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 ”三次から三江線の浜原行きに乗車し、終点の浜原で江津行きに乗り換え、1つ先の粕淵で下車・宿泊する”。それが、今回の旅における当初の旅程でした。しかし、折からの大雪もあって、ここ数日、三江線の浜原〜三次間は、ずっと「大雪に伴い除雪作業および線路設備等の点検を行うため、当分の間、列車の運転を取り止めます」という状態にありました。

 この旅が始まる時点でも、その大雪による運休は解除されていなかったのですが、さて、今日2月12日。福塩線の列車にて無事に三次駅に到着するに至って、結局三江線はどうなっていたのか・・・?

 結論。駄目でした! ギリギリまで運転再開の可能性に賭け、しつこくJR西日本の公式サイトを覗いていましたが、結局、浜原〜三次間での運休は変わらないままでした。とはいえ、本当に深刻な状況になると、もはや代行輸送すら行わなくなる(並行する道路がかなり貧弱であるため)ので、とりあえず代行輸送をやってくれていることには、感謝しなければなりません。

 トヨタ・グランビアの「ジャンボタクシー」に乗り、三次駅を出発しました[①]。三次を発車した時点での乗客数は、私も含めて合計6人で、ジャンボタクシーの手配が1台で済んでしまう程度の人数でした。「祝日なのにこんなもん?」と拍子抜けしましたが、やはり「列車でなければ意味がない」ということで、乗車しに来るのを控えた人も多かったのかもしれません。

 代行輸送は、一応各駅に立ち寄っていくため、なるべく三江線の線路沿いを通るように走ります。いま窓越しのコンクリート上に見えているのは、三江線の線路ですが、線路は全く見えません[②]。除雪を行っても追いつかない、というよりも、状況的に、そもそも除雪に手を付けることができていないようで、雪がこんもりと積み上がっています。

 式敷に停車[③]。駅全体があまりの大雪で大変なことになっています。ここでは2名の降車がありましたが、その2人は、きっと三江線を日常的な生活の足として使っている人だったのでしょう。駅には、「地域の宝 乗って繋ごう三江線」との横断幕が掲げられていましたが、現実は厳しく・・・[④]。ただ、私は、三江線は「やるべきことはやった」と思っています。

 踏切を渡ります。で、線路はいったいどこへ行ってしまったのか?[⑤]。ここまで除雪に手が付けられていないと、もはや除雪車を走行させることすら困難でしょうし、気温の上昇等による自然融雪に相当部分を頼らなければならないかもしれません。

 作木口へ立ち寄るために、江の川に架かる橋を渡ります[⑥]。もとより、車同士のすれ違いは不可能という幅しかないものが、降り積もった雪によって更に狭くなっています[⑦]。以前に走った車が作った轍を頼りにしながら、慎重に道を・・・ではなく、結構豪快に進んでいきます。たぶん、ここまで来ると、ソロソロ走ったり止まったりすると、逆にダメなんでしょうね。

 香淀、作木口でそれぞれ1人ずつ降車し、なおも代行輸送に乗車しているのは、私と20代後半くらいっぽい男性の2人だけとなりました。そして、「鉄道ファン2人」を乗せたジャンボタクシーは、雪に埋もれる口羽駅に到着しました[⑨]。バス停標を埋める雪の高さを見てみると、今回の雪がいかに激しいものなのかがよく分かります[⑩]

 辺鄙なところだろうとなんだろうと、存在する駅には全て立ち寄り、降車客がいないにしても、乗車客を確認しなければならない(長谷ですらきちんと立ち寄った)ので、車1台分の幅しかなく、除雪もされず、雪で垂れる枝木が行く手を阻むような道であっても、ジャンボタクシーは突き進まなければなりません[⑪]。もはや新たなアトラクションに乗っているような気分です。

 「天空の駅」として名を馳せていた宇都井にやってきました[⑫]。その線路とホームは地上にはなく、我々の遥か頭上を通る高架橋上に設けられています。この宇都井駅のロータリーは、また結構な量の雪が積もっていて、「代行輸送をしろ」と命令されている立場でもなければ、とても走りたくはないようなひどい状況にありました[⑬]

 で、ここで大問題が発生。宇都井駅に立ち寄った際、運悪くタイヤがグレーチングの上で停止してしまい、いくらアクセルを踏んでも動けなくなってしまいました。駅にあった竹箒を噛ませる、後ろから押してみる、車内でジャンプして車体を揺らしながら加速してみる・・・など、運転手ともうひとりの乗客と協力しながらありとあらゆる手を尽くすも、ジャンボタクシーは脱出できず。

