青い壁にあるつまみを引くと、中はクローゼットになっていました[⑱]。ハンガーは2つ用意されています。私服でも、スーツでも、上着を脱いでゆったりと寛いでくれ、ということでしょうか。更なる付帯設備としては、2枚の毛布(1枚はTSUBAM Eのロゴ入り)と[⑲]、芸術っぽい(?)絵があります[⑳]




















 アラウンド九州きっぷの有効期間は3日間であるため、昨日をもって有効期間は切れてしまいました。そのため、今日は普通の乗車券を使用しています。JR九州線で残された路線は、宮崎空港線と日南線ですが、宮崎空港線は田吉〜宮崎空港間1.4kmの路線でしかないため、小倉(北九州市内)〜志布志の乗車券に、田吉〜宮崎空港の乗車券を足しています[①]

 列車はまもなく宇島に到着します[②]。朝の6:39に小倉を発ったにちりん3号は、小倉を発車する大分方面の特急の1番列車です。中津6:47発のにちりん101号という列車がありますが、小倉〜中津間の行橋・宇島にとっては、やはりにちりん3号が1番列車となっています。時刻はまだ7時過ぎ、向こうに少しだけ見える周防灘も、まだどことなく夜明け前の面持ちをしているようです。

 グリーン個室は、トンネル内に入ると、明るさを抑えた中に上質な空間を魅せる、小さな書斎のような場所になります[③]。スポットライトで照らされた座席とテーブルは、まるで選ばれし者の着席を待っているかのようです[④]。落ち着きを払う社長室の一角にも見えます。

 間に太い柱があるのがどうしても気になりますが、グリーン個室には、2枚の窓が用意されています[⑤]。どうせなら、間の柱を取り払って、見晴らしも抜群の超大型の窓にしてほしいと思ってしまいます。正直、柱のせいで、窓が2枚あると言っても、そこまで眺望は良くないというのが実情です。

 毎度おなじみの別府湾[⑥]。豊後豊岡〜西大分間にかけて、別府湾の眺めが断続的に繰り広げられます[⑦] [⑧]。幸いなことに、グリーン個室は、海側に設けられています。ここの区間に限らず、海が見える景色を個室でゆったりと観賞できるというのは、とてもありがたいことです。

 海沿いを離れてやや内陸部に入り、都市の街並みが見えてくると、列車はまもなく大分に到着します[⑨]。8:14、列車は大分に到着しました[⑩]。ここで降りる人はもちろん多いです。小倉〜宮崎空港という運転区間ではありますが、長距離を通しで乗る人はそれほど多いものではなく、実際には、小倉〜大分、大分〜宮崎、延岡〜宮崎などで、普通のソニック号・にちりん号の代替として乗る人が多いのではないでしょうか。

 なお、小倉駅発車後の車内放送で、早速ながら検札を開始すると言っていましたが、私のところにやってきたのは、大分を発車した後のことでした。仮に満席であったとしても、グリーン個室以外の検札を完了するのに、1時間30分以上もかかるはずがないです。「グリーン個室の利用者なんているわけないでしょ」→「いや、どうも客がいるっぽいから検札しよう」という流れがあったのではないかと思わずにはいられません。


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