 ただ、よくよく調べてみると、このグランビアという車種は、雪道に弱いとされる後輪駆動方式の車でした(四輪駆動車の設定もあるが、今回のジャンボタクシーの個体はそれではなかった)。そのうえ、チェーンも未装着。さすがにスタッドレスタイヤではあったと信じたいですが、これはとても大雪の中を走るにふさわしい車ではありませんでした。

 結局、どうにかこうにかして何とか宇都井を脱出し、ジャンボタクシーは再び浜原を目指して走り始めました。そして20:15頃、列車の定刻からは1時間45分ほど遅れて、ようやく浜原駅前に到着しました[⑭]。ところで、料金は28700円と表示されていたのですが、タクシー会社は、これをそのままJR西日本に請求するのでしょうか?



















 我々(私ともうひとりの男性)以外には誰もいない浜原駅[①]。大雪は絶え間なく降り続け、道路を、車を[②]、そして駅周辺そのものを白く染め上げていきます[③]。人の往来も車の往来もなく、自動販売機と街灯くらいしか光源がないという環境においては、このかっちりとした造りの駅舎、そして駅舎から漏れ出る柔らかな明かりは、非常に頼もしく感じられます[④]

 浜原からは動いている列車に乗り継ぎ、粕淵に・・・と行きたかったのですが、今から1時間前ほどに、極めて残念な一報が私の元に届いていました。それは、江津〜浜原間までもが運休になり、またしても代行輸送に乗らねばならないという情報。同区間も列車の運転を見合わせる可能性があることは、事前に予告されていましたが、まさか本当にそうなってしまうとは。

 スピーカーから流れてきた情報によると、代行輸送のジャンボタクシーが到着するのは、21:25〜30頃とのことで、今から1時間以上も浜原で待たなければなりません。というわけで、ホームに出てみて、ちょっと「現在の浜原駅」を観察・・・[⑤]。キハ120形が2編成いるのが確認できますが、このうちのどちらかが、本来ならば「江津行きの普通列車」になるはずだったのでしょう。

 1番線に停車するキハ120形[⑥]。一応、本来ならば、江津〜浜原間は列車の運行が可能だったので、江津方面への往来はできるわけですが、浜原〜三次間については、もう相当期間運休が続いているので、浜原から三次方面に向かって列車が動くことはできません。

 深い雪に包まれる浜原駅[⑧]。木次線では、冬季になると、雪解けの時期まで全面的に列車が運休する”冬眠”が行われることが広く知られていますが、三江線で冬眠(浜原〜三次)が行われた事例は、少なくとも、ここ近年では記憶にありません。ただ、ラストランも近いということで、JR西日本としても、「このまま廃線までずっと運休にしておけ」とするつもりはないようです。

 目指す粕淵駅は、浜原のひとつ先の駅です[⑨]。ここを起終点とする列車もある主要駅・浜原とは異なり、1面1線の単なる途中駅ですが、三江線沿線の駅としては貴重な、わりときちんとした宿が駅の近くにあります。「一気に乗り通すのもなんだかもったいない」、「できるならいくつかの途中駅も訪問したい」ということで、今日はその粕淵に宿をとってあります。

 三江線の全ての駅には、石見神楽の演目名に由来する愛称名がつけられています。ここ浜原は「大蛇(おろち)」[⑩]。次の粕淵は「神武」で、それ以降、黒塚・岩戸・帯舞・鹿島・天神・八幡・・・と続いていきますが、言われてみなければ、石見神楽の演目名とは分からないですよね。いたって普通の駅名に聞こえます。

 隣の2番線にもキハ120形が停車していますが、こちらは、室内灯こそ点灯していなかったものの、エンジンはかかり続けていました[⑪]。この後、予め言われていた時刻よりも早く代行タクシーが到着したため、喜び勇んでいたら、「これはJRの乗務員用の車両」と言われてしまいました。なるほど、江津行きが運休になったので、その運転士はキハ120形の中でずっと待機していたようです。

 浜原駅の駅舎内[⑫]。ここにいれば、どんなに強い寒風も、横殴りの雪も関係ありません。代行タクシーはいったい何時頃にやってくるのか(本当に21:25〜30くらいに来るのか疑わしい)、皆目見当もつきませんが、ここでのんびりと待つことにしましょう。

 「多客につきご乗車できない列車もございます」との案内[⑬]。今のような騒ぎになる前の、全列車が1両編成で何とかなっていたころの時代に1度乗車したことがある身からすると、なんだか隔世の感がありますが、まあ、どんな路線でも、廃線前というのはそのようなものでしょうね。とはいえ、本質的には利用客がほとんどいない路線であることは、この時刻表が証明しています[⑭]
















 22:40頃、場所も変わってここは江津駅前[①]。ご覧の通り、私は、粕淵で下車せず、結局終点の江津まで代行輸送を利用してしまいました(浜原からのジャンボタクシーは、比較的年式の新しいハイエースで、四輪駆動仕様だったので、何事もなく走れました)。

 「江津〜浜原間も運休」との報に接したとき、私は迷いました。「三江線を一気に駆け抜けたくはない」、「粕淵で降り、宿泊し、そして翌朝に竹駅と明塚駅も訪れたい」と思う一方で、こうして江津〜浜原間までもが大雪で運休になったとなると、明日の朝、無事に粕淵を脱出して江津まで辿り着くことができるという保証はありません。

 たしかに三江線は大事。でも、今回の旅全体を俯瞰してみれば、三江線が占めるウェイトというのは、ごく僅かなもの。これで明日江津に行くことができず、その先の旅程に支障が出てしまったら大変なことに・・・。そのように考え、結局、私は、「粕淵の宿(ゴールデンユートピアおおち)を諦め、江津に宿(スーパーホテル)をとり、今日中に江津まで行く」という選択をとったわけです。

 あれほどに酷かった大雪はどこへやら。江津駅前は、地面に雪が積もっていないのはもちろんのこと、空を見上げてみると、そこには満天の星空がありました[②]。雲はなく、輝く星々は美しく、三江線を苦しめていた雪が、まるで遠い別の地での出来事であったように感じられます。

 本来ならば、粕淵に19:07に到着し、そして宿に入っていたのですが・・・、ここまでにご覧いただいてきたような出来事もあったせいで、時刻はもう22:45頃になろうとしていました。今日の江津駅の列車は、あとは23:11発の浜田行きを残すのみとなっています[③]。松江方面の列車は既に終了していて、当然のことながら、三江線の列車も既に終了しています[④]

 益田駅でも宣伝を見つけた「ありがとう三江線記念入場券」は、まさにここ江津が発売駅のひとつです[⑤]。三次駅販売分は、既に完売してしまっているとのことですが、江津駅と浜田駅の販売分については、まだ在庫があるようです。どうしましょうか、せっかくですから、買ってしまいましょうかね?計算上、旅費は少し余ることになっていますし・・・。

 山陰本線においては主要駅として位置付けられる江津駅は、もちろん有人駅で、みどりの窓口も設置されています。しかし、23:00も近いというような時間帯になると、無人駅になってしまうようです[⑥]。駅前にはタクシーが待機していますが、駅舎内は実にひっそりとしています。

 今日のお宿は、結局、スーパーホテル江津駅前と相成りました[⑦]。「このホテルに泊まり、江津5:53発の三次行きに乗車する」というのが、三江線お名残乗車における人気の行動パターンとして確立されているらしく、特に週末を中心に、満室となる日が珍しくありませんでしたが、今日は翌日が平日ということもあってか、当日数時間前の急な予約でも、空室がありました。

 江津駅前の再開発に伴って誘致され、2015年12月に開業したばかりの新しいホテルということもあり、室内は非常に洗練されていて、かつ清潔でした[⑧]。「玄関」の概念があるのがスーパーホテルスタイルで、客室の中では靴を脱ぐことになります[⑨]

 全ての特急列車が停車し、2つの鉄道路線が接続するそこそこの街でありながら、なぜかこれというビジネスホテルがずっとなかった江津駅前ですが、このスーパーホテル江津駅前の開業によって、ようやく全国チェーンの質の高いホテルが誕生しました。私も、過去に江津で宿泊することを組み込んだ旅を作ろうしたものの、「まともな宿がない」ために断念したことがあります。

 ちなみに、今日はジャンボタクシーによる代行輸送があった浜原〜三次間ですが、ご覧いただいた通りの大雪があったためか、明日は代行輸送すらも行わないとの案内がJR西日本より出されていました[⑪]。もし三江線の通過を明日に設定していたら・・・、でした。






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